第79話 城兵の貿易
俺はママジャン王との約束で、賭け試合の賞金1千億エーンを受け取った。
王は賭け事の胴元として大金を得た。
正にウインウインである。
イエローン公爵に利用されたギセイガは泣いていた。
ブラッドドラゴンから人間に戻り、命が助かったのだ。
「家族に……会える」
良かった。
イエローン公爵はギセイガを利用してゲームに勝とうとした悪人である。
かといって、彼が亡くなったことの理由にはならない。罪の償いは他の方法でもできたからだ。
公爵の命を失ったことだけが悔やまれるな。
ーーママジャン城ーー
「ダメだ! 危険な旅など行かせぬ! 私の病を悪化させる気か!」
王の間に怒号が響く。
「そんな! 私はタケル様と旅をしたいのです! お父様はあのゲームでたくさん儲けたはずです。旅に復帰させてください!」
「ダメだダメだダメだ!」
やれやれ、こうなることは予想がついていた。
「国王。俺はカザンガには戻りません。まだこの国でやることがあるのです」
「タケル様ぁ! もう父の金稼ぎなどには付き合わないでください! 命がいくつあっても足りません!」
しかし、国王は聞き耳持たなかった。
金の臭いがする俺の言葉に、別室にて2人だけで話すこととなった。
嬉々として話す。
「して、タケル殿! この国でやることとはなんだ?」
「損失の回復です」
「なんと!? デイイーアの火災で失った6千億エーンの回復とな!?」
「そうです。その影響であなたは寝込むのでしょう」
「そ、それはそうだが……。ならまた、あの武術大会をやって儲けるか!」
「あんなのは非効率です」
「何? 私は1千億エーンも儲けたのだぞ! ……はっ!?」
国王は、胴元で儲けた金額を言ってしまい、慌てて口を塞いだ。
俺の命懸けの戦いを金に変えたようなもんだからな。後ろめたい気持ちがあるのだろう。ま、俺も大金を得たからな。文句は言うまい。
胴元がそこまで儲かるのならば効率的なのかもしれない。賭け試合を数回繰り返せば損失はすぐに取り戻せるのだ。
しかし、その度に殺し合いになるなんてごめんだ。あの試合でイエローン公爵は命を落とし、ギセイガは死にかけた。そんな戦いをまた開催するなんてありえないだろう。
「さて国王。話の続きです。この国で儲けている貿易について教えてください」
「内政には興味がなかったのではないのか? タケル殿……。一体何を考えておるのだ?」
俺は国王から貿易のことを教わる。
ママジャン王国が他国との取り引きでもっとも多いのはこの3つ。
1位 食料。
2位 鉄。
3位 油。
なるほど。鉄は砂鉄を採掘する場所探しが大変そうだな。
油の採取方法は検討もつかん。
手っ取り早く儲けるには1位が簡単か。
「ではもっとも国民に需要があって、高値で取り引きされている食料はなんですか?」
「うむ。このママジャンの国は内陸でな。遠く離れた海産物は相当な高値が付くのだ」
「海産物? しかし、どうやって保存するのです? 氷は陸路で溶けるだろうし、すぐに腐ってしまう」
「ほう、タケル殿は商才がありそうだ。そんなことに直ぐ気が付くとはな。全くそのとおりでな、海産物は保存が効かないのだ。だから保存の効く海産物が人気なのさ」
国王はパンパンと手を叩き、メイドに食べ物を持ってこさせた。
それは見たこともない。小さな粒々とした球状の食べ物だった。
スプーンで、ひと匙すくって食べる。
塩気が効いていて美味。一粒一粒に旨味が凝縮されており、プチンと中が弾けると旨味のある汁がトロリと出た。
「旨いですね。なんです、これ?」
「キャビアさ。ロンギヌスシャークの卵を塩漬けにした物だ」
「初めて食べました」
「ハハハ、まぁ、そうだろうな。そなたが食べたそのひと匙で1万エーンくらいするのだ」
「!?」
俺は2口目を食べようとして手が止まった。
城兵の月給は12万エーンである。
キャビアは小さな瓶に入っており、その一瓶が20万エーンもした。
よし、キャビアを大量に持ってこれれば相当な額が稼げる筈だ。
◇◇◇◇
俺はマーリアとアンロン、3人でキャビアについて話した。
マーリアは俺の話に懐疑的だった。
「そのキャビアの輸入……。父のお金稼ぎが関係あるのですか?」
「安心しろ。キャビアの話はお前の父親に聞いたが、これは俺が勝手にやる事だ。折角、大金が入ったんだからな。利用しない手はないだろう。ママジャン王国に食を提供して、みんなが豊かになる。そして俺達も儲かる。なんだか面白そうじゃないか」
「じゃあ……、本当に父にお願いされた訳ではないのですね?」
「ああ、俺がやりたいことなんだ!」
マーリアは飛び跳ねて喜んだ。
「つまり貿易ですね! タケル様が起業されるなんて夢のようです! マーリアは全力でご協力します!」
「師匠のやることに弟子は付いて行くだけある!」
「よし、ならば、お前達にやってもらいたいことがある」
俺はマーリア達に500億エーンを渡して、国の中央に土地を購入させ、大きな倉庫と事務所を建設させた。余った金で人を雇い、運搬などの細かな仕事はやってもらうことにした。
会社の設立である。
看板を見上げてアンロンは口を開けた。
「アイヤーー! 師匠が社長になっちゃったある!!」
「うむ。タケルカンパニーの誕生だな」
看板には、【タケルカンパニーママジャン王国本店】と書かれていた。
「ここでキャビアを売ってやる!」
城兵が社長なんて、中々面白いじゃないか!
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