第45話 圧倒的強さ

ーーデイイーアの公園ーー


俺はみんなと合流した。

僧侶リリーは血相を変える。


「タケルさん! 街中が火事です!」


「ああ、ジャミガの仕業だ」


俺は魔王軍四天王呪術士ジャミガの呼吸を聞いた。

その呼吸は街の時計台から聞こえる。


「奴を見つけた」


みんなは驚く。


「「「え!?」」」


「急いで行こう! ゴリゴスみんなを持てるか?」


「それは大丈夫でごんすが、みんなをおいどんが持ってどうするでごんす?」


「まぁ、頼むよ」


ゴリゴスはみんなを抱え持った。


「も、持てたでごんすがこれで走るんでごんすか?」


俺はそのゴリゴスをスキル神腕を使って片手で持ち上げた。

驚きの声が上がる中、笑う。


「これだと一気に運べるからな。楽なんだ」


「ら、楽でごんすか!? おいどんを含めて300キロ以上はあるでごんすよ!」


「うむ。まぁ片手で高速移動は、ちとバランスが悪くてな。だから、悪いが、投げさせてもらう」



「「「「な、投げる!?」」」」



「時計台まで2キロって所だな……。んじゃあ、投げるからな。みんなしっかりゴリゴスに掴まっているんだぞ」



「「「「え!? ええ!?」」」」



「せーーの……っで!」



ビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッン!!



ゴリゴスは時計台に向かって飛んでいった。

女子達の悲鳴が空に響く。



「よし、次は俺だ。スキル闘神化アレスマキナ 神速」


赤いオーラを脚にまとい、闘神の脚へと変化させる。

地面を蹴ると爆音が響いた。



バグンッ!!



一瞬で移動。



ギューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッン!!




ーーデイイーアの街 時計台広場ーー



俺は瞬時に到着。

公園からは数秒しか経っていない。

空を見上げる。



「うむ。コントロールはばっちりだ」



上空からは大きな塊。

俺は片手を上げた。



ズシン!



問題なくキャッチ。

その手にはしっかりと重さが感じられた。

みんなは安堵のため息。



「お、おいどん、空を飛んだのは生まれて初めてでごんす!!」



俺達はすぐにジャミガを探す。



「時計台の上だ」



俺の言葉に一同は見上げた。

台の高さは50メートル。

その上に奴はいた。

俺達に気がついたジャミガは、ひょいと飛んでそのまま目の前に着地した。



「また会ったなぁ。タケル」



ジャミガは人間の姿をしていた。

しかし、その体は炎に包まれている。

いや、そう見えるだけで衣服が炎に変化しているのだ。


こいつの目的はなんだ?


ジャミガは余裕のある不気味な笑みを見せた。



「氷の呪いや、動物に変える呪いなんていうのはな。相手を苦しめることが目的なんだ」



俺達は嫌悪感とともに小首を傾げた。

ジャミガは雄弁に語る。


「炎の呪いがもっとも殺傷能力が高いんだ。直ぐに燃え死ぬからな」


これには勇者グレンが黙っていられなかった。


「てめぇ! 人の命をなんだと思ってるんだ! 俺にかけた呪いを解きやがれ!」


ジャミガはグレンの言葉を遮るように言い放った。



「命は俺のパワーになる!!」



パワーだと?


ジャミガが時計台の壁に手を置くと、台は炎に包まれた。


「フハハ! この台を中心に命のパワーを吸収する!」


すると燃え盛る時計台に、いくつもの火の玉が飛んできてぶつかり、台を伝ってジャミガの身体へと吸収された。

火の玉は街のあらゆる所から飛んでくる。


どういう原理なのだろう……。


火の玉を受けたジャミガの力は膨れ上がる。


「ギャァァァア!!」


後方より街人の悲鳴が聞こえる。

振り向くと、狼の形をした大きな炎の塊が、街人を咥えて燃やしていた。

燃えてしまった街人は火の玉となり、凄まじい速さで飛んでいき時計台に吸収された。


くっ……。助けられなかった……。


奴は人間を炎の呪いで燃やして、その命を吸収しているのか……。


ジャミガは勝利を確信するように高笑い。


「フハハ! ドンドン人間の命が集まってくるぞぉ〜〜! これで俺のパワーは10倍、いや、100倍になったぁぁああ!」


ジャミガの身体は膨れ上がり、10メートルを超える。

あの地下道の時より数倍も大きい。大きな顔に何本もの触手を付けてウネウネと動かす。


「私のパワーを見よ!」



ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


ほんの少し、触手を動かしただけで、近くにあった建物が一瞬で粉々になった。

みんなは目を見張る。


「タケルさん! 速すぎて見えません!」


「タケルどん! あいつ、地下水道の時より何倍も強くなっているでごんす!」


ジャミガは更に笑う。


「どうだ! タケル! 俺の触手に一瞬でも触れれば、身体は破裂し、万が一、肉体が残ったとしても呪われて死ぬのだ! ヒャハッ!! 圧倒的な強さとはこのことだぁああ!!」


俺は小首を傾げた。


「違うぞジャミガ。圧倒的な強さとは相手との力量差が離れた時に使う言葉だ」


俺の鼻持ちならない態度に、ジャミガは怒りを露わにした。


「死ねぇぇえええええ!!」


超高速の触手攻撃。

食らえば跡形もなく肉片と化す。


「やれやれ、言葉の間違いを指摘しただけなのだがな」


俺はゆらりと避ける。

ジャミガは躍起になって触手を連打した。


「死ね! 死ね! 死ねぇええ!!」


悠々とかわす。


「すまんな。やはりお前の言っていたことは正しかったよ」


ジャミガは当たらない攻撃に苛立つ。満身の力を振り絞った。


「俺は、100倍強くなったのだぁぁあ!!」


渾身の一撃。

しかし、それさえも空を切る。


笑う。


「俺とお前の差は圧倒的かもな」


俺は奴の眼前に現れた。


「ただし、俺の方が上だがな」




ド パ ン !




俺の拳が奴の顔面に当たる。

瞬時にスキル絶対零度にて氷結。

神砕破にて粉砕。

ジャミガは粉々に砕け散った。



「ギャァァァアアアアアアアアアアアアアア!!」



断末魔の叫び。



「やれやれ、汚い花火だな」

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