第16話 瀕死のグレン 【グレンざまぁ回】

〜〜賢者シシルルア視点〜〜



ーーワカツ平原ーー



私達、勇者パーティーは汗を流していた。

横たわる勇者グレン。

私は悲鳴にも似た大きな声をあげる。



「グレン様! しっかりしてください!!」


全力の呼び掛け。

しかし、グレンに応答はない。


僧侶のリリーは顔をしかめた。



「シシルルアさんどうしましょう!? グレン様の意識が戻りません!!」



デイイーアの街まであと5キロという所。

私達はワーウルフの大群に襲われた。

その数30体以上。

命からがら、逃げて来たわけであるが、我がリーダー勇者グレンが、敵の槍攻撃をモロに食らってしまったのである。


心臓への一撃。


即座に回復魔法を実施し、心臓の再生はできたものの意識が戻らない。

息をしないグレンに、私達は戸惑った。


「以前にもこんなことがあったでごんすよ! 確か村人の心臓が止まってしまって……。タケルどんがあっという間に治してしまった!」


戦士ゴリコスは、その時を状況を思い返した。

僧侶リリーはハッとする。


「そうですね! タケルさんがやっていたことを思い出しましょう! 確か、眠気を覚ます補助魔法ショックで心臓に衝撃を与えて、それから……。胸を上から押さえていました!」


普段冷静な私も、仲間の死を目前にすると汗が止まらず思考がまとまらない。


ああ、どうしよう。


私は王国に誓った。

この勇者グレンと、命をかけて旅をすることを。


なんとしても助けたい!

助けなければならない!!


しかし、勇者グレンの顔は蒼白で、今にも死にそうだった。


「ああどうしよう……グレン様ぁ……」


私の目には涙が溜まる。


うう……。

泣いている場合じゃないわ。


で、でも……。た、助からないかもしれない!!


ドクンドクン……!

心臓の鼓動が高まる。


落ち着いて……。


「ハァーー……」


こんな時、彼がいたら……。

いて欲しい!

帰って来て欲しい!

タケル! 帰って来てタケル!!


いや、ダメだ!


今はいない。

彼はここにいるグレンがクビにしたんだ!!


タケルさえいれば、今頃、助かっていた!!

いや、彼がいれば、そもそもワーウルフの槍なんか当たるはずがなかった!

うう……。彼がいれば……。

グレンが彼を解雇にしたから……。


悔やんでも仕方ない。

今、どうするかが最も大切。


私しかいないんだ。


落ち着け私。考えろシシルルア!


タケルならきっと冷静に対処するわ。

今できることで最善を尽くすはず!

信じろ!

まだグレンは助かる! 希望は捨ててはダメ!!


タケルならどうしたかしら?

そうだ! 私が彼だったらどうする?

そんな風に考えよう!

彼になりきろう!


タケルはいつも冷静に対処していた!

彼だって万能じゃない。


20歳の普通の男性。


だから、わからないことは、地図を見たり、説明書を読んだりして対応していた……。


そうかッ!!


「リリーさん、こんな時には緊急時のマニュアルがあったはず! 探してもらえるかしら!?」


「は、はい! すぐに!!」


僧侶リリーはリュックの中を漁る。


緊急時のマニュアルなら、仲間の心臓が止まった時の対処方法が書いていたわ!


「リリーさん、まだ!?」


「も、もう少し待ってください!!」


よし、彼女がマニュアルを探している間、私達はできることをやってみよう!


あれはどこの村だったかしら、ゴブリンに襲われて、村人1人の心臓が止まってタケルが対応していた。

確か──。


『完全に止まった心臓は動かせない。しかし、心臓は止まる前に微妙に痙攣しているんだ。細動と言ってな。その状態なら助かる可能性がある。まずは電気ショックから……』


そうだ!!

電気ショック!

タケルはそんなことを言っていた!!


ショックの補助魔法は賢者と僧侶が使えるから、まずは賢者である私がやってみよう。


タケル、私に力を貸して!


私はグレンの手を掴み補助魔法を唱えた。


「補助魔法ショック!」


バチン! バリバリッ!!


電流は彼の腕を伝って流れ、その身体はビクンビクンと動く。

本来、ショックの魔法は眠らされた仲間を目覚めさせる魔法。

しかし、グレンに動く気配はなかった。


ああダメ! 動かない!

し、失敗かしら!?


妖艶な魔法使いレイーラは真剣な表情を見せる。


「電流が足らないんじゃないの? あたしのサンダーの方が効果があるのでは?」


いや、流石にそれでは電力が強すぎる。

心臓が動く前に焼け焦げてしまうわ。

マニュアルには細かいことが書いていそうだけど、リリーはまだ探しているわね。


「レイーラさんありがとう! まずはマッサージが必要だと思います!」


「そうなのね! じゃあそのマッサージを早くおやりよ!」


「そうですね……。でも、どうやったら良いのかしら!? ああ、こんな時にタケル殿がいれば!」


は! しまった!

いない人の話しなんてしてどうする!


「全くでごんすな! こんな時にタケルどんがいれば、こんなに焦らずに済んだでごんすよ! どれ、おいどんが拙い記憶を頼りにマッサージしてみるでごんす」


巨漢のゴリゴスは片手をグレンの胸の上に置き、ドスドスと押し始めた。


「確か、タケルどんはこんな感じで押していたでごんす!」


しかし、グレンは意識が戻る気配がなかった。


ああ、どうしよう! 

このままでは勇者が死んでしまう!! 

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