第78話 第三試合 優勝者は誰だ?

俺の言葉に激怒してブラッドドラゴンは奇声を張り上げ、口から何かを吐いた。


「ギィイエッ!!」


吐瀉物としゃぶつは凄まじい速度で俺を襲う。

人間の反応速度では見切ることが不可能なものだ。

故に勘を利かせて避けた。

度重なる戦闘で得た『勘』である。

ブラッドドラゴンの仕草、目線を観察して、飛来角度、着弾位置、を勘を働かせて察知し、避けたのだ。


吐瀉物は血液だった。

それを球状にして口から吐いたのである。


「ギョエエ! ギョエエ!」


奇声と共にいくつも吐く。

俺は全て勘で避けた。


ブラッドドラゴンの身体はギセイガの血液で形成されている。故に血液を飛ばせば身体が小さくなってしまうはずだ。

にも関わらず、何個飛ばしても奴の身体は変わらなかった。


おそらく、血液の球状は薄い膜でできており、中は空洞。つまり、空気を薄い血液の膜で包んで空気弾を撃っているのだ。名付けるならば血液空気弾であろうか。

しかし空気とはいえ、その威力は凄まじい。石舞台の床をバグンバグンと爆ぜさせた。


攻撃が当たらないブラッドドラゴンは血液空気弾の軌道を変えて発射させた。



「キャァァァアッ!!」



闘技場で悲鳴が響く。

誰かが血だらけで倒れている。

それはイエローン公爵だった。

空気弾を喰らい身体は破裂。

その真っ赤な血液は宙に浮き上がりブラッドドラゴンへと吸収された。

そのおぞましい光景に観客席からは悲鳴が上がった。


スキルさえ使えていれば……。


公爵を助けられなかった悔しさが頭の中を駆け巡る。思わず奥歯を噛んだ。


「クッ……!」


ブラッドドラゴンの身体は公爵の血で更に大きくなった。8メートルはあるだろうか。足幅は石舞台を埋めつくす。

あきらかに大幅パワーアップである。


しかし、勝つしかない。


「鈍間なドラゴン! 俺のことが捕まえられるか?」


言葉で焚き付ける。

言葉だけは圧倒的にこちらが有利なのだ。


ブラッドドラゴンは、奇声を上げ、その大きな手の平で俺を掴もうとした。


ブォン!


振り下ろした腕の動きで大風が起こる。

その力はさっきより数段増していた。


「きゃっ!」


マーリアのミニスカートが捲れ上がり、真っ白い下着が見えてしまう。

正面にはヒラヒラのレース、真ん中に薄い緑色のリボンをあしらう。


「フーー」

落ち着くように深呼吸をして、戦闘に集中する。


「鈍間なドラゴン! どこ見てる! こっちだぞ!!」


ブラッドドラゴンは素早い俺に苛立った。そして、打点を見誤る。



ドゴンッ!!



これを待っていた!

言葉の誘導。

成功である。



「おい審判! あの手を見てくれ!!」


「あ!!」


カウンティアは目を見張る。


「ギセイガ選手! 手が舞台からはみ出ています! 場外です! 勝者タケル・ゼウサード!!」


闘技場は拍手喝采。歓声に包まれた。


「さっすが師匠あるッ!」

「タケル様凄いです!」


ママジャン王は狂ったように飛び上がる。


「ヒヒー!! 勝ったぁぁあ!! 私の勝ちだぁぁああッ!!」


そこにブラッドドラゴンの血液空気弾が放たれた。

喰らえば木端微塵である。


即死。


やれやれ、王のギャンブル狂いには困ったものだ。このブラッドドラゴンを倒せなければ場内にいる数千人の観客達は皆殺し。血液を吸収したドラゴンは巨大化して国を滅ぼすことになるだろう。

ギャンブルが元で国の滅亡など目が当てられん。


マーリアが悲鳴を上げるより早く、俺は動いていた。



「スキル闘神化アレスマキナ 神速」



ギューーーーーーーーーーーン!!



