第77話 第三試合、恐怖の敵

アンロンはサラシを外し俺の腕を抱いていた。かなり胸が大きい。

鋭い目つきではあるが、よく見れば相当な美少女である。


「私は師匠の好みに寄せるある! マーリア姫みたいに、可愛い服装が好みあるか?」


マーリアは、俺のもう片方の腕を抱いた。


「ちょっとアンロン! タケル様の側にいるには色々とルールがあるんだからね!」


「ルールって何あるか? 師匠と弟子の関係にマーリア姫は関係ないある!」


「複雑な事情があるのよ!」


俺は目を閉じた。


「頼む……仲良くしてくれ」


「「 はーーい♡ 」」


そう言った後に2人は睨み合うのだった。


弟子を取ったつもりはないが、おかしなことになってしまったな。

やれやれ、城兵の俺が師匠だなんて、前代未聞だぞ。


第三試合の相手はイエローン公爵の用意した選手だった。それは痩せ痩けた中年の男で、目の下は、黒くクマになっていて貧相。

誰が見ても弱そうであった。


このゲームには公爵一人当たり250億エーンの賭け金がかかっている。

そんな大金をこの男に賭けるなんて、どう考えても不自然だ。


オッズは9対1。

当然ながら俺が圧倒的な人気を得る。


イエローン公爵は貧相な男に声をかけた。


「いいか! この試合で勝てばお前の家族は安泰だ! 借金は帳消し! 娘は身体を売らなくて済むぞ!」


どうやら、男は弱味を握られているようだった。

とはいえ、男から強者の要素は一切感じられない。なんならマーリアでも勝てるんじゃないだろうか?

一体どういうつもりなのだ?


ボーーン!


鐘が鳴り、ゲームは始まった。


実況者のカウンティアが声を張り上げる。


「さぁ始まりました! 最強の村人、ギセイガ・ツキモーノと最強の城兵タケル・ゼウサード! 最後のバトルです!」


ギセイガは懐からナイフを取り出した。

その腕は震え、とても戦えそうにない。


かなり心配だな。


「大丈夫か? こんなゲーム、俺は乗り気じゃないんだ。事情があるなら話してくれ」


「か、家族が……。家族が助かるんだ」


「なんの話だ?──」


ギセイガはナイフを自分の腹に突き刺した。


「なぜだ!?」


「おおっと! これはどういうことでしょうか! ギセイガ選手、自分の腹部にナイフを突き刺したぁぁあッ!!」


「呑気に実況している場合か! すぐに僧侶を寄越してくれ!」


「それはできません。判定は敗北宣言、場外、死亡。この3つだけですから」


ふざけたギャンブルだ!


「おいギセイガ! 敗北宣言しろ!」


ギセイガはぶつぶつと何かを呟く。


「我……求める……仄暗い闇の底より……血竜の目覚め……」


これはもしかして……。


「師匠! 召喚術あるよ! 自分の命と引き換えにモンスターを呼んでるある!」


「いでよ! ブラッドドラゴン!!」


ギセイガの腹部から流れ出る大量の血液は空に昇り、やがて大きな竜と化した。

それは体長4メートル。二本足で立つ、真っ赤な竜だった。


「おおっと! これは召喚術で現れるブラッドドラゴンだぁぁあ!!」


イエローン公爵は笑った。


「ヒヒヒ! これはスキルじゃないぞ! 召喚術だぁーー!」


やれやれだ。

公爵はギセイガの弱味を握り、命を懸けてブラッドドラゴンを召喚させた訳か。


「ブラッドドラゴンは凶悪なモンスターとして有名です! 法令では禁術ですが、そもそもこのゲーム自体がご法度なのです! さぁゲーム続行となります! タケル選手、勝つことができるか!?」


ブラッドドラゴンは奇声と共に大きな爪を振り下ろした。


「ギョエエ!」


その速度は凄まじく人間の力を超えている。これを食らえば身体は引き裂かれ内臓が出て即死だろう。

俺は全力で飛び上がり避けた。


「タケル様! 闘神化アレスマキナを使ってください!!」


笑う。


「それはできない」


スキルを使えば負け。

このゲームはマーリアの身がかかっているのだ。


「そんな! タケル様の命の方が大切です!!」


マーリアの不安を取り除かなければならんな。

さて、どうやって戦おうか?


ブラッドドラゴンの攻撃は凄まじく、避けるだけで精一杯である。

それでも隙を作って、奴の膝へと蹴りを当てる。


バシャッ!!


しかし、攻撃はすり抜けてしまった。

まるで、流れ落ちる滝に攻撃しているような感覚である。


「ギョエエ!!」


奇声と共に鋭い爪の攻撃がくる。

俺は即座に交わすも、少し触れてしまった。


「うっ!!」


俺の右肩の服は破け、引き裂かれた皮膚からは血が流れた。


「キャァアッ! タケル様!!」


やれやれだな。

こちらの攻撃は当たらず、向こうの攻撃は水の刃になって肉を斬るのか……。


「タケル様! 敗北宣言をしてください! お願いします!!」


俺はマーリアを安心させる為に笑って見せた。


とはいえ、まだ答えは出なかった。


「し、師匠! 敗北宣言して欲しいある! こっちの攻撃は当たらず、向こうの攻撃は当たる。こんな相手、どうやっても勝てないある!」


やれやれ困った弟子だな。

諦めるのが早すぎる。


丁寧に指南してやりたいが、今はそうもいかんな。

さてどうやって戦うかな。

こんな時は相手との対比を整理することが大切なんだ。


まずは体格差。

奴は4メートルを超えている、俺の倍以上ある。向こうが圧倒的に有利。俺は不利だ。


防御面。

相手は水の身体だから俺の攻撃が当たらない。相手が有利。俺が不利。


攻撃力。

血液の爪は鋭利で殺傷力が高い。俺は丸腰。相手が有利。俺が不利。


さて、ここで思考が止まっては、負けが確定してしまう。

大切なのはここからだ。


上記に挙げた項目は直接、勝敗に影響する部分だ。

では間接的にならどうだろうか?

勝敗に影響が無さそうな項目……。

例えば、匂い、色、見た目。


声なんてのはどうだろうか?

相手は奇声を上げていて、俺は人語が話せる。これは俺が圧倒的に有利ではないだろうか。


「少し希望が見えてきたな」


俺はブラッドドラゴンの攻撃を掻い潜り、全力で距離をとった。



「おい鈍間! どこ見てる!」



俺の言葉に反応したドラゴンはプルプルと震えた。

先程までは余裕があり、まるで、ネズミを追いかける猫のように戦闘を楽しんでいたが、明らかに空気が変わった。


怒りの奇声が響く。



「ギェエエエッ!!」



ふ……。

所詮は人外の魔物。

勝機は見えたぞ。

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