第84話 キャビアの移動
次の日。
約束どおり一辺が10メートルの鯨油蝋で固められた箱が完成していた。
箱と言っても開けるところはなく中身を取り出すのは蝋を破壊するしかない。
キャビアの小瓶は限界まで隙間を小さくして詰めて入れられていた。その数、およそ10万個。
昨日、テストをやってみた。空中に蝋箱を投げてキャッチ。中を砕いてみると小瓶は全く異常なかった。残りの問題は油なので手が滑る事。これは氷のテストの時に経験済み。革手袋で対応する。
順調である。
倉庫の屋根は外されて快晴の空が見えていた。
「うむ。絶好の移動日和だ」
職人達の仕事は終わっていたが、なぜかキャンドル職人のライカがやって来た。
その姿に目を見張る。それは女の子の格好。
フワフワのミニスカートにキラキラ光るイヤリングをしていた。
「へん! ちょっと気になったからな! 見に来てやったぜ!」
シシルルアは目を細めた。
「あらぁ、ライカさん。今日はえらく可愛い格好をしてますねぇ。誰かに見せたいのかしらぁ?」
「う、ううう、うっせぇな! こ、これはいつもの格好だぁ!」
俺は眉を上げた。
「可愛いじゃないか。イヤリング、似合っているぞ」
ライカは全身を真っ赤にして地団駄。
「バ、バカバカ! こっち見んな馬鹿野郎!!」
うーーむ、やれやれ。
かなり嫌われてしまったな。
俺が困っていると女子達はクスクスと笑っていた。
俺は目を細めた。
嫌われている身にもなってくれ。
「笑いごとじゃないぞ」
女子達は更に笑いを堪えた。
シシルルアは言う。
「昔の私を見てるみたい……。気持ちと行動が裏腹で。自分でも気付いてないのよね。好きになっていることが」
なんの話だ?
全くわからん。
俺はみんなと別れの挨拶をした。
「しばらくはママジャンでキャビアを売る。向こうではマーリア達が準備をしてくれているから順調にことは進むだろう」
女子達は眉を寄せた。
「「「「 達って? 」」」」
うーーむ。
向こうで弟子ができたことを話すべきだろうか?
バルバ伍長は目を細めた。
「女だろう?」
「……………」
女子達はウンウンと頷く。
俺は手を上げた。
「……じゃあ、行ってくる」
「タケル!!」
その声はライカだった。
珍しいな、ライカが俺を名前で呼ぶなんて。
俺はニコリと笑って答えた。
「どうした?」
ライカは顔を赤らめる。
「き、気をつけてな……」
「ああ、お前も達者でな」
「よ、良かったら今度、工房に遊びに来いよ。す、すげぇキャンドル見せてやるよ」
「ああ、寄せてもらうよ」
「ぜ、絶対来いよな! ま、待ってるからな!」
シシルルアは眉を上げた。
「あらあらぁあ〜〜。男はエロくて自慢話ばっかりするつまらない生き物じゃなかったかしらぁあ? そんな生き物を遊びに誘うなんて、おかしいわねぇええ??」
「ふ、ふふ、ふざけんなよ! タ、タケルは特別だ!」
「特別ねぇーー。タケルも男なんだけどなぁーー?」
「ぐっ! ぐぬぬ!」
「あーー今、あなたの後悔の念を感じますよぉ。あの時、男を馬鹿にするんじゃなかったーー!ってね」
「からかうなぁーーーーーーーー!!」
ライカの怒号に女子達は爆笑していた。
よくわからんが、女達は友情を深めているようだ。仲が良いのは最高だな。
キャビアの蝋箱は全部で6箱。
1箱の一辺は10メートルの正方形。
それを1箱掴み上げ、投げる。
ギューーーーーーーーーーーーン!!
狙いはママジャン王国の方角20キロメートル先。初めて見る光景にライカは驚きを隠せない。
「す、凄え」
続け様に2箱、3箱と投げ、最後の6箱を投げ終わる。
みんなに挨拶。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
みんなの挨拶が終わる間もなく、スキル神速で飛び出した。
ビューーーーーーーーーーーーーン!!
瞬く間に20キロを移動。
空を見上げる。
「おお、来た来た!」
1箱目をガシンと掴み、再び20キロメートル先へビューーンと投げた。
これを6箱繰り返す。
流石はキャンドル職人ライカの仕事。
蝋箱はひび割れすら起こさず、しっかりと形を保つ。
順調に繰り返し、2時間もすればママジャン王国の入り口付近に到着したのだった。
俺は蝋箱を置いて神速で倉庫まで行く。
「タ、タケル様! 帰ってきていたのですか!?」
「倉庫の屋根を取っ払ってキャビアを入れる! 危ないから、倉庫には人を近づけないようにしてくれ!」
「わ、わかりました!」
再び蝋箱の所まで神速で戻り、6箱を空中に放り投げて移動。
神速で倉庫に移動して6箱をキャッチ!
無事完了である。
「ふぅ〜〜。なんとか終わったな」
アンロン絶叫!
「師匠凄いある! これ全部蝋で出来てるあるか!? 前代未聞的運搬方法ある!」
俺はマーリアに謝った。
「遅くなってすまん」
マーリアは絶賛した。
「お、遅いなんてとんでもありません! これだけの荷物、カザンガから運搬すると3ヶ月、いえ、半年はかかったと思いますよ。それをわずか2時間でやるなんて凄すぎです」
「少し準備に手間取ったからな。意外と運搬方法が難しかったんだ」
マーリアは蝋でできた箱を見て汗を垂らした。
「そのようですね。こんな蝋の箱、見たことありません」
アンロンは俺を抱きしめて顔を擦り付ける。
「師匠♡ 師匠♡ 師匠♡」
「アンロン、少し汗をかいているから辞めてくれ」
「師匠の汗ならむしろご褒美ある! スゥーー!」
「ちょ、ちょっとアンロン! あなただけ狡いわよ! 私だって!」
いや、狡いの意味がわからん。
マーリアも俺を抱きしめた。
俺の汗臭い体臭を胸一杯に吸い取る。
「タケル様ぁ。スゥーーーー」
……俺はどう対応したらいいんだ。
「師匠ぉおおおおおお〜〜」
「タケル様ぁああああ〜〜」
やれやれ、これが2人にとって幸せみたいだからな。それに、寂しい思いをさせてしまったのもあるし、少しだけ付き合ってやろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます