第90話 設立
次の日。
俺はみんなを会議室に集めていた。
「それじぁ、新しいメンバーもいるから、これからの目的を伝える。まずは今までのおさらいだ。俺はスタット王国の城兵だ。4ヶ月前、勇者パーティーを解雇された。それに伴って他のメンバーは辞職。こうして俺達はスタット王国に戻ることになった」
「師匠は解雇されたあるか?」
「ああ、無能と言われてな」
「は!? その勇者アホあるね。師匠ほど超人的有能人間は存在しないあるよ」
一同爆笑。
勇者グレンは元気にしているだろうか?
あいつは図太い神経しているから、まぁ大丈夫とは思うがな。
成長してくれることを願うばかりである。
「さて、そんな俺達はスタット王国へ帰る途中だ。しかしながら、ここにいるバルバ伍長に長期休暇の許可を得ることができた。ワーウルフ討伐、デイイーア大火災の救助。俺達の評価はいずれも王国は高く評価してくれたのだ。だから、ゆっくりと旅を楽しみながら帰ろうと思う」
みんながどんな場所を観光しながら旅をしようかとウキウキ話しをしていると、戦士ゴリゴスは言いにくそうに前へ出た。
「……タケルどん。言いにくいのだが、おいどんは、ここに残って働こうと思うでごんす」
俺はみんなと顔を見合わせた。
「戦士を辞めるのか?」
「そうでごんすなぁ。命がけの戦いに、なんだか少し、疲れてしまったでごんす。それに……」
ゴリゴスは言葉を詰まらせた。
「なんだ? この際だから、思っていることを全部話した方がいいぞ」
ゴリゴスは顔を赤らめる。
「タケルどんを見てて、なんだかカッコイイと思ってしまったでごんすよ」
リリーは声を上げた。
「え!? ゴリゴスさん、タケルさんを見て、そっちの方向に目覚めちゃったんですか!?」
「いや……。おいどんノーマルでごんすよ。男として憧れるというか、そんな感じでごんす」
「そうですか、良かったぁ。ゴリゴスさんがTOG《タケル・ゼウサードお嫁さんギルド》に入ったらどうしようかと思っちゃいました」
リリー。入団には俺の許可がいることを忘れないでくれ。あと、このパターン、前にも見覚えがあるぞ。
ゴリゴスは照れながら頭をかいた。
「タケルどんは求めていないかもしれないでごんすが、強くてなんでもできるから、すぐにリーダーになってしまうでごんす。おいどんも、そんな男になりたいでごんすよ。何十年かかるかわからんでごんすが、このカザンガで一生懸命働いて、タケルカンパニーみたいな、なんていうか……ナハハ……。ゴ……ゴリゴスカンパニーみたいな会社を作りたいでごんす」
「そうか……。お前、そんなこと考えていたのか──」
俺は会議室の後ろに移動した。
そこには布で隠されている長い板のような物がある。俺はその布を取り去った。
「知ってたけどな」
そこには会社の看板が立てかけられていて、大きな文字が書いてあった。
【ゴリゴスカンパニー】
ゴリゴスは眉を上げた。
「タ、タケルどん! これはなんでごんすか!?」
「タケルカンパニーの社長は、のんびり屋でな。どうも経営に疲れたらしい。跡地を上手く使ってくれる人を探していたんだ」
「タケルどん……」
「ゴリゴス……。良ければ社長として、やってみないか?」
「で、でも。この会社を作るのに50億もかけて、人や設備を揃えるだけでも更にお金がかかったでごんすよ。おいどんはそれに見合う対価を払えないでごんす!」
「勇者グレンのパーティーで一緒に戦った仲じゃないか。お前との旅はいつも楽しくて最高だった。それだけで十分だよ」
「タケルどん……」
ゴリゴスは目に涙を溜めた。
俺も寂しくなって目頭が熱くなる。
「あとな、今回みんなに働いてもらったから、1人4千万エーンくらいは退職金を出せるんだ。その資金とこの場所を使えば事業はできるんじゃないか? 社長になりたかったんだろ?」
「タケルどん……何から何まで、本当にありがとうでごんす。おいどん、なんてお礼言ったらいいかわからんでごんすよ」
「気にするな」
「でも、おいどんに社長が務まるか不安でごんすよ。なにせ、ずっと戦士しかしてなかったでごんすからなぁ」
「大丈夫だ。お前が信じた道を進め。失敗しても死ぬ訳じゃない。お前がやりたいようにやればいいんだ」
「タケルどん……」
「社長に、なりたいんだろ?」
ゴリゴスはコクリと頷いた。
俺はゴリゴスの胸に拳を置く。
「闘う者は美しい」
俺は不敵に笑う。
「応援するよ。ゴリゴス社長」
リリーがパチパチと手を叩き出した。
「ゴリゴス社長! 頑張ってください!」
みんなも同調して拍手を送る。
パチパチとみんなの拍手が倉庫に響いた。
「社長頑張って!」
「ゴリゴス殿、応援しています!」
「筋肉兄さんファイトだよ!」
「頑張るある!」
「スタット王国第二兵団も応援しているぞ!」
俺も手を叩いた。
「ゴリゴス! 精一杯やれ!」
「うう……。みんな……。ありがとうでごんす。こんなに嬉しいことは生まれて初めてでごんす。ううう……」
命を賭けた魔物との戦いで、一度も涙を見せたことのない男が、泣いた。
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