第131話 アスラが来た
アスラ軍1万の兵士はテラスネークが掘った穴に収監された。
そこの監視は虎逢真とテラスネークにやってもらうことにする。
テラスネークは兵士達を見つめた。
『タケル。巡回兵を倒しただけで、これほどの援軍がやって来ました。そうなると次はもっと大勢の兵士がここへ押し寄せて来ますよ』
「みんなの街を守る為だ。戦いは避けられない」
『アスラが来るかもしれません』
テラスネークはアスラのことを知っていた。俺と出会う前に戦ったことがあるらしい。
「アスラ軍のアスラはクマソの大陸に現れた魔神アスラなんだろうか?」
『5年前の話ですね。その時、私はアブラマンダラに捕まって呪印をかけられていましたからね。詳しいことはわかりません。でも──』
テラスネークは沈んだ表情を見せた。
『彼は私達と同じ。神の子です』
◇◇◇◇
〜〜アスラ視点〜〜
ーーアスラ城ーー
ハンハーグは片膝を付いた。
「アスラ様。神の武器はアリアーグの教会の地下にあることがわかりました!」
ハンハーグは学者を集めて神の武器を調査していた。アリアーグの教会といえば質素な建物である。
そんな所にあったのか。
俺を殺しに来た聖騎士が言っていたな。
『神の武器があればお前を倒せた』と。
それほどの武器が眠っているなんてな。
興味本位でしかないが、手に入れておいてもいいだろう。
「よし。今から行こう」
そこへ、くノ一のビビージョが飛び込んできた。
「大変でありんす! アーキバの援軍1万がやられてしまったでありんす!!」
「何、どこの国の攻撃だ?」
「それがわからないのでありんす!」
「わからないだと? アスラ軍の生き残りはいないのか?」
「それもわからないでありんす」
「どういうことだ? 戦況を伝えられないのはなぜだ!?」
「アーキバに向かった1万人の兵士から突如、連絡が来なくなったでありんす」
「……突如だと? 1万の兵士を殲滅させるほど、大きな勢力はこの大陸にいないはずだがな」
俺が腕を組んでいると、それを見て、元勇者のグレンがニヤニヤと笑った。
どうしようもないアホな存在であるが、もしかしたら使えるかもしれないので、奴隷として置いている。今は髪を切り綺麗な服の姿。そのままだと汚らしいので、それらしい物を与えてやった。
「おいグレン。何か知っているようだな?」
「へへへ。臭うんですよ」
「何がだ?」
「1万人の兵士が突如、消息を断つ? そんなことはあり得ません」
「だからなんだ?」
「奴隷達はアスラ様を崇拝している。だから絶対に裏切らない。1万人が命令を破棄して逃げたりだとか隠れたりする訳がないんです。にも関わらず音沙汰がない。おかしいと思いませんか?」
「巨大な勢力を持った、どこかの国にやられたのかもしれんぞ?」
「1万人の兵士です。それはあり得ない。例え相手が10万の兵でも、戦えば時間がかかる。その間に逃げのびた兵士が戦況を伝えるでしょう。しかし、今回はそれが出来なかった。つまり、一瞬でやられてしまったんです」
「フ……。面白い推測だな。1万の兵士を瞬時に殺した存在を知りたい。結論を言え」
「1万人の兵士は生きています」
「なんだと? なぜそんなことが言えるんだ?」
「おそらくなんらかの手段で捕虜にしたのでしょう」
「1万人の兵士を瞬時に捕虜にするだと?」
グレンは薄気味の悪い笑みを浮かべた。
「タケルです。タケル・ゼウサード。1万人の兵士を瞬時に捕虜にするなんて、あいつくらいしかできませんよ」
賢者ヤンディが眉を寄せる。
「おいグレン! あんた適当ぶっこいてんじゃねぇぞッ! また半殺しにされてぇのか!?」
グレンの胸ぐらを掴むヤンディを止める。
「いや待て。面白い推測だ」
「ア、アスラ様ぁ! こんな奴の言うことを信じるんですか?」
臭う。
グレンのタケルに対する怨念は相当なものだ。この不思議な事件にピンと来たのだろう。
面白いかもしれん。
……グレンの予想が当たっているかはわからんが、信じることにしよう。
神の武器は後回しだな。
「今からアーキバに向かう。アリアーグは後回しだ」
「アスラ様! わ、私を連れて行ってください!」
珍しくも賢者のヤンディが名乗り出た。
「どうした? 何かあるのか?」
「な、何か胸騒ぎがするんです。私は回復魔法が使えますから……。役に立つと思います」
回復魔法だと?
