第44話 タケルとスタット王国第二兵団小隊

ーーデイイーアの公園ーー


勇者グレンは泣き止み、嗚咽が止まるも、座ったまま大人しくしていた。


シシルルアはブリザードの指輪に氷魔法の術式を仕込む。凍りつく呪いのマーリアには炎の指輪。発火するグレンには氷の指輪という訳である。

術式の仕込みが終わるとグレンの指にそれをはめた。


「グレン様。この指輪で一度だけ炎の呪いは回避できます」


グレンは黙ったままコクンと頷くだけだった。


やれやれ。

これで少しは仲間に感謝するだろう。


俺はバルバ伍長の呼吸を感じると、スキル神速を使って、伍長のいる場所へと向かった。



ーーワカツ平原ーー


スタット王国第二兵団小隊は馬車を引いてデイイーアの街に向かっていた。

その馬車には、ワーウルフから奪還した王国の財宝が積まれている。

兵士達は勝利の余韻に浸り、歌いながら道を進んでいた。


「随分と調子がいいなロジャース」


俺が目の前に立つと、みんなは歩みを止めて集まった。


「「「タケル!!」」」


バルバ伍長とウットイ兵士長は騒がしくなる外に気がついた。

後方の馬車から顔を出す。


ロジャースは誇らしげに馬車を差した。


「見ろよタケル! 王国の財宝はしっかりと奪い返したぞ! それもこれも全てお前のおかげだよ!」


「そうか……。それは良かった」


バルバ伍長は俺の顔つきに異変を感じとる。


「タケル……。どうした? 何かあったのか?」


「バルバ伍長……。実は……」


俺は、みんなに呪術士ジャミガが魔王軍四天王であることを明かした。

状況を正確に伝える為、勇者と魔法使い、ママジャン王国の姫が呪われたことも伝える。


みな、深刻な顔つきに変わった。

ロジャースは笑う。


「タケル。俺達を頼ってくれてありがとう! お前は強いから、なんでも1人でやってしまうものだと思っていたよ」


「街の人口は10万人だ。1人でも多くの人を助けたいからな。お前達の力が絶対に必要なんだ」


ロジャースはまた笑った。


「よーーし、みんな! 俺達はタケルに助けられた身だ! 1度死んでた命! 今度はデイイーアの為に使おうぜ!!」


兵士達は同調した。


「そうだ! そうだ!」

「四天王と命をかけて戦ってやる!」

「命をかけて街人を守るぞ!」

「この命! デイイーアの為に投げ出すぜ!!」


大歓声が起き盛り上がる中、俺は苦笑い。




「馬鹿言うな。お前達の命も大切だ」




これにはみんなも大爆笑。

しかし、中には感動して泣き出す者もチラホラ見えた。



「タ、タケルゥウ! 城兵の俺達にそんな優しい声を掛けてくれるなんてなぁ」

「タケルゥウウ! お、俺は今、猛烈に感動しているぅう!!」

「タケルゥウ! ありがとう! ありがとうタケルゥウ!!」

「お前はいい奴だなぁタケルゥウ! 大好きだぁ!!」


俺は笑っていさめる。

そして確認した。



「俺と一緒にデイイーアの街を守ってくれるか?」



城兵達は高々と腕を上げた。




「「「 おおおおおーーーーーーッ!!」」」




この輪に入れず、蚊帳の外だったのはウットイ兵士長。プルプルと震える。


「じょ、城兵達が、あんなにも一丸となっている。タ、タケル・ゼウサード。お前は本当に下級城兵なのか?」


俺はみんなに約束した。



「俺は魔王四天王ジャミガを倒し、必ずみんなと生き残る!!」



城兵達は更に大きな声を張り上げた。


「よぉーーし! やってやろうぜ!」

「城兵の力を見せてやる!」

「俺達でデイイーアの街人を助けるんだ!!」

「ジャミガはタケルに任すけどよ! 街人は必ず、俺達が守ってやる!」

「うぉーー! やってやるぜえぇ!!」


その光景にバルバ伍長はニンマリと笑う。


「フフ……。流石はタケルだ。城兵達の気持ちを1つにしてしまったな」


兵士長ウットイは何も言えず、項垂れていた。

俺は兵士長の肩をポンと叩く。


「ウットイ兵士長。どうか、デイイーアの街人を守ってください」


「……お、お、お、おう。ま、まま、任せておけ」


目が泳ぐ兵士長。

俺の実力を理解して、今まで偉そうにしていたのがどうも気まずい感じだ。

かなり動揺している。

それでも、この人は真面目な人だからな。

デイイーアを一生懸命に守るだろう。

きっと上手くみんなをまとめてくれるはずだ。


「頼みましたよ」


「ひゃ、ひゃい!」


ハイという返事が裏返っている。

……まぁ、バルバ伍長が指揮をとるしな。

大丈夫だろ。


そこへ突然の呼び声。

ロジャースは1キロ先に見えるデイイーアの街を指さしていた。


「タケル! 見ろ! デイイーアの街がおかしいぜ!」


たくさんの煙りが、街のいたる所で上がっているのが見えた。

バルバ伍長は汗を流す。


「タケル! あの煙りは?」


「煙の数が多すぎる……。ジャミガが動き出したんです」


場に緊張が走った。

四天王との戦いはもう始まったのである。


「伍長。俺は先に戻ります。ジャミガとは俺が戦いますから、みんなは街人を助けてください」


「わかった! 急いで行く!」


「お願いします」


「タ、タケル! こ……この戦いが終わったら、2人きりで、お、お茶だぞ!」


「…………わかりました。無事終わったら、お茶しましょう!」


俺はスキル神速で地面を蹴り飛び出した。



ギャンッ!!



爆ぜる地面。


その速さに兵士達は目を丸くするのだった。



「「「す、すげぇ〜〜。もう見えなくなっちまった!!」」」

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