第29話 両手に美少女

〜〜タケル視点に戻ります〜〜


ーー温泉宿ザパン食堂ーー


温泉から上がった俺達は食堂に来ていた。

約束していた地図の読み方を僧侶リリーに教える。


その傍らで、賢者シシルルアとママジャン王国の姫、マーリアが楽しく会話をしていた。

何やらマーリアが身体に塗っているクリームの話をしているようだ。


耳を疑う。


「シシルルアにはこのクリームが合うと思うわ」


「あらそう。マーリアが言うなら試してみようかしら」


「シシルルアの肌は綺麗ね」


「マーリアこそ素敵よ」


「「うふふふ」」


女子の会話だ。

しかし、いつの間にあんなに仲が良くなったのか?

互いを呼び捨てにするとは驚いたな。


リリーは立ち上がる。


「タケルさん、凄く良くわかりました! これでモンスターの巣を回避して移動できます!」


「ああ、旅が快適になるぞ」


「さて、私の時間は終わりです」


「?」


時間? なんのことだろう。

それにいつもなら、いつまでも甘えてくるリリーが、なんだかしっかりした雰囲気があるな。


「ありがとうございます! ではまた!」


なんだこの違和感。


リリーは、魔法使いレイーラが湯上がりのお酒を楽しんでいる所に向かった。


うむ……。なんだかいつもと雰囲気が違うな。


去って行くリリーの後ろ姿を見ていると、俺の両脇にシシルルアとマーリアが座った。


俺に話しがあるのか?

しかし、なぜ対面の席に座らないのだ?

3人で横並びだと?


シシルルアは珍しくも俺に肩をくっつけた。


「タ、タケル殿。呪術士ジャミガの件についてお話しがあります」


「………うむ」


それはわかるが、距離感がわからん。

いつもの彼女なら、俺から離れて冷たく話すだけなのだが……。

3人とも、温泉に入ってから何かが変わった感じだ。

一体、女湯で何があったのだろうか?


シシルルアは、勇者グレンを説得して呪術士ジャミガの件を協力してくれることになった。

ジャミガはスタット王国の犯罪者でBランクの指名手配となっていた。

グレン達はジャミガを逮捕する事が目的だ。


逮捕か……。

そんなに簡単に行くだろうか?

奴の力はとてもBランクとは思えない。

もっと強大な気がする。

だから、グレン達の協力は、俺にとって不安要素でしかないのだ。もしも、パーティーに甚大な被害が出れば目も当てられん。

ハッキリ言えば足手まとい。

俺1人の方が簡単にことが進むと思うのだが……。


シシルルアはテーブルに一個の指輪を置いた。


「これを使ってください」


「なんだこれは?」


その指輪には真っ赤な魔硝石が付いていた。


「灼熱の指輪です。術式を氷の呪いに反応するようにしました。その力が魔硝石に込められているのです。これでマーリア姫の呪いが発動しても、この指輪の灼熱の力で打ち消してくれます。タケル殿が抱きしめる必要はありません」


「うむ、これはありがたいな」


この指輪があれば、俺がマーリアから離れて行動することができるな。かなり役に立つぞ。


シシルルアは続けた。


「しかし、受けれる呪いは一度きり。一度でも発動すれば指輪は壊れてしまいます」


「いや、それだけでも十分だ」


たとえ一度であっても、マーリアから離れられる時間は貴重だ。

それだけで呪術士ジャミガ対策に効果がある。

シシルルア達が足手まといなんて、とんでもない間違いだったな。

やはり持つべきものは仲間か……。


俺は自分を戒めるように謝罪した。


「すまない……」


「え……?」


小首を傾げるシシルルア。


おっと、自己完結した返答だと意味がわからんよな。


「いや、ありがとう。助かるよ」


「いえ……大したことではありません」


そう言って顔を赤らめてうつむく。


では、この指輪をマーリアにはめてもらおうかな。


そう思った矢先。

マーリアは細く美しい指を、俺の目の前に差し出した。


「タケル様。お願いがあります。その指輪を私の指にはめてください……」


頬をピンクに染めて恍惚とした顔を見せる。


ふむ。妙な雰囲気だが、指輪くらいはめてやろうか。


俺はマーリアの指に灼熱の指輪をはめた。


突然。


「ああッ!!」


マーリアの大きな悲鳴が食堂に響く。

一同注目。


もしかしたら、シシルルアの施した術式が、身体に合わなかったのかもしれん!

最悪は身体に悪影響が出る。


「どうした!? 術式が合わなかったか!?」


「い、いえ。うれしくて、つい」


「…………」


一同は心の中で崩れ落ちた。


「そ、そうか。それは良かった……」


マーリアは天を仰ぐ。


「タケル様に指輪をはめてもらうなんて、マーリアは幸せです!!」


そう言って俺の腕に抱きついた。

同時に、なぜかシシルルアまで俺の腕に抱きついた。


なぜだ?


それを見ていたリリーは、レイーラと話すのをやめて席を立つ。


「ああーーッ! それは狡いです!」


リリーはすぐさまやって来て、俺の首元に抱きついた。

3人の美少女が俺を抱きしめる。


一体どうなっているんだ……。


「お前達、女湯で何があった?」


「「「 ヒ ミ ツ ♡ 」」」


やれやれ、どうしたものか……。

とりあえず、勇者グレンにこの姿を見られなかったことが、唯一の救いだな。

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