第54話 騙されたタケル 【ジャミガざまぁ回】

闇の祠を中心に半径100キロメートルは吹っ飛んだ。


辺り一面、焼け野原である。


気がつけば横たわっていた。

再生した身体はボロボロ。魔王様がかけた瀕死の術式の効果である。


く、苦しい……。


俺の目の前にはタケルが立つ。

その姿には傷一つ無かった。


ほ、本当に人間なのか!?

ば、化け物め!


なんとか時間を作らねば、周辺に飛び散った俺の小さな細胞は、わずかでも残っていれば再生できるのだ!


「た……助けてぐでぇ……」


必死の命乞い。


だ、騙されろタケル!

お前が求めていた、ざまぁみろ展開だ!


タケルは目を細めた。


「魔王が瀕死の術式をかけてくれたから、お前達は生き残ったな。不幸中の幸いか?」


ぐっ!

ひ、皮肉のつもりか!

いいさ、気持ちよくさせてやる!

そうさ、そのとおり。

俺達は魔王様の技で瀕死なのだ。

自業自得。

さぞや滑稽だろう。

今だけ、今だけは、貴様に、ざまぁみろな快感を味わせてやるぅうう!!


「グフ……。た、頼む、助けてくれぇえええ」


く、苦しい……。

しかし、これはチャンスだ!

瀕死だが、まだ俺と魔王様は生きている!


俺は、鋭い眼光を地に伏せている魔王様に見せた。

魔王様も僅かながら生きており、俺に目配せを送る。


”時間を稼げ!”


魔王様も理解しているようだ。

我々、上位魔族は、細胞の一欠片でも残っていれば再生ができる。


ここは、一旦逃げて距離を取り、また力をつけて復活すればいい。ククク、復活さえできれば復讐のチャンスはある!!


タケルは強すぎる!

こんな奴とまともに戦っては負けてしまう!   


俺と魔王様の細胞は爆発と共に50キロメートル先まで飛ばされていた。

飛散した細胞は集まり、小さな分身体を作る。

魔王様の細胞は、人間くらいの姿になり、俺の細胞は指の先端程の小さなカラスになった。


タケルの能力は一体どれくらい先まで察知できるのだろうか?

我々の分身体が逃げ切れれば復讐のチャンスだ!


ククク、悪は滅びぬぞ〜〜!

さぁ、演技の続きだぁぁあ!

騙されろタケル!!


「ああ、タケル! 苦しい! 止めを刺してくれぇええ!!」


魔王様も俺の演技に同調した。


「タケル・ゼウサード! 我れの負けだ。こんな苦痛は耐えられない。は、早く止めを刺してくれぇえ」


「魔王、そしてジャミガよ……。俺は遠くの物音を聞く、神聴力というスキルがあるのだが、知っているか?」


ギクゥッ!!


ま、まさか、その神聴力で50キロメートル先にいる我々の分身体に気がついたのか!?

タ、タケルならありうる! 

こいつの力は規格外なんだ!!

な、なんとか誤魔化そう!


「早く止めを刺してくれぇえ!! 苦しい!!」


「その神聴力で聞ける範囲は半径5キロメートルまでなのだ」


何!?

たったの5キロだと!?

なら全然ではないか!

ギャハハ! バカ目! 自慢のつもりか!

そんな技、今は全く役に立たんではないか!

我々の細胞は50キロメートル先なのだぞ。

5キロ圏内など、全くもって無意味。


焦って損した。しかし、念には念を入れて騙しておかんと分身体がやられたら終わりだからな。


俺と魔王様は懇願した。


「「 早く殺してくれぇえ!! 止めを! 止めを刺してくれぇええええ!! 」」


ククク……。タケル・ゼウサードよ。

今、俺達に止めを刺して小さな満足感をやろう! 

しかし、いつの日か、分身体が力をつけてお前に復讐をしてやるからな!


タケルはさらりと話す。


「それで、神聴力では限界があると思ったのだ。お前ら魔族はコソコソするからな」


「「 は?? 」」


「スキル神爆牙しんばくがを使おうと思う」


俺は嫌な予感がした。

聞かずにはいられない。


神 爆 牙ぁあ??


「な、なんだ、そのスキルは? デイイーアの街では使っていなかったぞ……??」


「うむ。ちと威力がありすぎてな。デイイーアの街では使えなかったのだ」


「い……威力がありすぎるぅ??」


「使えば街ごと吹っ飛ぶからな」


「「 街ごと吹っ飛ぶぅう!? 」」


「半径200キロメートルを爆発させる」


「「 200キロメートルゥ!? 」」


奴は爽やかに笑った。


「止めを刺してやるよ♡」


「「 ま、待てぇえええええええええええええええええええええええええ!! 」」


分身体は必死に走る!

上級魔族の高速移動!!


ドギューーーーーーーーーーーーン!


急げ!

は、離れるんだ!!

に、に、200キロメートル先へ!!


しかし、それでも100キロが限界だった。


タケルは力を込め、つぶやく。


「スキル闘神化アレスマキナ……」


こ、これは絶対にヤバイぞ!

半径200キロを吹っ飛ばす神爆牙を食らえば、分身体も罠を仕掛けた魔王城も、周辺に散らばった上級魔族も、みんな消滅するじゃないかぁぁあッ!!

全滅だぁぁああああああああああああああああああッ!!

やめてくれぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!!





「 神   爆   牙 」






ド      カーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン  !  



魔王邪力暗黒弾を遥かに上回る、凄まじい威力の爆発が起こった。

それは半径200キロメートル。

ありとあらゆる邪悪なものを消滅させる。

俺と魔王様。最後の叫びが天に響いたのだった。





「「 ギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 」」

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