第142話 アリアーグ
〜〜タケル・ゼウサード視点〜〜
ーーアーキバ城ーー
「タケル〜〜。ここにはアリアーグに続く転移魔法陣があるよ〜〜」
転移魔法使いのユユがダボダボの法衣をバタつかせた。
ここは元魔法銀行だから、アリアーグの魔法銀行に転移させる魔法陣があるのだろう。
「よし、じゃあその魔法陣を使ってアリアーグに行こう。虎逢真とテラスネークは捕虜の管理とこの国の護衛を頼む」
虎逢真は顔を真っ赤にさせた。
「お、おいもアスラを倒しに行くぜよ」
「いや、戦力は俺1人でも十分なんだ。今はアーキバ国にアスラ軍が攻めて来るのが怖い。虎逢真はオータクの力になってやって欲しい」
「そ、それはテラスネークだけでも十分っちゃ! お、おいはタケルと一緒にアスラを倒しに行きたいぜよ」
……妙だな。
なんだこの違和感。
「虎逢真……。お前、何か隠してるだろ」
「な、なんちゃぁあ!! なんも隠しとらんぜよ!! 惚れた女子に逢いたいなんて微塵も思っとりゃせん!!」
やれやれ。
わかりやすい奴だな。
俺は虎逢真に理由を聞いた。
「──なるほど。そのくノ一のビビージョに惚れてしまった訳か」
「いやぁ! げにまっこと恥ずかしいぜよ! こんな気持ちは初めてなんじゃあ。みんなの命がかかっとる時に……。すまん」
「いや。恋心は大切だ。お前は本気なんだな?」
「ああ! この気持ちに嘘はないっちゃ! 男に二言は無いぜよ。それに、もうおいとビビージョは恋仲になる約束をしたんじゃあ!」
「ビビージョは敵だぞ?」
「おいが助けてみせる!」
「フ……。よし、虎逢真も一緒に行こう」
「おおきにありがたいぜよ!!」
こうして、みんなの行動は決まった。
アーキバ国と捕虜の管理をするため、オータクとテラスネークは残り、俺と虎逢真、ユユ、僧侶リリーの4人はアリアーグに向かった。
ーーアリアーグーー
魔法銀行。
俺達は転移魔法陣から現れた。
僧侶リリーは店内を見渡す。
「誰もいないですね」
「アスラに制圧されているのだろう」
となると、迂闊に外に出るとアスラ軍の奴隷兵士に見つかってしまうな。
騒がれると厄介だ。できる限り見つからないように移動しよう。
テラスネークはアリアーグ中央にある教会の地下にあると言っていた。
「タケルさん、ここの壁に街の地図が貼られてますよ」
流石はリリーだ。よく気づいたな。
俺はその地図で銀行から教会に行くルートを確認した。
さてどうやって移動しようか?
俺1人なら神速で移動できるが、4人だからな……。
「タケル〜〜。ごめんね。ユユの転移は見た場所にしか行けないんだ〜〜。魔法銀行みたいに魔法陣が設置されてれば行けるんだけど〜〜。教会は見たことがないし、魔法陣の設置が無いから無理ぃ」
「気にするな。この場所まで転移できただけでも助かってるんだ」
ここは奴隷兵士がいないし安全そうだ。
僧侶リリーと転移魔法使いユユ。2人はか弱い少女だからな。教会まではすぐだし、ここを拠点に待機してもらう手もある。ここから先は俺と虎逢真で移動するか……。
「タケルさん。私とユユちゃんも一緒に行きますからね!」
う……。流石は妻だ。
考えを読まれたな。
一緒に移動。そうなるとこれしかないか……。
俺はユユを抱きかかえ、リリーを背負った。
まるで子沢山の主婦である。
「2人とも、しっかりくっついているんだぞ」
2人は頬を染めて喜んだ。
「タケルさぁ〜〜ん」
「タケルゥウウ〜〜」
「おいおい。教会にはアスラがいるかもしれないんだ。もう少し緊張感を持ってくれ」
「じゃ、じゃあ尚更、今ぐらいしか甘えられないじゃないですか!」
そう言ってリリーは顔を擦りつけた。
それを見たユユも俺に頬を擦り付ける。
やれやれ。甘えたな女の子達だ。
虎逢真は首を傾げる。
「おいは1人で行くがか?
