第20話 謝罪

ーー温泉宿ザパン、食堂ーー


俺達はテーブルに座って茶を飲むことになった。


この宿の紅茶には生姜が入っていた。

温泉で温まった身体の保温を高める。

湯冷めしにくい飲み物のようだ。


「タケル様、ここのお茶は独特の味わいですね!」


「ああ、これは……お湯に特徴があるのか……」


少し硫黄と鉄分の香りがするお湯。温泉水を使っているな。そこに生姜と茶っ葉が入って臭みを調和しているんだ。


「うむ……これは中々いいぞ……」


場所が変われば、色々なお茶があって良い。

やはりお茶は最高である。


勇者グレンは不本意ながら付いてきていた。

1人だけ隣りのテーブルに座る。

俺と目を合わそうとせず、聞き耳だけを立てていた。


バンッ!!


食堂のテーブルが激しく叩かれた。


「すまんこってす! おいどんが間違っていもうした!」


第一声を発したの褐色の戦士ゴリゴスだった。

テーブルに両手を付いて深々と頭を下げる。


俺は目を見張る。


「おいおい。お前がそんなに謝ることはないだろう」


「いやいや! タケルどんが、どれだけおいどん達を助けてくれていたのか、たったの半日だが、よーーーーう、わかり申した!!」


それを聞いたマーリアは満面の笑みを見せる。

うんうんと大きく頷いた。


「タケルどんは戦闘補助のプロフェッショナルでごんした! タケルどんがいるからおいどん達は気持ちよく戦闘ができたんでごんすよ」


「いやしかしな。俺は、まぁ、そんなに大したことはしていないんだ。お前がそこまで頭を下げることじゃないよ」


僧侶リリーはそれを聞いて身を乗り出した。


「そんなことありません! タケルさんは本当に凄くて、タケルさんがいなくなって、私達がどれだけ助けられていたか身に染みてわかったんです! ここにくるまでの戦闘だってね。タケルさんならどうするかな? ってそんなことばかり考えていたんですから! ねぇ、シシルルアさん!」


「……わ、私は特に……」


賢者シシルルアは俺をチラリと一瞥すると、それ以上何も言わなくなった。


やれやれ、どうにも俺は嫌われている。

彼女に悪いことをした記憶はないのだがな。


しかし、みんなが俺を認めてくれたところで、クビになった事実は変わらないのだ。


「今さら、そんな風に言われてもな。もう俺はただの城兵にすぎんからなぁ」


リリーは眉を寄せる。


「そ、それでですね……」


グレンの顔色をうかがいながら、意を決する。


「タケルさんに! 戻ってきて欲しいんです!!」


この言葉に強く反応したのは、俺よりも隣りのテーブルに座っていたグレンだった。

ガタンと大きな音を立てて立ち上がる。


「おいリリー! いい加減なこと言ってんじゃねーーぞ! タケルを戻すだとぉ? んなこたぁ、勇者である、このグレン様が許さねぇッ!!」


その怒号に場は静まり返った。

沈黙を破るリリー。


「タ、タケルさんは大事な仲間です! やっぱり、クビなんておかしいと思います!」


ほう、あの気弱なリリーがグレンに反論するなんてな。少しの間に強くなったものだ。


リリーはポロポロと涙を流した。


「タ、タケルさんごめんなさい。あなたが解雇を言い渡された時に、私はあなたを庇ってあげられなかった。うう……。例えグレン様が怖くても、やっぱりあの時は反対すべきでした! だってタケルさんは大切な仲間なんだもん! 本当にごめんなさい……」


「気にするなリリー。パーティーの構成は勇者が決めるものだ。他の者がとやかく言うことじゃない」


「で、でも……」


グレンの高笑いが響く。


「ガッーーハッハッハッ!! 流石は城兵だ! 身分が高い存在には頭が上がんねーなぁ。 誰が偉いかよくわかってんぜ! 俺は国王に選ばれた勇者なんだ。俺の命令は絶対なんだよ! クビと言ったらクビなんだ!! 城兵タケル・ゼウサードは、俺が解雇にしたんだよぉおッ!!」


リリーは食いついた。


「例え勇者様でも、仲間は大切にしなければいけないと思います!」


「なんだとこのクソガキィイ! 生意気だぞ! 俺様に意見してんじゃあねぇ! ぶっ殺すぞゴラァッ!」


「!!」


リリーは目をつぶった。

本来の彼女なら、怖がって黙りこんでしまっただろう。

しかし、今日は違った。


「こ、こ……殺せばいいです! わ、私は間違ったことは言っていません!」


「な、なんだとぉ、この野郎ぉぉおお!」


リリーは震えながらも、ハッキリと自分の意見を言い張った。


「み、みんなに聞いてみましょうよ! きっと同じ意見です!」


「よぉし聞いてやる! でももし、1人でも俺と同じ意見だったら、お前には土下座をしてもらうからなぁ! 勇者の前で嘘をついた代償はでけぇぞ! 何度も地面に額をつけて、人生最大の、屈辱的土下座をやってもらうからなぁあっ!!」


人生最大の屈辱的土下座だと?

いや、そんなトラウマ級な条件は飲めん。

13歳のリリーにそんな行為は絶対にさせられんぞ。


「か、構いませんよ! みんな同じ意見ですから!」


リリー……。


やれやれ。

1人でも反対がいれば、土下座なんてバカらしい。

彼女が圧倒的に不利じゃないか。


勇者グレンは勝利を確信したようにニヤニヤと笑うのだった。

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