第21話 みんなの反応 【グレンざまぁ回】

ーー温泉宿ザパン、食堂ーー


僧侶リリーの言葉で、俺がパーティーに復帰するかどうかの可否が問われることとなった。


確認するのは3人。

戦士ゴルゴス、賢者シシルルア、魔法使いレイーラ。


もしも、1人でも俺を拒否する答えが出た場合、リリーは勇者グレンに土下座をしなければならないのだ。


やれやれ、とんでもないことが始まってしまったな。不本意ではないが、動向を見守らねばならんか。


1人目。

グレンは褐色の戦士ゴリゴスを指差した。


「おい筋肉! お前はタケルに戻ってきて欲しいか?」


「そ、それは……」


「俺の顔を見てハッキリと答えろよな!」


「そうでごんすな! 戻ってきて欲しいでごんす!」


「な! 何ィイッ! クソ! 覚えとけよ! じゃあ、次はシシルルアだ! お前はどう思っているんだ?」


まいったな。

銀髪の賢者シシルルア。

彼女は俺のことを嫌っているんだ。

勇者の圧力もあるし、答えはノーに決まっているだろう。

いや、争いを嫌う彼女のことだノーコメントになるかもしれん。そうなれば、グレンは嬉々として、自分の有利になるように判断するだろう。

終わったな……。


2人目。賢者シシルルアは真っ赤になって戸惑った。


「わ、私は……」


グレンは意地の悪い笑みを浮かべる。


「おおっと! ノーコメントってのは、俺の意見に賛成ということになるぞ? ククク」


やはりな。思ったとおり、いやらしい奴だ。事前にシシルルアが言いそうな言葉を潰してくるとは。


しかし、俺の思惑とは違う、意外な答えが返ってきた。


「私は……。タケル殿に戻って来てもらいたいです」


「にゃにぃいいいい!?」


ほう……。まさかの答えだったな。

僧侶リリーの気持ちにほだされたか?

それとも何か心境の変化でもあったのだろうか? 

ま、どちらにせよ俺にとってはうれしい回答だったな。


さて、問題は最後だ。

妖艶な魔法使いレイーラ。彼女には、昔、言い寄られたことがある。

丁重にお断りを入れたが、それ以来、俺のことを恨んでいるのだ。


そんな女だからな。彼女の答えは絶望的だろう。

うーーむ。リリーがグレンに土下座をするなんて、想像するだけでも嫌になるぞ。

なんとか回避する方法はないものか……。


グレンはニヤニヤとしてレイーラに質問した。


「レイーラ。わかってるよなぁ? お前はタケルのことをどう思ってるんだぁ? お前を冷たくふった男だぞぉ? なぁ〜〜どう思っているんだぁ?」


やれやれ、とんでもない勇者だな。

俺とレイーラの過去のことを持ち出すなんて。

もう絶望的な答えになってしまうじゃないか。


妖艶な魔法使いレイーラは、その長い髪を人差し指に絡ませて「あたしはね。タケル——」と語り始めた。


「——あなたのことを少しは見直したのよ。あなたがいない戦闘は、それは過酷なものだったわよ。一介の城兵でもね。十分に活躍していたのを気付かされたわ。だからね。別に戻ってきてもいいかもしれないわね。てね、そんな風に思うのよ」


……意外だな。

人の気持ちは変わるものだ。


グレンは震えた。


「レ、レイーラァァア……。お前まで何言ってるんだぁああ……」


まさか全員一致とは……。

予想外の結果だったな。


これでリリーの土下座はなくなった訳だが、彼女は憂鬱な顔色を見せた。

リリーは、グレンを気遣って小さな声で懇願した。


「グ、グレン様……。みんなタケルさんには戻ってきて欲しいんです。その方がグレン様も戦闘が楽になりますし、良いことばかりなんですよ?」


「くっ……!」


「そうでごんすよ! タケルどんが戻ってくることはグレン様にとって1番良いことでごんす! 魔王城までまだ半分の道のり。これから益々モンスターが強くなるでごんすからな! こんな中盤で何度も全滅になりかけたでごんすから、やっぱりタケルどんの力は偉大でごんすよ」


「…………」


グレン熟考。

他のメンバー達は固唾を飲んだ。


「ちぇッ! しゃあーーねーーな!」


リリーは眉を上げた。


「あ! じゃあ、タケルさんの解雇は取り消しですね?」


グレンはつまらなさそうな顔で俺を見た。


「みんなが、言うからよ! 仕方ねぇ。お前のクビは取り消してやるよ! ありがたく思え!」


リリーは飛び跳ねた。


「やったーー! やったーー!」


俺はキョトンとして瞬き。

グレンはそんな俺に眉を寄せる。


「てめぇコラ! ちったぁ感謝しやがれ! 仲間に戻してやるって言ってんだぞ!」


俺は質問した。


「なんの話だ?」


「は!? なんの話って、今までの流れを聞いてなかったのかよ! てめぇの解雇を無しにしてやる!って言ってんだよ!」


「断る!!」


「……は!? な、なんだと!?」


「聞こえなかったのか?」


俺はグレンに冷たい視線を送った。




「断ると言ったのだ」




場は騒然と化す。

グレンはドン! とテーブルを叩いた。


「てめぇコラァ! ふざけてんじゃねぇぞ! 俺が戻れって言ったら戻るんだよぉッ!!」


やれやれ。人の意見を聞かない奴だ。

俺にも事情があるのだからな。

お前のわがままに付き合っている暇はない。


俺はグレンを威圧するように、きっと睨んだ。


「だから断る。と言っている」

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