第66話 俺氏の闘い1
〜〜人形職人オータクの視点〜〜
「バーーカ! 気持ち悪いんだよお前は!」
そう言って子供から小石を投げられた。
俺氏は人形職人のオータク。35歳。
デブでハゲで独身だ。彼女なんてできたことがない。
しかし、そんな事は問題ではないのだ。
なにせ仕事が生き甲斐なのだから!
俺氏が住む街はアーキバ。
人口20万人のまぁまぁ大きな街だ。
そこで俺氏は人形職人をしている。
宮廷専門の人形職人ならば、一生食っていけるだろうが、そんな仕事はつまらないなり。
貴族を美化した人形か、伝説の神の人形。作るといえばこの2つだけなのだ。
俺氏が専門に作るのは美少女人形だけである。
俺氏が、良い、と思った美少女だけを人形にする。職人としては異例のやり方だ。
美少女だけを人形にするなんて、と低俗的に扱われて、俺氏の見た目もあってか、変態扱いである。
でもいいのだ。
これが俺氏の人生なのだから。
◇◇◇◇
そいつが俺氏の工房にやって来たのは、母さんの経営しているカフェにやって来たついでだ。
身長178センチ。スラリとした細マッチョ。
フン……。顔はイケメン。
俺氏の強敵と言っていい。
そんな男が俺氏の工房になんのようがあるのか?
俺氏の工房はカフェの隣りにあって、常にひっそりとしている。
そんな所に気に食わないイケメンが来るなんて、本当に珍しいことなのだ。
「これは……見たことがないな。どこかの英雄かい?」
その男は、俺氏の作った美少女人形を見ながら澄んだ声を出した。
爽やかで、清々しい。なんとも印象の良い声である。
闇の世界に生きる俺氏とは空気感が全く違う。
しかし、貴様の雰囲気。
わかるぞ!
どうせバカにするのだろう?
今までのパターンがそうだったのだ。
傷つくのはゴメンこうむる。
フン!
「なんで、こんな所、来たんだよ!」
俺氏は木材をナイフで削りながら、無愛想に言い放った。
にもかかわらず、男は爽やかな表情を見せる。
「横のカフェにな。飾ってあった人形が、実に見事だったんだ。女将に聞けば息子の工房で作っていると言うじゃないか。だから少し、見学に来たんだ」
「フン!」
俺氏は鼻で嘆息。
男は呆れた感じで笑う。
職人とは気難しいものだと察しているように。
「この人はどこかの英雄かい? 見たこともない女の子だが?」
適当に答えていれば飽きて帰るだろう。
「彼女は一般賢者さ。ドンドコイラって街のね。ローブが紫だろ」
「もしかして、この人形に使っている染料は葡萄の果汁を使ったのか?」
「まぁね。リアルを追求するのも職人の仕事なりよ」
「ふむ。凄いこだわりだな……」
そう言って真剣な眼差しで人形を見やる。
ふむ。少しは筋がある奴なりね。
やれやれ。
仕方ない、少しだけ付き合ってやるか。
本当は貴様に割いている時間など、微塵もないのだがな!!
少しだけだからな!
感謝するなりよ!
俺は自慢の人形達を紹介した。
「その横の女の子は砂漠の街ピラミンの神官。その横はペペンの村にいる女戦士──」
男は俺氏の説明を熱心に聞いた。
ただフンフンと頷き。
時折、「凄いこだわりだ……」とつぶやく。
男の狙いはわからないが、こんなことは初めてである。
気がつけば1時間以上もそいつと話していた。いや、俺氏が語っていたといった方が正確か。
男は腕を組んだ。
「どれも初めて見る人形ばかりだ。しかもどれもが美少女。凄まじい躍動感。今にも動き出しそうだ。色のこだわりなど、相当なこだわりを感じる。あなたはさぞや名の通った人形職人なのだろうな」
普通なら嫌味に聞こえる質問である。
しかし、この男には微塵もそんな気は感じられなかった。それどころか、俺氏に対して尊敬の念を感じる。
俺氏は珍しく、弱音を吐いた。
他人にこんなことを話すなんて、本当に初めてのことである。
「そ、それがな。中々売れなくてな……結構、困っているなりよ。ナハハ」
「ふむ……。こんなに素晴らしい人形が売れないなんて、なんとも経営は難しいものだな」
不思議な男である。
こいつにならなんでも話せてしまいそうだ。
俺氏はまだまだ話し足りない感じだった。
しかし、男は長居したことに礼を言って工房を出た。
「か、帰るのか!?」
「ああ、仕事の邪魔をしては悪いからな」
まだ、名前を聞いていない。
というか、俺氏の事ばかり話していて、こいつのことを何一つ知らんぞ!
「お、俺氏はオータクだ! 人形職人オータク!」
男は微笑んだ。
「タケル・ゼウサード。スタット王国の城兵だ」
爽やかな風が吹いた。
男にときめいたことなんか一度だってないし、これは恋心でもなんでもないが、なぜか頬を赤らめていた。
「タケル! また遊びに来い!」
気がつけば誘っていた。
自分からこんなことを言うなんて生まれて初めてのことである。
タケルは微笑んだ。
「ああ、また来る」
俺氏はタケルの背中を見つめた。
大きく手を振る。
「また来いよ! 絶対来い! 次はとびきりの奴を見せてやる!」
タケルは俺氏に手を振ってくれた。
なんだこの男は!?
俺氏をこんな気持ちにさせるなんて!
タケル・ゼウサード、また会いたい!!
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