第144話 ゼノの試練

俺を含め、みんなの石化は腰元まで来ていた。転移魔法陣の前で立ち尽くすみんなは、もう動くことができない。目は潤み、祈るように俺を見ていた。


俺はこの場所の管理人ゼノに呼びかけた。


「お前は俺達を調べていたな」


ゼノは俺だけを見ていない。俺を見て判断していたんだ。


ゼノは瞬時に俺の目の前に移動。

顔色を変えずに応えた。


「お前達は人類の味方だ。神の武器に相応しくない」


俺は不敵に笑った。



「全員調べたのか? 俺達の仲間はまだいるぞ」



その言葉に場は騒然とする。

俺達の石化は腰を過ぎて胸元に差し掛かっていた。

まだギリギリ腕は動く。


俺は石化が始まる腕をゆっくり上げて、アスラの元にいる、元勇者のグレンを指差した。


「勇者グレン……。あいつは俺達の仲間だ」


グレンは飛び上がった。


「にゃにい!? ふざけんなよタケル! 俺様がお前達の仲間だとぉ!? 俺はアスラ軍の参謀だぁーー!!」


ゼノはグレンを見つめていた。

その瞳は渦を巻き、特殊な力で過去を見る。


ゼノはどこまで把握できるのだろうか?

俺が、グレンから勇者パーティーを追放されたことも見るのだろうか?

グレンは仲間から嫌われて1人ぼっちになってしまった。その時、俺はそんなグレンを助けようとはしなかった。しかしそれは、グレンを想ってのことだ。

立派な勇者になって欲しい。そう想って、あえて1人にしたのだ。


俺達の石化は進み、もう首元までやって来ていた。無情にもペキペキと音を出し石化が進む。それは口、鼻、目と蝕む……。


俺は、グレンのことを今でも──。




"仲間だと想っている!!"




ゼノは振り返ると俺を見つめていた。


やれやれ、なんとか間に合ったか。


俺達の石化は解け、体は自由に動けるようになっていた。


僧侶リリーは転移魔法使いユユと手を繋いで飛び跳ねた。


「やったぁーー! 石化が解けてます!」


どうやら、ちゃんと見てくれたようだな。


ゼノはグレンを指差した。


「あの者が、お前達の仲間であることは認めよう。人類にとってマイナスな存在だ」


グレンがそんな位置付けなのは複雑だが、おかげでこの難関をクリアできた。

グレンはアスラ軍の参謀だ。明らかに敵側。しかし、俺の仲間でもあるのだ。


ゼノは不思議な眼力でそれを見抜いた。第一の試練はなんとか超えることができたが、同時にその緻密差がわかった。彼に小細工は通用しない。


グレンは真っ赤な顔になって飛び上がった。


「ざけんなよゴラァ!! 俺様がタケルと仲間だなんてありねぇーーだろがよゴラァッ!!」


名目上はそうだ。今、グレンはアスラ軍である。しかし、初対面のゼノはそれだけで判断しなかった。あの渦を巻いた瞳。あれは過去を見ていたはずだ。俺とグレンが仲間だった頃をしっかりと見て判断したんだ。


俺はグレンに向けて不敵に笑う。



「借りができたな。グレン」



グレンは目を丸くした。


「は!? か、借りぃい!? 借りだとぉ!?」


鳩が豆鉄炮を食らったように首を伸ばす。


「もしかして、俺が仲間だったから石化が止まったのか? てことは、俺はタケルの命の恩人? タケルが俺に借りを作った?? あのタケルが……俺に……借りを……作った??」


俺はニコリと微笑んだ。

それを見たグレンは飛び上がった。


「ダッハハーー! お前の命を助けたのはこの俺様だぁあ!! 感謝しろタケルゥウウ!!」


調子に乗ったグレンはアスラに自慢した。


「アスラ様見ましたか!? あのタケルが俺に借りを作りましたよ!」


アスラが人差し指を動かすと神樹操がグレンの頭をゴツんと叩く。


「ハギャアッ!!」


アスラは目を細めた。


「ゼノ。次の試練、神のカリスマはまだか?」


「まぁ、待て。その試練はこの空間にいる者全てに適応される」


「何? では人が来る度に待たされるのか?」


「神の武器を求める者が来たのは100年ぶりだ。頻繁には来ない」


「フン……。まぁ、タケルが次の試練に合格するとも限らんか。失敗すれば石になるんだからなククク……」


神のカリスマがなんなのかわからんが、アスラは第二の試練をクリアしたようだな。テラスネークの話では、試練は3つある。資格、能力、神のカリスマ。俺は第一の試練を突破した。

しかし、失敗すれば石化するとはな。やれやれ、厄介な試練だ。


ゼノが指を鳴らすと、その背後に3人の大男が現れた。頑丈な甲冑を纏い、それぞれが大きな武器を持つ。斧、槌、槍。その刃は鋭く、一打でも喰らえば即死レベルのデカさである。


ゼノは無表情のまま説明をした。


「これからこの者らと戦ってもらう。3人の武器を破壊、もしくは奪うことができれば勝ちだ」


ゼノが手を上げると、それが開始の合図となった。大男達は武器を構える。

しかし、その手には武器は無かった。


「「「 !? 」」」


目を見張る男達。

俺の手元には大きな武器が3本あった。

まるで森の木でも引っこ抜いたかのように、立てた武器にもたれかかる。



「武器を奪うのが勝利条件だろ? これでいいよな?」



歯噛みしたのはアスラだった。



「なっ!? い、一瞬で!?」



ゼノの眉がピクリと動く。



「合格だ。お前の能力は神の武器に相応しいと認めよう」



場は湧いた。



「タケルさん凄いです!!」


「やったやったーー! 一瞬で決まったぁ〜〜」


「流石はタケルぜよ!!」



ゼノが口を開くと、場は静まり返った。



「さぁ、最後の試練。神のカリスマだ」

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