第28話 似たもの同士

ーー温泉宿ザパン 女湯ーー


マーリア姫は不敵に笑う。


「タケル様はとっても素敵な方ですから、こうなる未来は想像できました。必ず、恋敵が現れると」


僧侶リリーはハッと気がついたように息を呑む。


確かに、私も今、気がついた。

タケルのように優しくて強くて誠実でイケメンな男を、誰が放っておくというのか?

思えば彼はスタット城内でも噂の人だった。

その時の私は恋などに全く興味がなかったから、彼の噂など微塵も気にしたことがない。

しかし、魔王討伐の旅が始まり、彼の良さはすぐにわかった。彼を想うのに時間はかからない。


マーリアはタケルと今日会ったばかりだけれど、もう彼の虜なのね。

時間が経てば更に好きになるはず。

早くなんとかしなければ、彼を獲られてしまうわ。


私の焦りより早く、リリーは攻撃に転じた。


「マーリアさんは一国のお姫様。タケルさんは城兵です。これは身分違いなのでは?」


しかし、こんなことは、彼女の覚悟にとっては小さな障害だった。

ただ不敵に笑う。


「心得てます。私はタケル様に付いて行くのみ。最悪は一般市民になっても良いとさえ思っております」


これにはリリーの口が塞がらなかった。

マーリアの想いの強さを目の当たりにする。


次は私の出番ね。

マーリアを言い負かして、タケルを諦めらせなくちゃ。



「マーリアさんは貴族や王族から求婚を受けているのではないのですか?」


「ええ、それはもう腐るほど。連日連夜、受けておりました」


「では、既に良い人がいるのでは?」


マーリアは自身を持って即答。


「おりません。それに……。一度足りとも男性にときめいたことなどありません」


あら、私と同じじゃない。

思えば、賢者の学校では男賢者からの言い寄りが後を絶たなかった。

そんなこともあって恋愛に興味がなかったのかもしれない。

男は私の見た目ばかりを見て、身体を求める……。


マーリアも似たようなことを言う。


「男性は私の見た目ばかり見て、心で通じ合うことはできませんでした。とても恋愛感情なんて芽生えません」



じゃあ、初恋がタケルってことになるのね。そんな所も同じか……。


私がそんなことを考えていると、リリーは目を輝かした。


「わ、私も同じです」


「「え?」」


「私も、僧侶学校では男僧侶達からたくさん恋文をもらったり、言い寄られたりしました!」


確かに。リリーは超がつくほどの美少女。

まだ子供とはいえ、同世代の男の子からしたら憧れの的なのかもしれないわね。


リリーは照れ笑う。


「でも、みんな私の見た目ばっかり見てるんですよ! なんていうかその……。心で通じ合えないっていうか……。一緒にいてもちっとも楽しくないんです」


それで彼女もタケルが初恋の人なのね……。

なによ。3人とも同じ境遇じゃない。


リリーは私に目を向けた。


「そういえば、シシルルアさんはどうなんです? まぁ、その見た目ですし、かなりモテたと思うのですが?」


マーリアも同調してウンウンと力強く頷く。


困ったわね。同じ境遇となれば、なんだか戦うのが躊躇しちゃうじゃない。

でも、2人が話してくれたんだし、私が言わない訳にはいかないわよね。


「ええ……。私もあなた達と同じです。ハッキリ言って、男には興味がありませんでした」


マーリアは屈託のない笑顔を見せる。


「あら、シシルルアさんもですか! だったらここにいる3人とも、同じ境遇じゃないですか! 私達は初めて男性を好きになった。タケル様に恋をしてしまったのです!」


「「「……………」」」


一同無言。


何かしらこの連帯感。

恋敵として戦うのが、馬鹿らしくなってきたわ。


マーリアは言いにくそうに「あの……ですね……」と話し始めた。


「タケル様ほどの男なら、これから先も、私達のような女がたくさん現れると思うのです」


確 か に !

そのとおりだわ。


私は目を細めた。


「その度に争うなんて馬鹿らしいわね……」


マーリアはコクリと頷いて続ける。


「それで、こんなこと、不謹慎なのかもしれませんが……。王族としては結構普通のことで……」


リリーは小首を傾げた。


「なんのことですか?」


「その……。私の父はママジャンの王なのですが、側室を5人も持っているのです。私は正室との子ですが、側室の兄妹がおります。それで、父の態度を見ておりますと、特に正室と側室とで変わりがありません。側室に対しても良い父親であり、慕われているのです」


つまり、それって……。

タケルが……。


「お嫁さんをたくさん貰うってことですか!?」


リリーは興奮して立ち上がった。

マーリアは汗を流す。


「ええ、まぁ、そうなりますね。女としては正妻になりたいですが、正直言って、正妻も側妻も変わりません。王族として、身分があって後継者になる場合は大きいですが、タケル様は国政に興味がないと言われていますからね」


私は目を細めた。


「そうね……。タケル殿の趣味は、可愛い猫を撫でながら、優雅にお茶を嗜むこと」


リリーは湯船で飛び跳ねた。


「あ! じゃあじゃあ! 3人でタケルさんのお嫁さんにしてもらってぇ! みんなでお茶会をするんですね!」


マーリアは笑う。


「ええ、そうなったら素敵ですね」


私は声が出なかった。

最愛の男性を独り占めできないという複雑な想いはあった。

がしかし、不思議なことにタケルなら許せてしまう。

他の男性ならば絶対に許せないことでも、彼ならばそういうこともありだ。

こんな気持ちにさせるなんて、タケルは本当に凄い男だ。


そうなると……。

ここにいる2人は仲間になる訳ね。

女友達すらいなかった私だからな……。

こんな形で仲間ができるなんて意外だったわ。


「じゃあ、ハイッ!」


そう言って、リリーは両手を差し出した。


マーリアが、片方でその手を握ると、もう片方の手を私に差し伸べる。


私はその手をしっかりと握りしめた。


もう私達は恋敵ではない。


「えへへ……」


リリーの笑顔が引き金となって、3人揃って満面の笑み。


私達は、運命共同体だ。


リリーは膝を崩す。


「もう上がりましょう〜〜。なんだかのぼせましたぁ〜〜」


こうして、白熱した女の戦いは終わった。


さぁ、愛しの彼に逢いに行きましょう!


3人仲良く、手を繋いで。

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