第85話 キャビアの販売

蝋箱の破壊は人海戦術である。

ただ壊すだけならば、俺のスキル神砕破を使えばいい。しかし、中にはキャビアの小瓶が入っているのだ。

勢い余って小瓶を壊しては今までの労力が無駄となってしまう。


職人を20人雇い、丁寧に壊していく。


その間に販売側の目処をつける。

アンロンが独自のルートに精通していた。


キャビアは貴重な食材ではあるが、高すぎて並みの食材店では買ってもらえないのだ。

そこで登場するのが美食ギルドである。

金持ちの食通だけで形成された組織。高級レストランなどに繋がりがある。


「私の故郷、チューン大陸には美食家が多いね! だから美食ギルドが形成されて、色々な大陸に繋がっているある!」


そのギルドはママジャン王国にもあった。


◇◇◇◇


ーー高級レストラン 食龍宮ーー


その地下。


俺達はアンロンに連れられるまま、怪しい部屋に通された。

そこには様々な人間がいた。

そのほとんどが貴族、金持ち。

そして高級食料関係者である。


俺は背負っていた革のリュックからキャビアの小瓶を10個ほど取り出した。


みんなは目を細めた。

特に驚く様子も見せない。

その中で一際眼光の鋭い男が声を漏らした。


「ほぉ〜〜。キャビアか」


男の名前はガイゼル。

鼻が大きく、鷹のクチバシのように尖っていた。ガイゼルは、今更キャビアなど珍しくもない、とでも言うような、呆れた表情を見せた。


しかし、試食した瞬間、反応は変わった。


「な、なんだこれは!?」


ガイゼルは汗を垂らす。

美食家達からも感嘆の声が上がった。


ガイゼルはキャビアを匙に乗せてマジマジと見つめた。


「この色、艶。ロメルトリア海域のロンギヌスシャークであることは明白。しかし、味が別格だ! 振りかけた塩に特徴があるのか?」


俺は答えを言おうとする。


「このキャビアは──」


「黙れ小僧! この美食家、ガイゼル・ユースラの舌を舐めるなよ! 当ててやる! どこの産地か必ず当ててやるからな!」


……どうでもいいから値段をつけてくれ。


「港町ザザームか……いや、それにしては濃厚だ。この血液のような風味……。これは鉄分か。鉄分となると火山帯! そうかわかったぞ! これはカザンガのキャビアだ!」


「うむ、正解だ。それじゃあ値段をつけてくれ」


「こらっ! 当てたのに反応が薄いな小僧!」


興味がないんだ……。

しかし、客を怒らせるわけにもいかんか。褒めるのは苦手だな。


「産地を当てるなんて凄いな。では値段をつけてく──」


「待て待てぇ! 流すな流すな! 反応が薄いのだ貴様はぁ! もっと称賛せんか! 拍手とか、立ち上がって『キャビアの産地を当てるなんて、す、凄い!』とかあるだろぅが!」


「そう言われてもな。元々こういう性格なのだ」


「全く、困ったヤツだな。それにしてもお前の持ってきたキャビアは凄いぞ! 日持ちが効くと言ってもな、本来、移動の際に味が変わる物なのだ。それにカザンガのキャビアは熱帯地域なのですぐ痛む。だから普通は輸入なんて不可能。それを内陸のママジャン王国で食べるなんて前代未聞だろう。しかも、不思議なことに、このキャビアは現地で食べる味とそっくりじゃないか! 味の劣化がまるでない!」


「現地で作って1ヶ月も経ってないからな。まだ新鮮なんだ」


「何!? そ、そんなキャビアをどうやってここまで運んできたのだ!?」


「それは企業秘密だ」


「わかった! S級魔法で空を飛んできたな! この少量のキャビアを抱えて! そうだろ! 当たっただろ!?」


「倉庫に山ほど置いてある」


「「「「「「 !? 」」」」」」


一同絶句。


ガイゼルの反応もあって、美食家達は俺の持ってきたキャビアを大絶賛した。


こうして値段を競り合うことになった。

一番高値をつけたのはグウネル・フランダールという高級レストランのオーナーだった。


1瓶、30万エーン。


その価格はキャビアとしては異例の高値らしい。意外にもあんなに異才を放っていたガイゼルは6千エーンの提唱で美食ギルドの中では1番低い価格だった。


俺は納得がいかずアンロンに耳打ちした。


「ガイゼルはなぜ6千エーンなんだ? 

普通のキャビアでも20万エーンはするんだぞ? もっと金に物を言わすタイプじゃないのか?」


「ガイゼルは食通としてはうるさいあるが、お金持ってないある」


そんなパターンもあるのか……。


俺は試食用のキャビアが、まだ5個ほど余っていたので、それをガイゼルにこっそりあげることにした。


「何、う、売ってくれるのか?」


「このキャビアの評価を上げてくれたお礼にプレゼントするよ」


「な、何ィィイ!? き、貴様ぁ! タケル・ゼウサードとか言ったなぁ〜〜」


やれやれ、プライドを傷つけて怒らせてしまったか。


「ありがとう〜〜! 嬉ぴぃーー!」


そう言って涙を流して俺に抱きついてきた。

俺は気持ちが悪いので即座に引き剥がしたのだった。


◇◇◇◇


ーータケルカンパニー倉庫ーー


キャビアの小瓶は全部でおよそ10万個あった。グウネルはその全てを買い取るという。

それが、1つ30万エーンで売れたので3千億エーンの売り上げである。

グウネルの資産は桁外れ。小国の国家予算と言ってもいい。

それにしても、こんな大量のキャビアを売りさばけるのだろうか?


「グウネルは美食家や貴族、王族との繋がりが強いある。内陸の人達にとって、このガザンガのキャビアは宝石的価値があるね。だからあれだけ買ってもグウネルは倍以上の儲けになるある」


グウネルは大きなお腹をポンポンと叩いて笑った。


「フォッフォッフォッ! タケルさん。私のギルドは主要都市に散らばっているのですが、遠い小国の食材は移動手段が難しくて手に入りません。だから、もの凄く貴重なのです。良ければ他にありませんか? あれば高値で買わせていただきますよ」


カザンガのキャビアは買い占めてしまったからな。他に売れる物といえば……。

そういえば、みんなの土産に少しだけカザンガの名産、火山ガニをキャビアの蝋箱に入れて持って来たんだった。


「火山ガニならあるが、食べてみるか?」


「何!? こんな所でカザンガの蟹が食べれるのか!?」


それは倉庫の角。樽に塩水を入れて生かしていた。


試験的に火山ガニを20匹ばかり箱に詰め込んで持って来ていたのだ。


蝋で密封される為、賢者シシルルアに風魔法ウィンドを魔硝石に封じ込めて一緒に入れる。これによって息ができるようになったのである。

案の定、火山ガニは生き生きとして動いていた。


2時間ばかりの運搬ならば、この方法で生きたままカザンガの街からママジャン王国に運ぶことが可能なのだ。


火山ガニを一杯試食するとグウネルは唸った。


「これなら一杯、300万エーン出そう」


食糧としては破格の値段。

現地では一杯3万エーンである。

しかし、内陸のママジャン王国で、生きた火山ガニを食べれるのは歴史的快挙なのだ。


キャビアは30万、蟹は300万。

キャビアの10倍の値がついた。


目標はママジャン王国の損失額、6千億エーンを稼ぐこと。

只今3千億エーンの黒字である。


「残り3千億エーン! 次は蟹を売るぞ!」


再びタケルカンパニーが動いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る