第113話 アブラマンダラの秘策

「ア〜〜ブラマンダァァア〜〜ラァァア!」


妙な術を唱える。

自分の名前が呪文になってんのか。


蛇は更に数を増し、俺達に襲ってきた。


グウネルは絶叫する。


「ヒィーーーーーーーー!!」


「なんだよ。お前、蛇の養殖してんのに、蛇が怖いのかよ」


「毒蛇です! 全て強力な毒蛇! 少しでも噛まれたら命はありません!!」


「噛まれたら、だろ」


俺は指を鳴らし神樹槍で蛇達を一掃した。


足元にはミミズほどの小さな毒蛇もいたが、俺の神樹槍は僅かな生命反応も察知するので、その小さな蛇も一掃させた。


「ちゃちい攻撃すんじゃねぇか」


アブラマンダラの切り札は小さな蛇だったのだろう。大きな毒蛇で目を引いて、小さな毒蛇で毒を付与する。

つまらない作戦である。


先程とは違い、表情に余裕は無くなって、アイシャドウが落ちるくらい汗をダラダラと流した。


歯噛み。


「わ、私の作戦がぁあ!!」


俺は神樹操でアブラマンダラの胴体を締め付けて、その大きな体を持ち上げた。


「ぐげっ! ぐぐぐ……!」


さぁーーて。こいつは奴隷として必要なのか?


「グウネル、どう思う? こいつは奴隷としての価値はあるか?」


「かなりありますよ。彼は、アブラマンダラ教の教祖ですからね。信者は20万人以上です。教祖のコネクションも、アスラ様にとってはかなり便利かと」


「あ、そう。まぁ、兵士はほとんど殺しちまったけどなぁ。価値があるんなら聞かざるえんな」


「ぐっ……ぐげぇげ! は、離ぜ、この卑しい煙突掃除人がぁあ!!」


「んじゃぁ質問だ! 俺の奴隷になるか? 死ぬか? どちらか選べ!」


「だ、誰が掃除人の奴隷なんかになるかぁぁあ! こ、後悔することになるぞぉ! こ、小僧ぉ……」


俺は冷ややかに睨みつけた。


「どっちか選べよ………殺すぞ」


奴は両手を天に掲げた。



「アブラマンダァァァァア──」



ザシュ! ドシュ! バシュ!


神樹がアブラマンダラを貫く。

奴は血を流して絶命した。


やれやれ。俺が後悔する暇なんてなかったな。


「おいグウネル。この国の支配者は死んだ。お前が代わりを務めろ」


「わ、私が!?」


「そうだ。蛇の養殖、国の統治、全てお前に任せる」


「……は、ははは。わ、私は奴隷ですよ?」


「フン……。それが俺の奴隷だ!」


チョロチョロチョロ……。

それは水の流れる音。


いや、アブラマンダラの血だ。


玉座の横に排水溝があり、そこに血液が流れ落ちているのである。


「なんであんな所に排水溝があるんだぁ?」


「アスラ様。ここは最下層ではないようです。あの血の落ちる先はこの下に空間がある証拠!」



ドドドドドドドドドドドドドドッ!!


突然の地響き。

足元では何かがドゴンドゴンと床を叩く。


「何かいるぞ?」


地面は割れると、そこから滑り気のある、大きな鱗が現れた。


「蛇です! 大きな蛇!!」


「ああ、そうみたいだな」


鱗の大きさからして、相当デカい!

たった1枚でも俺以上の大きさがあるぞ。


「アスラ様! おそらく、アブラマンダラの血液を飲んで暴れ回っているのだと思います!」


なるほど。

アブラマンダラ最後の秘術なのだろう。

奴が、後悔する、と言っていたのはこのことか。


床の隙間から黄色く光る巨大な目がギョロリと光った。


ドゴォオオオオオオオオオンッ!!


床を突き破って出たのは、顔の横幅だけでも10メートルはある巨大な蛇だった。


「テ、テラスネークです!!」


ああ、なるほどね。

こりゃデカいわ。


テラスネークは俺達を襲うまでもなく、下の階から天井を突き破って出てきた。


その大きな顔は激しく蛇行して、あの、大きな穴へと向かった。


なるほど、城内の不思議な穴は、テラスネークの移動する道だったんだな。


すると、その穴から地上に向けて、轟音を立てて蛇行し始めた。


ガゴンガゴンガゴンガゴンガゴン!


壁にぶつかる度に城内は揺れ、内部は崩壊。


随分と速い動きだな。


やれやれ。

大きな蛇だから、移動するだけで大ダメージだ。しかも、わざと荒々しく移動して、城を壊して俺達を殺す気なんだな。


「も、もうこの城は壊れます!」


「だろうな。この城の利用価値はあったんだがな。まぁ、仕方ない」


俺は神樹操を上手く操り、グウネルを保護しながら地上に出た。


その巨体が姿を表す。

それは体長1キロを超える。


「長げぇえ……」


蛇の額には紫色のオーラを放つ印が見えた。


「あれは呪印か。アブラマンダラに呪われてんだな」


テラスネークは俺達を確認すると、大きな威嚇音を出して襲ってきた。


「シャァァァアーーーーーーーッ!!」


速い。


が、俺の敵ではない。


「スキル地神操作ガイアマキナ 神樹防壁」



ドゴォオオオオオーーーーーーンッ!!



神樹の壁で防御。



「はい残念。デカいといってもただの蛇だな。スキル地神操作ガイアマキナ 神樹槍」



ズスン! ズスン!



テラスネークに神樹が刺さる。



「やれやれ呆気ない。終わりだな」


「ギャォワォアアーーーーッ!!」



テラスネークは奇声を上げて悶絶。

バギンバギンと神樹槍をへし折った。


「おっ! やるじゃん!」


その身体は若干傷ついただけ。


硬い鱗の影響か?


グウネルは汗を垂らす。


「アスラ様の攻撃が、つ、通じない……。ここは一旦、引いた方が宜しいのではないでしょうか?」


「やれやれ。グウネルよ。気を回し過ぎだぞ。主人の力をみくびるんじゃない。ほんの少しだけ、本気を見せてやろう」


「ほ、本気を見せる!? い、今まで本気ではなかったのですか!?」


「当たり前だろ。俺が本気を出せる相手がいるなら、連れてこいよ」


両手を合わす。




パンッ!!




俺は、合わせた両手をゆっくりと離していった。



バチンッ! バチバチバチバチッ!



手の平からは稲妻が現れる。

それは槍のような形を成した。


グウネルの目は釘付け。


「や、槍……? いや、違うのか?」


その先端は無数の小枝が付いているのだった。

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