「フン……。俺が怪我をするとでも思うのか?」
「そ、そんなことはありませんが……。その……ダメですか?」
……まぁ、奴隷は多い方が人探しには役に立つか。
「よし。アーキバ全体に兵を入れる。ヤンディは10万の兵士を向かわせろ」
「はい! ありがとうございます!」
「ヤンディはんだけズルおます! あちきも連れてっておくんなまし」
「ビビージョ! あんたは城の管理があんだろがぁ!」
「城はグウネルはんがやりおます。あちきはアスラ様の恋人ですさかい、付いて行く必要があるんどすえ」
「こ、恋人って勝手に決めんなぁ! わ、わ、私だって、アスラ様のこ、ここここ、こいび……」
「ヤンディはんは貞操を貫いとったらええんどす。アスラ様はあちきに任しときなはれ」
「なんだとぉ! アスラ様は渡さねぇ!!」
「あちきだって譲れまへん!」
「「 きぃいいいッ〜〜!! 」」
「だぁーーーー! お前らいい加減にしろ! 俺は誰の物でもない!!」
「「 すいませ〜〜ん 」」
「10万の兵はお前ら2人で指揮しろ」
グレンは手を擦った。
「へへへ……。アスラ様。もしもアーキバにタケルがいた時は俺を参謀にしてくださいよ」
やれやれ。
ゲスい顔だな。
「……まぁ、良いだろう。タケルに会えたら望みを叶えてやる。ただし、その推測が間違っていたらお前を殺すからな」
「ヒィィイイイッ!! だ、だ、大丈夫です! じ、自身はありますから……」
「よし。行くぞ」
こうして、俺とヤンディ、ビビージョの3人は10万の兵士を連れてアーキバへと向かった。
◇◇◇◇
〜〜タケル視点〜〜
捕虜1日目。
アスラ軍の兵士1万人を捕虜にした訳だが。最も困るのはトイレと食事である。
テラスネークに即席で作ってもらった穴なので、中は何もないのだ。
トイレは、木材と工具を渡して捕虜自ら作ってもらうこととした。
さてそうなると、問題は食事。
1万人分を用意するのは大変である。
「飢え死にされては困る……」
アーキバの中で食料を探して兵士達に分け与えようにも、その数は1万人分。相当な量である。オータクのメンバーだけで作るのは不可能に近い。
そして、最も急ぐべきは水分補給である。
水が無いと、人間は4日程度で死んでしまうのだ。
よって、捕虜達には穴の中に池を掘ってもらった。そこに近くの湖から水龍操で水を運んで持って来る。
これで水問題は解決である。
捕虜2日目。
今日は食事問題を解決する。
捕虜達には木材と工具を渡して台所を作ってもらうことにした。
「台所さえ有ればあとは食料だけだ」
俺はアーキバ内で小麦粉の倉庫を見つけた。
「よし。これを捕虜に使ってもらおう」
神腕を使って建物ごと持ち上げ、穴へ向かって投げる。
ブォオオオオオオン!
神速で移動。
ギューーーーーーーン!
倉庫をキャッチ。
捕虜が作った台所の横へと置く。
同じようにして、塩などの調味料を調達。これで捕虜達自ら自炊してもらう。
これで水と食事問題は解決した。
捕虜3日目。
飲み水となっている池の横には、捕虜達が身体を洗う小屋ができていた。
木材を渡せば捕虜自らが小屋を建てる。
そこは雨風を凌げる生活の場所となった。
捕虜になった兵士達は、生活の基盤を作る為、頻繁に集まり会議をする。
時には俺を殺そうとする奴もいた。しかし力でねじ伏せる。もちろん殺したりはしない。圧倒的な力の差に、兵士達は俺に歯向かうのを諦めた。
昼頃には台所から煙りが立ち上り、小麦粉の焼ける良い匂いがした。
それを見たオータクは眉を上げる。
「捕虜に自分達のことをやってもらうなんて考えもつかなかったでござるよ。流石はタケルでござる! もう穴の中は小さな町になっているでござるな」
「まだまだ必要な物は多いよ。病院を作る予定もある。そこに薬草を入れて病人のケアをしてもらうんだ」
「そんなことまで?」
「罪を裁きたい訳じゃないからな。戦いが終わるまでは充実してもらうさ」
この戦いは、1人も犠牲者を出さない。
俺は絶対にそう決めていた。
『タケル。アスラが来ました!』
テラスネークから心の声が響く。
この声はメンバー全員に届いた。
緊張が走る。
ついに、アスラと会うのだ。
◇◇◇◇
ーーアーキバの街入り口ーー
俺の眼前には1人の青年が大勢の兵士を連れて立っていた。
「お前がタケルか!?」
俺の名前を知っているだど?
こいつがアスラなのだろうか?
「そうだ。俺がスタット王国の城兵。タケル・ゼウサードだ!」
男は不敵に笑った。
背格好は俺と変わらない。
普通だ……普通の男。
しかし、その表情は自身に満ち溢れ、全身から人間とは思えない邪悪なオーラを放っていた。
その声は空に響く。
「俺はアスラ・シュラガン!」
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