第27話 恋のライバル

ーー温泉宿ザパン、女湯ーー


私達は露天風呂に浸かっていた。

私とマーリア姫は大きなバスタオルで裸体を隠し、湯船に浸かる。

僧侶リリーと魔法使いレイーラは、真っ裸で温泉を満喫していた。



夜空を見上げると満点の星空。



綺麗……。

隣りの男湯では、この景色をタケルも観ているはずだわ。

きっと私と同じように感動しているわね。

彼と同じ気持ちを共感できるなんて、とっても幸せ……。

ああ、タケル……。私のタケル……。


相変わらず、私とマーリア姫には会話がなかった。互いの横にいるだけ。


でも不思議ね。

彼女といると、なんだか女のプライドがメキメキと目覚めさせらせて、活力が湧く感じ。

闘争心なのかしら?

でも嫌味がなくて、心地いい。


賢者学校を主席で卒業した私だけれど、こんな気持ちになったのは初めて。

人と競い合うなんて、絶対にやらなかった行動。

私が男の人を好きになったのも初めてだけれど。同性と競い合うのも初めて。


これも、タケルと出会ったからかもしれない。


彼の影響で、私の根幹が揺らぐ。

ずっと1人きりで、無口だった。

友達なんか1人もいなくて、コミュ症だった私が、他人に対して、少しずつ変わって来ている。それはきっと、優しいタケルに触れたからに違いない。


だから、マーリア姫が今、私の横にいるのも、成長した私がいるからだと思う。


彼女といると、なんだか争っているだけじゃない気がする。女として、生まれて良かったと思えるような、自分が強くなったような。自信が湧いてくる。


コミュ症の私にとって、これは革命的。

初めての体験だった。

だから今もこうして、何も話さないのだけれど、彼女の横にいる。


彼女をチラリと見ると、彼女も私を見て目を逸らした。


もしかして彼女も、私と同じ気持ちなのだろうか?

彼女も、タケルを通して、何かが変わった人間なのかもしれない。

もしかして……これが……。

お、女友達?


だったらどうしよう……。


ドキドキ。


少しだけ……。そう少しだけでも……。

か、会話を……してみようかな?


そんな私達の前にリリーは来た。


「えへへ……」


モジモジとはにかむ。

私は眉を上げた。



「どうかしたのかしら、リリーさん?」



リリーは真剣な表情を見せた。



「誰にも言っちゃダメですよ」



なんの話?


私とマーリア姫は顔を見合わせる。

リリーはゆっくりと話し始めた。


「実は……。私……。タケルさんのことが好きなんです」


なんだそんなことか。


「ふふ……。知っていたわよ」


軽くあしらう私を、リリーは強く否定した。



「違うんです! 仲間として、とかじゃなくてですね……。その……。だ、男性として……。す、好きなんです」


…………。

ちょっと厄介な雰囲気になってきたわね。

改めて私達に伝えるなんて、どういうつもりかしら?


リリーはチラチラと私達を見た。


「そ、その……。お、応援をして欲しいなぁって思ったんですが……。ダメですか?」


おおっと。

子供だと思ってノーマークだったのに。

恋敵がこんな身近にいたとは気が付かなかったわ。


マーリア姫と私は黙り込んだ。

穏やかな顔をしていたマーリア姫は闘う女の表情を見せる。

彼女の言葉に場は氷ついた。


「お断りします」


リリーは冷や汗を垂らす。

そして、しっかりと確認した。


「そ、それってどう意味ですか?」


「私もタケル様のことが好きなのです!」


凄い力強い……。

ハッキリと言うわね……。


少し、いや、かなり羨ましい。

自分の愛情を、あんなに堂々と人に伝えることができるなんて。さっきから感じていた、彼女の魅力の正体はこれだったのかもしれない。


マーリアは続けた。


「私もタケル様のことが好きですから、リリーさんの応援はできないのです」


「そ……そうですか……」


リリーにすれば、ある程度予想できた答えだっただろう。

しかし、彼女は確認せずにはいられなかった。

今晩、タケルとマーリア姫が2人きりで泊まることに、焦っていたのだ。


リリーさん。気持ちはわかるわ。

これは、私にとってもいいチャンスかもしれない。

心のモヤモヤを晴らす、良い機会。


マーリア姫は落ち着いて話した。


「リリーさん……」


「は、はい!」


リリーは厳粛な態度を見せるマーリア姫に恐縮した。


「リリーさん。これからは、私のことを姫と呼ぶのはやめてください」


「え? どういう意味です?」


「ただ、マーリア、と名前だけで、呼んでいただければ結構です」


これは彼女の宣戦布告。身分を退けて、同じ女、として対等の立場を示したという証。


リリーはなんとなくそれを察した。


「じゃあ……。年上の方なので、マーリアさんでよろしいでしょうか?」


「ええ。それで結構です。……ついでに、シシルルアさんにもそう呼んでもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」


ついに来た! 

こうなる予感はしていたのよ!


私は静かに頷いた。



「はい。わかりました」



私の返事にリリーは戸惑いを隠せない。


「え? シシルルアさんは関係ないんじゃないのですか?」


マーリアは私に鋭い視線を向けた。

それは恋敵の証明。

リリーの戸惑いは確信に変わった。


「え……。そ、それじゃあシシルルアさんも? タ、タケルさんのことが?」


私は無言のまま、目を細める。

3人は互いに睨み合った。

その視線の先はショートした電流のように火花が散る。


「「「………………」」」


タケル争奪戦の開幕ね。

負けないわ……。絶対に。

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