第53話 悪の復活 【ジャミガざまぁ回】

〜〜呪術士ジャミガ視点〜〜


俺は魔王軍四天王呪術士ジャミガ。

スタット王国の城兵、タケル・ゼウサードに身体を粉々にされ、命からがら逃げてきたところである。


奴はミスをした。


俺の肉片はわずかながら生き残っていたのだ。

その質量はカラス1匹分である。

それでも身体中がボロボロで、空を飛ぶのがやっと。なんとか魔王様の所に行きさえすれば……。


俺は魔王城上空を飛び去り、少し離れた祠に向かっていた。

というのも、魔王城は人間を騙す為の仕掛けであり、入った者を必ず死に追いやる罠だからだ。

そんな城に魔王様はいない。

我らが主、魔王様は魔王城から遠くに見える、闇の祠に住われておるのだ。




ーー闇の祠 地下 魔王の間ーー




「ま、魔王様ぁぁああ!!」


俺は敬愛して止まない、我が主、魔王様に助けを求めた。

主は全長5メートル。大きくて立派な玉座に座られている。

低い声で俺を出迎えてくれた。


「どうしたのだジャミガよ。お前ほどの者がそのダメージ。ただごとではないな」


飛ぶことに力尽きた俺は、べチャリと地面に倒れ込んだ。


「ま、魔王様ぁあ。お助けを〜〜」


主が指を少し動かすと、俺の身体は人間の状態にまで復活した。


ああ、流石は魔王様だ! 


俺はひざまづき、頭を垂れる。


「ありがとうございます! 魔王様」


「うむ。訳を話せ」


「デイイーアの街でとんでもない人間と戦いました」


「ほう、お前ほどの存在がそこまで言うとは。一体どんな奴なのだ?」


俺は闘神の力を使う城兵タケル・ゼウサードのことを話した。


「ほう、人間の分際で闘神の力を使うのか。それは危険だな」


「奴らは、まだデイイーアの街にいるはずです」


「ふむ。では一撃で葬ってやろう。我が部下の恨み晴らしてやる」


流石は魔王様だ! 

人間なんて我らにとっては無能な存在。

我らより勝るなんてことはあってはならんのだ。

俺がとどめをさせないのが悔しいが、魔王様にぶっ殺されれば何もかもスッキリする。


そんなことを考えていると、主はとんでもなく素晴らしい発想を出された。


「生き物を瀕死にする術式を加えてやろう……。何も一撃で消滅させるのは勿体ない。それで瀕死になった城兵を我々で痛ぶって殺してやろうではないか」


「おおおお!! 流石は魔王様! 素晴らしいアイデアでございます」


「ふふふ。無能の人間どもは我々に殺されねばならん。苦痛を伴ってな!」


「全くでございます! 無能の人間が我々に勝つなんてありえない!! 苦しみ悶え、助けを乞うて死ななければならないのです!!」


「うむ! では早速、我が魔王邪力暗黒弾をお見舞いしてやろう!」


魔王様は両手にパワーを溜め始める。


「ふぐぅ…………ぬぐぐぐぐ……!!」


魔王邪力暗黒弾は魔王様の最強技だ。

生成にはかなり力を使う。


「ぬは……ぬははは……。できたぞ。我れの最強技。魔王邪力暗黒弾が!」


それは大きな魔力の玉だった。

真っ黒い球体で周囲をバチバチと稲光がまとう。

主は玉座に座ったままそれを投げた。



「ハァァァアアアッ!! 死ねぇ人間ども! 瀕死になり苦しめタケル・ゼウサード!!」



それは地下からでも猛スピードで飛び去りデイイーアの街に向かって飛んで行った。


これで完全に終わった。

魔王邪力暗黒弾は魔族最強技。

その威力は周囲100キロを焼き尽くす。

しかも、今回は生き物だけを瀕死にする術式を施した。


苦しみ動けなくなったタケルを、どんな風にもて遊んで殺そうか?

想像するだけで涎が止まらん。

さ、最高だ!

魔王様万歳!!


俺は勝利を確信して笑った。


「ギャハハ! タケル・ゼウサード!! 思い知れぇ! 泣け叫べ! 助けを乞えぇぇぇええええ!!」



「断る」



はっ!?

こ、この声は、聞き覚えのある声だが!?




「話は全て聞かせてもらった」




それは王の間の入り口から聞こえた。

そこには、あの城兵、タケル・ゼウサードの姿があった。


「な、なぜお前がここに!? 警護は何をしていたんだ!? はッ!?」


タケルの背後には、警護をしていた上級魔族達の遺体が横たわる。


「バカな!」


上級魔族一体でイフリートウルフ1000匹に相当する強さなのだぞ!

この闇の祠は、そんな上級魔族が1000体以上も警護していたんだ!

それを全部倒してここまで来たのか!?

しかも、魔王様に気づかれず無音で!?


奴は魔族である我らでも凍りつくような笑みを浮かべていた。


お、恐ろしい奴だ。


「ま、ままま、魔王様!! こ、ここここいつです!! 城兵のタケル・ゼウサード!!」


「うろたえるな」


魔王様!

これがうろたえずにいられますか!


「タケル・ゼウサード! な、なぜこの場所がわかったのだ!?」


「カラスのお前が連れてきてくれたからな」


「な、何ィイ!!」


クソ!

跡を付けられていたのか!?

迂闊だった!!


……いや、待てよ?


「も……もしかて、お前。わざと俺を生かしたのではないだろうな?」


タケルは眉を上げるだけ。


な……なんてことだ。

お、俺がタケルをここまで案内してしまったのか……。


魔王様はタケルの規格外の強さにうろたえた。

主のこんな姿は初めてである。

しかし、流石は魔王様。すぐさまマウントを取った。


「タケル・ゼウサードよ! 今、我が飛ばした魔王邪力暗黒弾はデイイーアの街に向かったのだぞ? こんな所で長話しをしていて良いのか? 建物は全て破壊され、街人もお前の仲間達も、全て瀕死状態になってしまうぞ? 勿論、回復魔法など誰も使えぬぞ。みな瀕死状態になるのだからな! 1日も持たずに死んでしまうことだろう!」


「ギャハハハ! 流石は魔王様だ! タケル! 終わったな! お前は仲間達を見捨て、デイイーアの人口10万人を見殺しにした! 生き残ったのはお前だけという訳だ! ギャハハ! 悩め! そして後悔しろぉ!!」


タケルは目を細めて笑う。


「俺のスキルには敵の攻撃をそのまま返す『反転』という技があるんだ」


「「 は!? 」」


俺と魔王様は汗が止まらない。

タケルは不敵な笑みを浮かべた。


「魔王の技に『反転』をかけたからな。もうすぐ戻ってくる頃だろう」


ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


俺はうろたえる。


「こ、この音はまさか!?」


「そのまさかだ。魔王の技を反転で返したんだ」


「そ、そんなことをすればお前の命も危ないんじゃないのか!?」


「スキル 限界突破!」


突然、タケルの体は紅蓮のオーラに包まれた。


「な、なんだ!? その技は?」


「全身を闘神と化す技だ。この世のどんな攻撃も効きはしない。この技は数秒しかできないが……ま、十分だろう」



「そ、そんな! ズルイ……」




俺達は光りに包まれた。




ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

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