第67話 俺氏の闘い2

次の日。

タケルは約束どおり遊びに来てくれた。


「だからな! 俺氏はその貴族に言ってやったんだ。そんな人形は作れませんってな!」


「ははは。それは痛快だな」


俺氏達は笑って会話ができるようになっていた。タケルは俺氏のことを『オータクさん』と呼んでいたが、それもなんだか距離を感じるので呼び捨てで呼んでもらうことにした。


俺氏は、10歳の時から美少女人形作りを始めたことをタケルに話す。


もうかれこれ25年も作り続けているのだ。


タケルは目を細める。


「うーん。オータクの人形はたくさんの人に飾ってもらいたいな」


「無理なりよ。みんな美少女人形を不純な物だと思っているからな」


「それは勿体ないな。高等な趣味まで行かずとも、カジュアルな感じで楽しめる気はするがな」


「俺氏もそう思っているのだがな。みな偏見で人形を見るのだ。神や英雄の形をしていないとダメだってな」


「よし、今から売ろう!」


「へ?」


◇◇◇◇


タケルの発案で母さんの経営するカフェの前で露店を出して、俺氏の美少女人形を売ることとなった。


しかし、道行く人の反応は冷たい。



「英雄でも神でもない人形? ただ美少女なだけ? そんな物になんの価値があるんだね?」

「気持ち悪ぃ! 誰がそんな人形買うかよ!」

「男が美少女の人形を作っているって、なんだかいやらしい感じがするわね!」

「短いスカートの女の子ばかりねぇ。可愛いかもしれないけど、家に飾るのはちょっとねぇ」


極めつけは貴族だった。

この露店に気がついたのはコミケート男爵。

中年の男で目つきが悪く、意地悪で有名だった。


「なんだこの人形は? お前が作ったのか?」


俺氏は目を逸らした。

この男はどうにも好きになれないのだ。


そんな傍らタケルがフォローを入れる。


「この者は美少女人形を専門に作っている職人でございます」


「美少女人形ぉおお??」


「各国に存在する名もない冒険者や神官、聖女ではありますが、全てが美少女。この人形職人オータクが、美少女人形にかける情熱は凄まじく、これらの人形は非常に精巧に作られた芸術品でございます」


「カハハッ! 名もない人物を人形にするなんてバカがすることだ! 男2人でこんな美少女人形を売るなんてどうかしている! これが芸術品だと!? ゴミだ! こんな物はゴミクズ人形だ! 捨ててしまぇえい!! ガーーハッハッハッ!」


コミケート男爵の高笑いに便乗して、街の子供達は冷やかし小石を投げた。


「気持ち悪いぞオータク! そんなゴミ人形、燃やしちまえ!!」


俺氏は項垂れた。

そして、泣く。


「う、うう……。や、やっぱり……。やっぱり俺氏の人形はダメなんだ……うう……」


子供達は面白がって余計に小石を投げる。


「ギャハハ! オータク泣いてやんの! 情け無ぇ大人だな!」


しかし、俺氏に小石は当たらなかった。

タケルが全て掴み取ってくれたのである。

男爵はみんなを焚き付けた。


「皆の者、もっと石を投げろ! こんな気持ちの悪い人形は壊してしまえ!! どうせ名もない人物の人形。バチは当たらぬ!」


タケルはみんなを睨みつけた。

その気迫にみんなはためらう。


俺氏のせいでタケルに迷惑をかける訳にはいかんぞ。男爵を敵に回したら城兵のタケルはとんでもない目に遭うだろう。


「タ、タケル……。お、俺氏のことは気にするな。い、いつものことなんだグスン。お、俺氏の人形は、やっぱりみんなにはウケないんだよ」


「ガッハッハッ! そういうことだぞ若造よ! その人形職人の言うとおり、こんな物はゴミクズ人形なのだ!」


タケルは目線は益々殺気立つ。

男爵は思わずたじろいだ。


「な、なんだお前は! その態度! 貴様は一体何者だ!?」


「スタット王国の城兵。タケル・ゼウサード」


「城兵ぃいい?? たかが城兵が男爵の私にそんな目つきをしても良いと思っているのか?」


「………………」


「私の力を使えば、貴様の職を奪うこともできるのだぞ!? それどころか、まともな職にさえつけないようにもできるのだぞ!?」


いかん! 

コミケート男爵が言っていることは本当だ。タケルが失職してしまう!


「タ、タケルよ! お、俺氏のことを想ってくれるのは嬉しいが、その態度は不味い! あ、謝ろう! ふ、2人で謝ろう!」


俺氏が土下座しようとすると、タケルはそれを止めた。


「オータク。こんな奴に謝る必要はない」


「な! 何を言うんだ! タケル! お前の為だぞ!」


男爵は腕を組んだ。


「謝るのか、反抗するのか、どっちだ!? もっとも、謝ったところで、私が許すとも限らんがなぁ!」


「タケル! 謝ろう! さぁ、一緒に!」


タケルは俺氏の肩をポンと叩いた。

不敵に笑う。


「男爵! 俺達は明日もここで人形を売る! それが俺達の答えだ!」


な、なんてことを言うんだタケル!

男爵を敵に回して良い事なんて一つもないんだぞ!


案の定、コミケート男性は額の血管をピクピクとさせた。


「明日も人形を売るだとぉおおお? タケル・ゼウサード、貴様のその態度! 絶対に許さんからな!!」


男爵の怒号は街中に響いた。


タケル!

一体どういうつもりなんだ!?

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