第91話 帰国
ゴリゴスはカザンガに残って働くことになった。
タケルカンパニーの跡地を改装してゴリゴスカンパニーにする。
「この倉庫と、会社を使って海産業を営むでごんす。漁師のルアンさんも喜んでくれたでごんすよ」
俺は住所が書いた紙をゴリゴスに渡した。
「ここは、ママジャン王国にある会社なんだが、元はタケルカンパニー本店だった場所だ」
「どういうことでごんす?」
「美食ギルドに精通しているガイゼル・ユースラという男に会社を引き取ってもらったんだ。そこではギセイガという男と組んで新しい会社を開いているらしい。美食関係が主だが、ゴリゴスカンパニーと流通できれば互いに利益が出るだろう」
「タケルどん! ありがたいでごんす!」
アンロンは小首を傾げる。
「ギセイガって聞いたことがあるね。誰だったあるか??」
マーリアは笑った。
「イエローン公爵が賭け試合で用意した男よ。ブラッドドラゴンを召喚して、闘技場を混乱させた」
「ああ! 公爵に弱味を握られて、命を犠牲にしてブラッドドラゴンを召喚したあの男あるか! 家族の為に命をかけていたあるね! 師匠はそんな男の面倒までみたあるか! 優し過ぎて益々惚れてしまうあるな!」
全てが上手くいった。
マーリアの父は元気になり、ゴリゴスは新しい人生を進むことになった。
最高である。
その夜。
俺達は旅立つのを翌日に回して、ゴリゴスとの別れを惜しんでパーティーを開いた。
魔拳士アンロンとキャンドル職人アイカが大喧嘩をして大変だったが、おかげで感傷的にならず、みんなと楽しい時間を過ごすことができたのだった。
次の日。
レイーラは二日酔いの頭を押さえていた。
「痛てて……」
彼女のこんな姿を見るのは初めてである。嬉しさと悲しさが入り混じってやけ酒をしたのだろう。
ゴリゴスとの別れは、それほどまでに寂しいことなのだ。
「タケルどん、みんな、さようならでごんす!」
ゴリゴスは俺達が見えなくなるまで立っていた。
俺は大きく手を振った。
「ゴリゴス! 達者でなぁッ!!」
それに答えるように、彼は大きな腕を振る。
俺達はゴリゴスと別れを告げ、カザンガの街を旅立った。
◇◇◇◇
1ヶ月が経った。
俺達はロメルトリア大陸を出て、メギドの大陸に到着。そこから各地を観光しながら船で出て、スタット大陸へと到着した。
マリエの港町から1週間歩く。
到着したそこは人口100万人の大きな国。高さ20メートルの外壁に囲まれ、壁の上は水路となっている。水分の多い壁は常に濡れており、つた植物が生えて灰色の石積みが緑色になっていた。
俺達の母国、スタット王国である。
みんなからは感嘆の声が上がる。
シシルルアは水しぶきの上がる水路を見上げて、珍しくも大きな声を出した。
「ああ! 帰って来たのねーー!!」
彼女にすれば、勇者パーティーに抜擢されたことは、死を覚悟した旅。再び母国に帰れるとは思ってもみなかったのだろう。
彼女の喜ぶ姿を見ると、喜びもひとしおである。
6人の門番をしていた城兵らは、俺達の姿に気がついた。
「お、お前、タケルか!? タケル・ゼウサード!?」
「ああ! ただいま」
門番達はバルバ伍長にも気がつき大騒ぎ。両手を上げて喜んだ。
「タケル・ゼウサードが帰って来たぞーー!」
俺はため息をつく。
「やれやれ、凄い歓迎だな。俺は一介の城兵なのだが……」
バルバ伍長はニヤリと笑った。
「フフフ。先についたロジャース達が、タケルの噂を広めたんだろう」
ロジャースとは、ワーウルフ討伐で活躍した城兵である。
王国中は騒ついていた。
門から城までは専用の馬車で移動する。
人々はその馬車を見てはボソボソと話した。
「噂の城兵が帰ってきたわよ! もの凄く強いんだって!」
「ジェネラルワーウルフを一撃で倒すんだってよ! すっげぇよなぁ」
「なんでもすっごいイケメンらしいわよ」
街中、俺の噂話で持ちきりじゃないか。
やれやれ。こんなんじゃ、落ち着いてカフェにも行けんな。
ーースタット城ーー
国の中央に存在し、その周囲を水路が囲む。場所は大きな橋を渡る。
アンロンは馬車の窓から顔を出した。
「アイヤー。立派なお城あるなぁ。水路が綺麗あるぅ。美味しそうな魚がたくさんいるあるよ!」
シシルルアは自慢げに微笑む。
「スタット王国は水路が発達していてね。とても清潔で美しい国なのよ。水路にいる魚は苔や藻を食べるために放し飼いにしていてね。食べちゃダメなのよ」
「ふーーん。でもあの魚、美味しそうあるなぁ」
「フフフ。そんな魚獲らなくても、この国は食べ物が豊富だから期待してて良いわよ」
「おお! それは楽しみあるぅーー!」
「この国が発展しているのは全て国王の采配なのよ。とっても頭が良い人でね。凄いの」
「へぇーー。凄い王様あるなぁ」
門を括り、馬車を降りると城兵のロジャースが大勢の兵士を連れてやって来た。
ワーウルフ討伐で活躍した第二兵団小隊である。
「「「「タケル! お帰り!!」」」」
みんなは俺の肩を叩く。
そしてバルバ伍長を見るやいなや気をつけの姿勢を取り、敬礼。
「「「「 伍長! お疲れ様です」」」」
キャンドル職人アイカは眉を寄せた。
「あの綺麗な姐さん、偉い人だったのか……」
シシルルアはアイカとアンロンを呼んで念押しした。
「2人とも。これから国王がタケルに会いに来るけれど、絶対に失礼がないようにね!」
「「 ??」」
2人は小首を傾げる。
「私、国王に失礼なこと言わないよ? そんな礼儀知らずじゃないね」
「俺だってそうだぜ! 姉ちゃん俺達を馬鹿にしすぎだ!」
シシルルアは更に念を押した。
「とにかく今から来る人が国王だから! 絶対に失礼はしちゃダメよ!」
そしてマーリアにも言う。
「あなたは大丈夫だと思うけど、念のために言っておくわ。今から来る人が国王だから!」
スタット国王を初めて見る3人は小首を傾げた。
俺は笑うだけである。
俺達は長い廊下を歩き、王の間に到着。
その扉を開けた。
瞬間。
「タケルゥウーーーー!!」
それは小さな女の子。
銀髪の少女が俺に抱きつく。
長い髪は複雑に結われており、シルクの服は煌びやかに輝き、高貴さを醸し出す。歳は10歳前後だろうか。僧侶リリーより歳下に見える。
アンロンが声を出そうとしたのをシシルルアは口を押さえて止めた。
「言ったでしょ! 失礼がないようにって!」
「「「 !? 」」」
そう、この少女、いや幼女こそが、我が母国の国王なのである。
「タケルゥウウウウウ〜〜」
やれやれ。
国王は変わらんな。
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