第138話 虎逢真 対 ビビージョ

「傷口に毒を塗られたぁあーー! おいの腕に毒がぁぁあーー!!」


おいは絶叫する。傷ついた右腕を天高く掲げた。


「か、身体が……し、痺れてきた……」


ビビージョはケタケタと笑う。


「ククク……。後悔したってもう遅い。その毒が回れば1分であの世逝きさね。さぁ止めを刺してやるでありんす」


「ま、待ってくれ! 最後の頼みを聞いてくれんか!?」


「は? この期に及んで見苦しい」


「しかし、もうおいは最後じゃき……」


「フン……。聞くだけなら聞いてやるでありんす」


「もしも、おいが、おんしに勝ったら、おいと正式に付き合うて欲しいぜよ!」


ビビージョは顔を赤らめた。


「はぁ!? な、何を言ってるでありんす!  ア、アホなのか、お前は!」


「いや、おいは本気ぜよ!」


白い肌、鋭く大きな瞳、艶やかな唇。細く華奢な体に……たわわな胸。もう着物から溢れ落ちそう!

たまらんちゃ!


「おんしはべっぴんさんじゃあ!!」


「な、な、何を言っておるんじゃ、こんな時に! そもそも、毒が回った状態でどうやって勝つでありんすか! 世迷い言を言うでない!!」


「じゃからじゃぁあ!! おいはもう死ぬ! 死ぬ前にお前さんみたいなべっぴんさんと恋仲になれたなら、げにまっこと嬉しいぜよ! 頼む! 冥土の土産に認めてくれぃ!!」


ビビージョは腕を組んだ。


「フン! ま、まぁ、もう時期死ぬでありんすからなぁ……」


おいは地面に倒れた。


「た……頼む……」


「し、仕方ない。冥土の土産に、み、認めてやるでありんす」


「あ、ありがとう……」


ビビージョは太ももからクナイを取り出すと大きく振りかぶった。


「地獄にはあちきが送ってやるでありんす!!」


おいは直ぐさま立ち上がってビビージョの手首を掴んだ。



「天国にいる気分じゃあああッ!!」



ビビージョは混乱する。


「な、な!? なんで立てるでありんすか!?」


不敵に笑う。


「おいには、まっこと信頼しとる相棒がいるもんでなぁ!」


おいの後方、10メートル先には、転移魔法使いのユユが杖先をこちらに向けて立っていた。


「相棒じゃと!? ゲッ! それは転移魔法陣!!」


俺の傷口には小さな転移魔法陣が浮き上がる。


「さっき大きい声で叫んだじゃろ? あれは、相棒に聞こえるように大きな声を出したんぜよ」


「あ、相棒ぅう!?」


「小さい奴じゃがな。気が効いて、なんでもフォローしてくれる最高の相棒なんじゃあ」


ユユは眠たそうな目を細めた。



「小さいは余計〜〜」


ビビージョは汗を飛散させる。


「も、もしかして、その転移魔法陣で……!?」


おいは眉を上げた。



「毒を転移させたぜよ」



ビビージョはおいの腕を振り払う。



「だ、騙したなぁ!!」


「毒を盛る方が悪いきに。気にせんちゃよ!」


「ええい! 殺してやる! 今すぐにでも殺してるやるぅうう!!」


「おいおい、おい達は恋仲っちゃよ。殺し合いをしてる場合ではなかろう」


「あの約束は貴様が死ぬことが前提条件! 無効でありんす!」


「人はいずれ寿命が来たら死ぬっちゃよ。嘘はついとらん。じゃから、それまでは恋仲じゃなぁ!」


ビビージョは顔を真っ赤にした。

そして、詠唱しながら印を結ぶ。


「破血! 鬼勇! 獣!」


やれやれ。

彼女の悪戯には困ったもんちゃ。


ビビージョがクナイを投げると、それは大きなライオンと蜂、鬼の姿となっておいに襲ってきた。


「喰らえ! 忍法  蜂獣鬼牙ほうじゅうきが!」


さっきより強力な力を感じる。


しかしな。

べっぴんさんにはどうにも本気になれんちゃよ。



獣罵倒ビーストスラング  熱虎火湧威ねこかわいい!!」



おいが片手を一振りすると炎が舞い上がった。炎は猫の爪を模しており、それが蜂獣鬼牙を燃やし尽くす。



「そんな! あちきの技が燃やされた! 貴様、さっきは手加減していたのか!?」


おいは 憂技贄鞘利うさぎにえさやりで高速移動。ビビージョの背後に周り両手を掴んだ。


「おいが本気なのは恋心だけぜよ」


「な!? は、離せ!!」


「離さんぜよ。おいとおんしは恋仲じゃあ!」


「ふ、ふざけるなぁ! あんな約束、無効じゃ! むこ────」



おいはビビージョの艶やかな唇にキスをした。



暴れるビビージョはおいの頬に強烈なビンタを浴びせる。



バチィイイインッ!!



「バ、バカッ!!」


うーーむ。痛い。

少々強引じゃったかもしれん。



「まぁ、そう怒らんと。おいとおんしは恋仲じゃき」


「か、勝手に決めるなぁ!!」


「戦いなんかやめて一緒に酒を飲もうぜよ! おんし、結構イケる口じゃろ?」


「の、飲むかそんなもんッ!!」


「おや? 酒が好きなタイプじゃと思ったがのう。違ったかや?」


「さ、酒は好きではありんすが……。き、貴様と飲むつもりはない!!」


「なんじゃあ、やっぱり思った通りじゃあ。恋仲なんじゃし一緒に飲んで楽しもうぜよ!!」


「ち、近寄るなぁーーーーーー!!」


おいが追いかけるとビビージョは逃げ回った。



「退却ぅうう!! 退却でありんすぅう!!」



ビビージョは兵士達に退却命令を出して走り出した。



「なんちゃあ〜〜。折角、恋仲になれたきに〜〜」


遠ざかるビビージョの背中を寂しそうに見ていると、身体を回復させたタケルとオータク達が帰ってきた。


捕虜の奪還は死守したが、複雑な気分じゃのう〜〜。

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