第139話 アスラとヤンディ

〜〜アスラ・シュラガン視点〜〜


気がつくと洞穴だった。

俺は賢者ヤンディの回復魔法を受けて身体が再生していた。


彼女は目にクマを作り痩せ細っている。

唇は枯れ、何日も水を飲んでいないのがわかった。


「アスラ様……。よ、良かったぁ……」


「……俺はどれくらい眠っていたんだ?」


「3日です。お身体がボロボロだったので心配しました」


身体を触ると全て再生されていた。

吹っ飛んだはずの片目も再生させれている。

これほどの回復魔法……。


「お前……。もしかして3日3晩、寝ずに回復魔法を使ったのか?」


「き、気にしないでください。元に戻られて良かっ……」


ヤンディは気を失う。

俺は彼女を抱きかかえた。


「おい! しっかりしろ!」


「……アスラ様。へへへ、心配してもらっちゃった。……嬉しい」


「力を使いすぎだ」


「平気です」


俺は彼女にマントを被せる。


「少し冷えるからな」


「あ……ありがとうございます。えへへ。アスラ様の匂い……ククク」


「水と食料を探して来る。少し休め」


「……もう、元気になりました」


「バカ。休んでろ」


俺は洞穴の入口から辺りを見渡した。


見渡す限り森である。


遠くの方にうっすらと山が見える。


どの辺だろう?

アーキバが見えないな。

あの山の向こうか?

どちらにせよ、かなり遠くに飛ばされたようだな。


タケルの技でここまで飛ばされて来たのか……。神爆牙一心と言ったか。凄まじい威力だったな……。


タケルは死んだのだろうか?

……いや、奴のパワーの方が上だった。

おそらく無事。俺の方が負傷は大きいはずだ……。


俺が……。

俺が負けたのか……。

まだ、信じられん。


森から流れる風を受けて生を実感する。

これは現実なんだと何度も確かめた。

空腹と喉の渇きが酷い。


「やれやれ。まずは水と食料か」


神樹反動を使って飛び上がり、森の中へと飛び込んだ。




◇◇◇◇


ーーカンザサの森ーー



洞穴。



俺が回復してから3日が過ぎた。



ここはアーキバから10キロ離れた場所だった。あの戦いでこんなに離れた所まで飛ばされたのだ。

俺はボロボロの体だったが、ヤンディが移動魔法で駆けつけて回復魔法をかけてくれた。


俺は洞穴の入口に焚き火を作り、肉や魚を焼いていた。森の小川で汲んだ水を飲み、森の果実を食べて過ごす。


ヤンディはすっかり回復した。

お腹を摩りニタニタと笑う。


「えへへ……。アスラ様の赤ちゃん。宿ってたらいいなぁ」


やれやれ。

少し気の迷いが出た。

2人きりで、ずっと看病してくれる彼女にほだされた。


「もう元気になっただろ? 城に戻るぞ」


「ええ〜〜。も、もう戻るのですか? わ、私はもっと2人きりが良かったですぅ」


「そうゆっくりもしてられん。昨日は遠くの場所でタケルの仲間を見かけた。おそらく俺の生死を確認しにきたのだろう。こんな森にまで探しに来ている。この洞穴が見つかるのも時間の問題だ」


「そんな奴ぶっ殺してしまえばいいのではないのですか?」


確かにな。

しかし、仲間を殺せば他の仲間に気がつかれるかもしれん。俺が生きていることを知ればタケルがここへやって来る。今、奴と戦うのはまずい。奴を倒す決定打がないのだからな。


「雑魚を殺している場合ではない。俺にはやる事があるんだ」


「……タケル・ゼウサードを殺すことですか?」


「そうだ。こんな気持ちは初めてだ」


不思議だ……。

敗北した絶望感とは別に、ワクワクした気持ちが湧き上がる。 


人を殺すことに、なんの感情も動かなかった俺が、おかしな話だ。


生の実感。


タケルを殺すことが、最高の喜び。

どうやって仕留めてやろうか?

考えるだけで身体が疼く。

生きているとはこういうことか。


思わず笑みが溢れる。


「ククク……。奴の存在は許せん」


「タケルはアスラ様を酷い目に合わせた憎い野郎です。できるなら今すぐぶっ殺してやりたい。でも……奴は強いです」


「フン……。必ず殺してやる。そして、俺は魔王になるのだ」


「ですよね! アスラ様ならきっと殺れます!! あんなクソ野郎はギッタンギッタンにぶっ殺しちゃってください!! そしてアスラ様が魔王になった暁には、私は魔王様の……。ニへへへ。だ、第一夫人ですね……ヘヘ……」


「さぁ、城に戻るぞ!」


「はい! あなた♡」


「……調子に乗るなよ」


「も、申し訳ありません!!」


◇◇◇◇


ーーアスラ城ーー


タケルを倒すには神の武器しかない。

俺の神樹箒ゴッドブルームでも奴には効かなかった。まさかこの俺が伝説の武器にすがるとは、夢にも思わなかったな。


俺は元公爵だった中年の男、ハンハーグを呼んだ。


「神の武器について教えろ」


「神の武器はアリアーグの教会。その地下に隠されております。神の武器について研究していた学者達の話では選ばれた者だけが手にできるそうです」


「選ばれた者?」


「はい。どうやら試練があるようです」


「くだらんな」


「神の武器を求める者の試練は3つ。資格、能力、そして、神のカリスマ」


「神のカリスマ? なんだそれは?」


「それがよくわかりません。学者達も古い文献から判明している事だけを言っているようです」


……そういえば、テラスネークが俺の事を神の魂を持つ人間、【神の子】と呼んでいたな。


ククク……。神の武器など単なる伝説で、もしかするとありもしない与太話かとも思っていたが……。【神の子】に【神のカリスマ】か。真実味を帯びて来たじゃないか。


「よし! ではアリアーグに向か──」


突然の嗚咽に膝を付く。


「ゲホッ! ゲホォッ!!」


抑えた手には血がベットリと付いていた。

ヤンディは絶叫する。


「キャァアアッ!! アスラ様どうして!? 回復魔法で完治したはずなのにぃいい!!」


フ……。

ヤンディといた洞穴では隠していた。この吐血は止まらんようだな。

どうやら、タケルとの戦いで、力を使い過ぎたようだ。

神樹箒ゴッドブルーム大残酷斬は相当なエネルギーを使う。その代償が現れ始めたのだろう。そして、このダメージは回復魔法では治らない。技を使えば命が削られる。


急がねばならん。

なんとしても神の武器を手に入れるのだ。

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