第55話 グレン様…… 【グレンざまぁ回】

〜〜タケル・ゼウサードの視点〜〜


ーーデイイーアの街ーー


俺が戻ると民衆はマーリアを讃え歌い踊っていた。


「マーリア姫最高ーー♪」

「マーリア姫バンザーーイ♪」

「マーリア姫可愛いーー♪」


バルバ伍長の説明は終わったのだろうか?

リリーに聞いてみるか。


「なんだか賑やかだな」


「あ! タケルさん! もう〜、どこに行ってたんですか? みんな探してたんですよ」


「スマンな。ちょっと、トイレかな?」


まぁ、汚いモノを消し去るって意味では間違ってないだろう。


「なんだ、トイレだったんですね! もうね、マーリアさんが大変だったんですよ! みんながね……」


と、リリーは嬉しそうに一連の出来事を話してくれた。

マーリアの従者が戻ったこと、みんなに認められて胴上げされたこと。


俺が魔王を倒している間に色々あったようだな。


「そういえばタケルさん。さっき、大きな地震があったんです! あっちの方でなんか光った感じもしました。もしかして不吉なことの前兆でしょうか?」


リリーは闇の祠があった方向を指さした。


地震は俺の神爆牙だろう。

俺が魔王を倒した、なんてことを周りが知ったら、ゆっくりお茶も飲めないな。

知らないうちに平和がやって来た。

そんなのが理想かもしれんな。

リリー達をはじめ、このことは黙っておこう。知らない振りでもしておこうか。


「それは気がつかなかったな。なにせトイレに篭っていたからな」


「んもう、タケルさんったら呑気なんだから! フフフ」


「フ……」



呑気か……。

のんびりとして、いい言葉だな。

お茶に合う言葉かもしれん。

最高だ。





◇◇◇◇




1週間後。


街はまだまだ火事の後が残っていた。

俺達は怪我人の治療や、街の復興作業の手伝いをして、やっとそれなりの目処が立ったので旅立つことになった。





ーーワカツ平原ーー


「姫様、いけません!」


従者のカクスタニアが血相を変える。

ジャミガの事件が解決したというのに、マーリアは俺と一緒に旅をするというのだ。


マーリアは苦し紛れに叫んだ。


「わ、私はまだまだ未熟です! 今回のジャミガの件でよーーくわかりました! ですから、自分磨きの旅をタケル様と一緒にしようと思うのです!」


確か、彼女はみんなに胴上げされたんだよな? デイイーアの街人からは拍手喝采と聞いたが……。

それで未熟と言われても誰も納得せんだろう。


案の定、カクスタニアとスケラーニャはマーリアの袖を引っ張って止め始めた。


「「 姫様、帰りましょう!! 」」


「タ、タケル様ぁ! この2人を説得してくださーーい!!」


「……いや、流石にそれは無理だ」


やれやれ。王族の事情は俺にはわからんな。

なにせ俺は城兵だからな。3人で納得いくまで話し合ってくれ。


さて、俺は自分の国に帰ろうか。

母国スタット王国へ。

バルバ伍長には、のんびり帰る許可をもらっているんだ。

まずはゆっくりと旅をしながら、各地方のお茶を堪能したいな。


俺がそんなことを考えていると、勇者グレンの威勢のいい声が響いた。


「いいかお前達! 俺は変わった! 新しく生まれ変わったのだ! これからはもっと精進してだな! ゆくゆくはみんなに胴上げされて、可愛い女にキャアキャア言われて、グフ、グフフ……」


……変わったのか?


僧侶リリーはグレンに深々と頭を下げた。


「グレン様。今までお世話になりました」


「は? なんのことだリリー?」


「私、このパーティーを辞めることにします!」


「おい! てめぇ! んなこと許されると思ってんのかよ! ぶっ殺されてぇのか!」


リリーは目を細めた。


「グレン様ぁ! 女の子にそんな口の利き方をしたらダメですよ!」


ほぉ、リリーは強くなったな。

今までなら怖がって黙り込んでしまっていたのに。


俺が感心していると、今度は賢者シシルルアがグレンの目の前に立った。


「グレン様。私は今回の旅で思い知らされました」


「な、なんのことだよ!?」


「自分の人生を生きいたいと思ったのです」


「は?」


「想いを伝えないまま、死んでしまうなんて嫌です!」


「え? お、想いを……伝える? あ! そ、それってもしかして、俺に愛の告白か!? ダハハ! そうかそうか! ここにきてそういう展開かぁ! 確かにな! イフリートウルフと戦った俺の姿はカッコ良かったからな! デヘヘ! こりゃたまんねぇな! おいクソチビのリリー! てめぇは辞めるんなら、さっさと俺の前から消えろ! シッシッ!」


シシルルアは神妙な面持ちを見せた。


「グレン様……」


「ハイハイ、もしかしてチューですか? なんつって! タハッ!」


「お世話になりましたぁーーーー!!」


「にゃにぃいいいいい!!」


「私も勇者パーティーを辞めますね♡」


「ちょいちょい待てーーーーい! なんでそうなるんじゃーーーーい!! お前が抜けるなんて絶対の絶対に許さねぇからなぁッ!!」


「王国に誓った、命を賭けた旅でしたが、もっと大事なモノを見つけてしまいました。無責任かもしれませんが、今のまま、グレン様に付いて行っても、大切な命をドブに捨てるようなモノです。だから──」


シシルルア満面の笑み。


「辞めますね」


リリーとシシルルアは、軽い足取りで俺の元へとやって来るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る