凄まじい速さでママジャン王を抱きかかえ移動。空気弾を避けた。


「へ? へ? なんだ? どうなってる?」


俺は状況を理解できない王を一喝。



「国王! お遊びもほどほどです!!」



ママジャン王はその場に座り込み、混乱した思考をまとめるように呟いた。


「じょ……城兵に怒られてしまった……」


さて、ドラゴン退治といきますか。


俺は神速を使いブラッドドラゴンの背後に回った。


「スキル闘神化アレスマキナ 絶対零度」


凍ったドラゴンをスキル神腕にて破壊。

粉々になるも小さな破片は溶けて再び集まってドラゴンと成った。


「タケル様! このタイプはスキル灼熱血行で蒸発させてしまうのが有効なのでは?」


「うむ。確かに、そうすればたちまち消滅するだろう。しかしな、それは避けたいんだ。可能性が少しでもあるのなら……」


「可能性?」


「マーリア。あのドラゴンを全て破片も残さず凍らすことができるか?」


「お任せください! スキル、カースブリザードッ! ハァーーッ!!」


彼女は、ジャミガから受けた氷の呪いをスキルに変えて自由自在に扱えていた。カースブリザードの威力で石舞台全体をカチコチに凍らせる。ブラッドドラゴンは永久氷土のマンモスのように固まっていた。


「審判。確か君は聖女だったな」


「は、はい。ママジャン王国の神殿で務めていますが?」


「ブラッドドラゴンの呪い。解く方法はないか?」


「強力な禁術です。神殿の解呪術が使える神官、10人は必要でしょう」


「神殿にはどうやって行くのだ?」


「馬でも数時間はかかります。そこで神官を集めて、またこちらに戻って来てと、1日はかかると思いますよ」


「よし! では神殿の場所を教えてくれ」


「きゃっ!」


俺はカウンティアを抱きかかえ、マーリアに笑った。


「すぐ戻ってくる」


マーリアはニヤリと笑い、頷いた。


「お気をつけて」



ギューーーーーーーーーーーン!!



神速で城を出発。


「はわわわわわわーー! 神殿はあっちれすぅうううう!」





10分後。



俺はマーリアの元へと帰った。


「お帰りなさいませ」


ママジャン王は首を傾げる。


「ひ、1人で帰って来たのか? 神殿の神官達を連れてくるのではないのか?」


「もちろん、連れて来ましたよ」


「どこに!?」


遠くの空から「あーーーー!」という悲鳴が聞こえ、その声はどんどん大きくなる。

俺は空を見上げて神速を発動させた。


空からは神殿で放り投げた神官達が落ちて来た。俺は一人一人キャッチする。


それは瞬く間。

闘技場には10人の神官が揃った。


国王は汗を飛散させた。


「す、凄いッ!! こんなことが!?」


「俺1人では10人も持てませんからね。神殿から放り投げてここまで移動したんです」


「凄いある! こんな移動方法見たことないある! やっぱり師匠は尊敬的人物ね!」


神官達は凍りついたブラッドドラゴンを囲み、解呪術を施す。

血液は人の身体になり、腹から出血するギセイガへと変貌した。



「グ……グフゥッ!」



解呪術は人間に戻すだけだ。

腹部は、自分で刺したナイフで致命傷である。


「僧侶を集めてくれ!」


俺の掛け声で、ギセイガには3人の僧侶が回復魔法を施す。

奇跡的に一命を取り留めた。


石舞台には血液が飛散する。


「タケル様……。この血液は?」


「ブラッドドラゴンの攻撃に身体を粉砕されたイエローン公爵だよ。解呪術は人間の姿に戻すだけだから、ドラゴンに殺された公爵は戻らなかったんだ……」


命を助けられなかった悔しさで場は沈む。

そこに嬉々とした声が上がった。


「やったぞ! イエローン公爵がいなくなれば私の領土が増える! 賭けには負けたが大儲けだ!!」


それは公爵達の中でも軽症だったブルルノ公爵だった。

彼はイエローンの死より、自分の利益を喜んでいたのだ。


「やれやれだな。人は死んでも、欲は不滅か……」

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