「うむ。そこは問題ない。神腕を使ってお前を教会の方角へ放り投げる。詳しい場所はわからないから微調整は
「おお! 流石はタケルじゃあ! それなら加速がついて人の目にはつかんじゃろう。その方法が一番的確ぜよ!」
ーー魔法銀行 屋上ーー
俺は虎逢真を教会の方角に向かってぶん投げた。
ブォオンッ!!
「うぉおお! 速いぜよぉおおお!!」
よし、次は俺達だ。
「2人ともしっかり捕まってろ」
「「 はい! 」」
「スキル
俺達は疾風の如く、魔法銀行を飛び出した。
◇◇◇◇
〜〜アスラ・シュラガン視点〜〜
ーーアリアーグ教会地下ーー
管理人のゼノは片手を上げた。
すると、その背後に3体の大男が現れる。
男達は甲冑を身にまといそれぞれ大きな武器を持つ。斧、槌、槍。その大きさは2メートルを超える。
ゼノは無表情のまま口を開いた。
「第2の試練は能力を見る。その者が神の武器に相応しい能力を持っているかを見させてもらう。これからこの者らと戦ってもらう。3人の武器を破壊、もしくは奪うことができれば勝ちだ」
くだらん試練だ。
3人とも瞬殺すれば済むことだ。
……いや待てよ。何か引っかかる。
「もしかして、殺してはダメなのか?」
俺の問いかけにゼノは何も言わず手をあげるだけ。
呼応して3人の大男は俺に向かって襲ってきた。
やれやれ。
不本意だが、言うことを聞いてやろう。
「
大地から出た蛇のようにうねる神樹は2体の大男を束縛。1体を逃した。
そいつは大きな斧を振り下ろした。
ズバァンッ!!
空間をこそげ取るような、凄まじい斬撃が俺達を襲う。
「ほう……。Sランクモンスターと同じくらいの強さだな」
美食ギルドのグウネルと元勇者のグレンは、この世の終わりのような悲鳴をあげた。
俺は瞬時に奴隷達全員を神樹で包み込み、その斬撃から回避する。
斬撃はそのまま走り、灰色の壁に衝突。爆音と共に破壊した。壁は石材を積まれてできており、その破片が辺り一面に飛散する。
奴隷達がその威力に汗を垂らす中、俺はすかさず斧を持った大男を神樹操で絡み取った。
3人の大男は身体に絡まる神樹で身動きが取れない。
さて、本来ならここで神樹槍で貫いて終わりだがな。
俺は、大男達の武器だけを神樹槍で串刺して破壊した。
ゼノは表情を変えず、ただその状況を見つめる。
反応の無い奴だ。
「おい、どうなんだ? まだ試練は続くのか?」
「……合格だ。高い戦闘能力。神の武器を所持する者に相応しい」
Sランクモンスター級の破壊力を持った大男達。
おそらく、大男を殺していると失格といったところか。
フン、こんなことで俺の能力を測るなんてバカげているな。
「大男を殺して次に進む方がスッキリするがな」
ゼノは眉を上げた。
「賢明な判断だ。もしも大男を1人でも殺していれば、お前達は全員石になっていたぞ」
石だと?
バカなことを……。
グウネルは辺り一面に散らばった石を持ち上げて震えた。
「こ、これは……!?」
その石は人の腕にそっくりだった。
「アスラ様。破壊された壁はただの石壁ではないようです」
よく見ると、石壁は石化した人間の山だった。少しカビや苔が生えている。何十年……いや、何百年と時を経た様子である。
大男を殺してしまった者達の末路か……。Sランク級の強さを持った男達だ。そんな奴らから武器だけ奪うのは至難の技だろう。うっかり殺してしまうこともあるのかもな。
まぁ、それだけのレベルか。
俺は鼻で嘆息。
「ゼノ。貴様が言っていることは嘘ではないようだな」
「神の武器は選ばれた者にだけ与えられるのだ」
「面白くなってきた。次の試練を言え」
「最後の試練、神のカリスマ」
元公爵のハンハーグが言っていた謎の試練だ。
突然、頭上より落下音が響く。
「なんの音だ?」
何者かが上空より着地する。
俺と同じように螺旋階段を使わずに、飛び降りて来たのだ。
賢者ヤンディは叫ぶ。
「アスラ様! タケルです! タケル・ゼウサード!!」
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