第140話 新しい国
アリアーグに神の武器を獲りに行かなければならない。
しかし、妙な予感がする。
俺はグウネルに事の成り行きを話した。
グウネルは細い目を大きく見開く。
「テラスネークがタケル・ゼウサードの仲間になったのですか!? それは厄介ですね……」
「なぜだ? あんな大蛇、俺ならば一撃で倒せるぞ」
「強さはその通りかと思います。ですが、アスラ様の出生の秘密や、空天秤の事を知っていました。そうなると神の武器も知っている可能性が高いです」
「なるほど。あの蛇が、神の武器のありかを知っていて、タケルに進言するかもしれんな」
「そうなります」
神の武器がどれほどの力かは知らんが、タケルに奪われては厄介だ。
奴との戦いから1週間が経っている。急がなければ奴が神の武器を手にしてしまうな。
タケルのことは、監視役のビビージョから聞いて把握していた。
「奴は今どこにいる?」
「虎逢真達とまだアーキバにいるでありんす」
「虎逢真? 誰だそいつは?」
「え? あ、いや……その……。ア、アスラ様に攻撃してきたアホな男でありんす!」
ビビージョは顔を赤くして狼狽えた。
そういえば、着物に下駄を履いた、妙な男がいたな。所詮は雑魚だ。どうでもいい。
ビビージョは手下にタケルの動向を監視するように指示していた。あの戦いから、ずっとタケルの動きを探っている。
奴は残酷斬で破壊されたアーキバの復興作業に忙しいようだ。また、テラスネークに穴を掘ってもらい捕虜の街を更に大きく拡大しているようだった。
俺の奴隷を全て捕虜にする気なのかもしれんな。
監視役は距離をとって観察している為、タケルが神の武器の事を知っているかまではわからない。
妙な胸騒ぎがする。
用心に越したことはないな。
「参謀クラスは全員アリアーグに来い。動かせる奴隷兵士は全員連れて行く」
ビビージョは眉を寄せる。
「参謀……。ならば、あいつも入るでありんすなぁ」
そいつはアスラ城の一室で女を囲い、日がな1日、酒を飲み入り浸っていた。
俺はそいつがいる部屋の扉を勢いよく開けた。
バンッ!!
そいつは真っ赤な顔でベロベロ。奴隷の女を5人、裸にして囲わせて寝ていた。
「あれぇ、アスラ様ぁ。こんな所に何か用れふかぁ? 一緒に女を抱きますかぁ?」
元勇者のグレンである。
前回、アーキバにタケルが居たことを言い当てたので、その報酬としてアスラ軍の参謀になったのだ。その地位を利用して贅沢三昧である。
まぁ、アホな奴だが、何か使える気がする。
「グレンも来い。アリアーグに行く」
「そんなぁ〜〜。俺が行っても役に立ちませんよぉ〜〜。まぁ、女の奴隷を探しに行くってんなら協力しますがぁ〜〜。ニヘヘェ〜〜」
俺は目を細めた。
神樹操を使ってグレンの頭を殴る。
鈍い音が部屋に響いた。
ゴンンンンッ!!
「はぎゃあッ!!」
「詳しい話は他の奴隷に聞け」
グレンは目に涙を溜め、気の無い返事をする。
「ふぁーーい」
「グレン。例え、参謀でも奴隷は奴隷だ。歯向かう奴は容赦しない。今回は許してやるが、次はないぞ」
鋭い神樹の先がグレンの鼻先で止まる。
「ヒィーー! も、申し訳ありません!!」
こいつはどうしようもないアホだが、タケルに近しい存在だ。何か臭う。どこかで使える……きっと利用価値があるはずだ。
アスラ城や残った兵の管理の問題があってハンハーグは残ることになった。
俺はその他の参謀達を引き連れて神の武器を手に入れる為、アリアーグへと向かった。
◇◇◇◇
〜〜タケル・ゼウサード視点〜〜
ーーアーキバの街ーー
アスラの放った残酷斬の跡は、深い渓谷と化していた。街は、そこを境に2つに分断されたと言っていい。
俺がアスラと戦ってから、オータク達は地下倉庫から出て地上で暮らすこととなった。
堂々と日の光を浴びる解放感とは裏腹に、残酷斬の残した凄惨な光景は、彼らの将来に不安の影を残した。
深い渓谷から吹き込む風を受けてオータクは項垂れる。
「街が……壊されてしまったなり……」
俺は肩を叩いた。
「新しい街を作ればいいさ」
「でも……。統治している権力者達は殺されて国が崩壊してしまったなりよ。アスラの奴隷が解放されて帰って来ても、もう……。元の街には戻らないなり」
「オータク。だったら、新しい国を作ればいいじゃないか。解放された奴隷は新しい国が迎えればいい」
「無茶なり……ロメルトリア王はアスラに殺されてしまったんだ。国王がいない国なんて、とても発展はしないなりよ」
そこへ、オータクの仲間が助言を求めて集まった。
それは子供から老人まで様々。
「オータク、ここに食堂を作ろうと思うんだ! どんな設計にしたらいいかな?」
「オータクさん、またフクラと大人達がもめているんだけど。間に入ってもらえないかしら?」
「リーダー。捕虜の見張り役は何人配置したらいいかな?」
オータクは丁寧に問題を解決する。
みな、彼を信頼しているので熱心に話しを聞いた。オータクが困ると、その横に立つ長身の女が助言した。
彼女はロメルトリアの王女、カナン姫である。
オータクからは何も聞いていないが、その距離感で察する。
「お前達が新しい国を作ればいいじゃないか」
2人は目を見開いた。
今を生きることに必死で、先の未来など考えもしなかった。そんな顔である。
「な、何を言っているでござるかタケル!?」
「何って……。お前達が結婚して、新しい国を作れば良いんだよ」
2人は顔を見合わせて真っ赤になった。
「オータクが王。カナン姫は妃さ。カナン姫は王族なんだ。お前達が結婚すれば王族の血は廃れない。ロメルトリアの復活だよ」
「いや、しかし、俺氏は単なる美少女人形職人なんだ……。お、王様なんて柄じゃないよ」
「俺は、信頼される者が王になるべきだと思うんだ。オータク。お前ならば適任だよ」
オータクは考えた。
「……俺氏は弱いから……。王は、強い人間が向いてると思う」
「強さは城兵に任せておけば良いだろう」
「そんな城兵どこにいるなりよ」
「フ……。俺を誰だと思っているんだ?」
「タケル……もしかして……」
俺は不敵に笑った。
「俺がお前の城兵になってやる」
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