第128話 リーダーのオータク

ーーアーキバの街 地下倉庫ーー


俺氏はコミケートさんが作ってくれた木刀を握りしめた。


中々、帰って来ない食料調達係を探しに地上に出るのである。

地上は、アスラ軍の奴隷兵士が警戒を強めているのだ。緊張が高まらずにはいられない。


俺氏は愛しのカナン姫に別れの挨拶。


「よし! じゃあ行ってくるよ」


そんな時、倉庫の奥から大声が響いた。


「私はね! お腹が空いたんだよぉお!!」


50代の女、フクラが、干し芋を手に持っていた。今にも食べそうな勢いである。


あれはみんなの食料なりね。


みんなはフクラと口論になっていた。

彼女がみんなの食料を食べようとしているのが原因である。

怒号が飛び交い、かなり熱くなっていた。


流石にこの状況で外に出るのは気になる。

ここは俺氏が間に入ろうか。


「みんな、喧嘩は辞めるなりよ」


大人達は口を揃えた。


「オータクさん聞いてくれ! フクラは自分だけ干し芋を食べようとしていたんだ!」


フクラは抵抗した。


「この干し芋は、私ん家の物なんだよ! 私が食べて何が悪いのさ!!」


大人達はヒートアップ。


「食料はみんなで分ける話になっているだろう! 俺ん家の食料だってみんなで分けたんだ!」


「そうよそうよ! みんなの考えに合わないんならここを出ていきなよ!」


「そうだそうだ! 出てけ出てけ!」


多勢に無勢か。

フクラは悔しそうに震えた。


俺氏は眉を寄せた。


「なぁみんな。アスラ軍はどんな連中か知っているかい?」


みんなは口々に、人殺しの残忍な集団、と言った。俺氏はゆっくりと話した。


「でもな。奴隷になるなら助けてくれるんだよ。つまり、自分の意見に賛成する者だけを助けると言うんだ」


みんなは俺氏の話に注目した。


「生きるってのは、みんなと一緒に暮らすってことだ。でも、個人個人の考え方はバラバラになるだろ? 今みたいにさ」


一人の中年の男、デムが、俺氏を論破しようと声を荒げた。


「だから民主主義なんだ! 多い意見が正義さ! みんなで決めたことなんだ! 言うこと聞けないなら追放だよ! フクラは追放だ!」


みんなはデムに同調する。


俺氏は眉を寄せた。


「絶対的な存在に服従しないといけないなんて、なんだか辛いなりよ。まるでアスラ軍のやっている事と変わりないじゃないか」


「そんなの理想論だ! じゃあフクラに干し芋を食わせろと言うのか!?」


「そうは言ってないなりよ。フクラさんだって、自分の意見を通そうとしているのはアスラ軍と同じだって言いたいんだ。みんなの都合があるんだからさ」


フクラはうつむいた。


「お互いに相手のことを考えるのが、生きるってことじゃないのかな? 俺氏達は、そんな事ができるから、アスラ軍の奴隷にはならないんじゃないのかな?」


みんなは黙った。

デムはフクラを見つめた。


「フクラ……。お腹が空いて我慢できないか?」


「…………」


「俺の干し芋をやろう。それで我慢できるか?」


デムはお腹をギュルルと鳴らした。

フクラは目を潤ませた。


「我慢……するよ」


良かった。

デムさん、フクラさん、ありがとう。



「俺氏達は奴隷じゃないなり」



みんなは同調した。


「そうだ! 俺達は奴隷じゃない!」

「そうよ! 私達は奴隷じゃないわ!」

「フクラ、よく我慢したわね! 偉いわよ!」


そして、みんなは俺氏の周りに集まった。


「流石はオータクさんだ!」

「オータクさんがリーダーで安心するわぁ」

「オータク! これからもあんたに付いて行くよ」



よし!

丸く収まったなり。



俺氏は階段を上がり、地上へと出た。




◇◇◇◇


俺氏達の地下の倉庫は街外れにあった。


食料調達に向かった少年ダッドは繁華街に向かったはずだ。


歩いて30分の距離。


ダッドが地下倉庫を出てから2時間以上が経つ。


見える範囲にダッドの姿がない。

やはり繁華街か……。

あそこはアスラ軍の奴隷兵士が多い場所だ。

ダッド、無事ならいいが……。



◇◇◇◇


ーー繁華街ーー


嫌な予感が当たってしまった。

ダッドは食料を抱えたままアスラ軍の奴隷兵士に囲まれていたのだ。


兵士の数は5人。


兵士達はうずくまるダッドの背中に蹴りを入れていた。


「ボウズ、その食料はどこに持って行くんだ? 仲間の居場所を吐けば助けてやるぞ? ん? 吐けコラ!」

「俺達の仲間になれば、命は助けてやるんだぞ? 仲間になっちまえ!」


ダッドが仲間になれば地下倉庫の場所がバレてしまう!

今すぐ帰ってみんなを避難をせるか?


し、しかし、このままではダッドが殺されるかもしれん。


ダッドは頑なに口を閉じていた。

蹴りを入れられても、痛みに耐えて決して地下倉庫の場所は話さない。


くぅ……。あんな子供が、俺氏達の為に命をかけてくれているなりか……。


し、しかし、む、無理なりよ……。

俺氏の武器は木刀のみ。

しかも、多勢に無勢。

俺氏1人で5人の兵士と戦えというなりか!?

ま、負けるに決まっている……。


このままダッドを置き去りにするしかない!

それが最も効率的!

地下倉庫のみんなには俺氏が必要なんだ! 

俺氏はここで死ぬ訳にはいかん!

しかも、助けに行った所で無駄死にだ!

2人死ぬより、1人だけの方が被害が少ない!

そうだ! 被害は最小限! 

それがリーダーとして最も選択するべき正しい道なんだ!!


繁華街を見やるとダッドは兵士達にドカドカと蹴られていた。


すまないダッド!

本当に済まない!!



走り出す俺氏。





「なんだぁ〜〜お前? アーキバの生き残りかぁ?」



兵士達は俺氏に気がつく。

俺氏は木刀を構えて前に出ていた。



な、何やってるんだ俺氏はぁあ!?


でも……や、やっぱり逃げるなんてできない!

だって俺氏は虐められていたんだ。周りに無視されて、虐められる辛さは人一倍知っている。だから、ダッドを置いて一人だけ逃げるなんてことはできないんだ!


姿を見せてしまったのだから仕方ない。これが人生の最後の言葉かもしれないなり。


なら……。


カッコよく決めてやる!!



「助けに来たぞ! ダッドォオ!!」

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