第130話 1万人のアスラ軍

〜〜タケル視点〜〜


ーーオータクの地下倉庫ーー


「この野郎、これでもか! これでもか! これでもかぁああ!!」


13歳の少年ダッドは縛り上げた5人の兵士をタコ殴りにしていた。



俺と僧侶リリー、獣罵倒士ビーストスランガー虎逢真、転移魔法使いユユはオータクから事情を聞く。


オータクは逃げた人達をかくまって暮らしていた。


アスラという謎の人物が自分の国を作り、人々を奴隷にしているという。


縛られた兵士達にアスラの話を聞く。

崇拝はしているが、詳しくは知らない様子。


あの時の山賊に似ているな。

やはり、アスラはクマソの大陸を制圧した魔神アスラなのかもしれない。


地下倉庫で暮らすメンバーは女、子供、老人が多い。そして、嫌がらせを受けていた元男爵のコミケートまで助けていた。


みんなはオータクをリーダーと認め、慕っている。全てオータクの度量である。


俺が感心していると、オータクは眉を寄せた。


「情け無いリーダーさ。子供1人助けられないなんて……。タケルが助けてくれなかったら今頃……」


その瞳には涙を浮かべる。

俺は彼の胸元に拳骨を乗せた。



「お前は立派だオータク」



彼は力無く項垂れた。



「でも、弱っちぃなりよ」


「そんなことはない。強い心を持っていたから、屈強な兵士に1人で立ち向かったんじゃないか」


「ははは……。負けたら意味ないなり」


俺は優しく微笑んだ。



「心では勝っていた」



オータクは泣いていた。

俺は本当に感心している。



「お前は自分の心と闘ったんだ。そして、逃げずに立ち向かった」



闘う者は美しい。

心の底からそう思う。


オータクは泣きながら笑った。



「ありがとうタケル」






地下倉庫は移動の準備でバタついていた。

縛られているアスラ軍の兵士が笑う。


「へへへ……。もうすぐここにアスラ軍の兵士達が来る。俺達を捕まえたことを後悔するがいい」


やれやれ。この兵士を探しにアスラ軍が来るというのか。

ダッドは叫ぶ。


「オータク! 逃げないと危ないぞ!」


「う、うん……」


「ギャハハ! 逃げたってもう遅い! 5人の巡回兵がいなくなったんだ! 大軍で押し寄せるぞ! その数1万以上だ! ここら一帯をしらみ潰しに探して、お前たちを見つける! そして皆殺しだぁあッ!! ギャハハハーー!」


ダッドは、その兵士の顔に蹴りをかます。


「ギャフッ!!」


「オータク! どうしよう!?」


「うむ……。この街を捨てて逃げるしかないなりね!」


俺は眉を上げた。



「逃げる必要なんかないさ。俺が来たんだからな」



ダッドは俺に食い下がる。


「あんたは強いかもしれない。でもよ。敵の数が多過ぎる! 1万人だぜ? そんな兵士とどうやって戦うんだよ!?」


「まぁ、なんとかなるだろ」


その時、地下倉庫の入り口の蓋が激しく開いて怒鳴り声が響いた。


「大変だぁ! アスラ軍がやって来たぁッ!!」


見張り役の呼び掛けであった。

倉庫内に緊張が走る。



◇◇◇◇



ーーアーキバの街入り口ーー


俺が立つ眼前には1万のアスラ軍。

リーダーと思しき兵士が俺に問う。


「そこの男。お前が巡回兵を倒したのか? 仲間は何人いる?」


「お前たちに教える必要はない」


「なんだと、そんな口をきいて良いのか? 皆殺しだぞ」


「誰も死にはしないさ」


「気でも触れたか? この数を見ろ! アスラ様の奴隷になれば命だけは助けてやる?」


「断る」


「やれやれ。この街のどこに隠れているか知らないが、燃えてしまえばおわりだろう。構えろ!」


その号令で、前に出ていた数千の兵士は火のついた矢を引いた。



「打てぇえッ!!」



同時に矢が放たれる。

男は勝ち誇ったように笑った。



「残念だったな! お前が守ってきた街は炎に包まれる。お前がその光景に絶望した時にジワジワと殺してやろう」



俺は神速を使って瞬時に動き、放たれた全ての矢を叩き落とした。



「何か言ったか?」



驚愕する兵士達。



「な!? な、何が起こった!?」



俺は冷ややかに笑う。



「お前達の負けだ」


「殺せぇ! 殺せぇえええ!!」


武器を構える兵士達。

その地面は盛り上がる。



「「「 うわぁ! な、なんだぁ!? 」」」



透明な何かが地面に潜んでいて地上に現れたのだ。



「スキル蛇神化スネクマキナ 擬態。私の身体を大地に変えていた」



テラスネークは全貌を表す。

兵士達は青ざめた。




「「「 ば、化け物ぉ!! 」」」



蛇は大きな尻尾を振り上げる。

そのまま大地に叩きつけた。



バ シ ン !!



その反動で1万の兵士達は宙に舞う。

俺はスキル闘神化アレスマキナ神速を使って全員に一撃を喰らわせた。

打撃音は花火のように連発。辺り一面に鳴り響く。


ドン! パン! パパパパン!


兵士達はボトボトと地面に落ちる。


まるで雨だな。


そこへオータク達が駆けつけた。



「タ、タケルこれは!?」



兵士全員、急所を突かれて気絶している。


それにしても、こんなに大勢を縛るのは面倒だな。


「テラスネーク。穴を掘ってくれるか?」


「任せなさい」


彼女が円を描くように動くと、大地に大きな穴が生まれ、そこに気絶した1万の兵士が落ちた。


「うむ。死亡者ゼロだ」


オータクは驚きを隠せない。

ダッドを大きな口を開けた。



「タケル! すげえええ!!」

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