第11話 氷の呪いと恋心

ーームール食堂ーー


俺はマーリアと食事の後、お茶をしていた。


マーリアは終始真っ赤な顔でお茶をすする。


「タ、タケル様のことが……。も、もっと知りたいです」


「俺か? 俺はしがない城兵だよ」


「城兵でも、その……タケル様はカッコイ……あ、いえ、その……。り、立派なお仕事だと思います!」


「のんびりやっているがね」


「の、のんびりは最高だと思いますよ! わ、私ものんびりするのが大好きです!」


「そうか? フフフ」


「そ、そうです!」


「フフフ」


「エヘ、エヘヘ…………」


「……………」


「ハァ…………」


「俺の顔に何か付いてるかい?」


「す、すすすいません! つい見惚れてしまいましたぁあ!!」


「見惚れる??」


何に見惚れることがあるのだろうか?

考え事でもしているのかな?

うーーむ……。彼女は疲れているからな。

あまり、俺の方から質問するのは野暮というものか。ゆっくりと、彼女のしたいようにやらせてあげよう。


「タケル様……」


「なんだ?」


「あ……いえ……その……呼んでみただけだす」


「フフ……おかしなマーリアだな」


「アハ……アハハ! 私、おかしいですよね。アハハ……。じ、自分でも、なんでこんな気持ちになっているのか、さっぱりわかりません……」


「……まぁ、色々あったからな。お茶を飲んで心を落ち着かそうよ」


「そ、そうですよね! お、お茶を飲んで……アチッ!」


彼女は真っ赤になり、お茶を持つ手がカチカチと震えていた。


無理もない。

激しいバトルの後だからな。


「無理するな。ゆっくりすればいい」


「……あ、ありがとうございます。タ、タケル様は、た、頼り甲斐があって……す、す、すすすすすす……」


「だ、大丈夫か?」


いや、聞いてはいかん。

彼女の好きなようにやらせてやろう。


「素敵ですッ!!」


「え? あ、ああ……」


何がだ?


「しょ……将来の夢はあるのですか?」


「そうだな……。今みたいにさ、静かにお茶を飲みたいよ。そんな平和な毎日を送りたいんだ」


「ああ……。とても素敵です。そ、そのお茶には私も誘っていただけるんでしょうか?」


「ハハハ。勿論さ。マーリアが良ければね」


「是非誘ってください! 私、パイを焼くのが得意なのですよ! 梨と林檎のパイ! とっても甘くて美味しいんですから!」


「へぇ〜〜。それは美味そうだな。とっても食べてみたいよ」


マーリアはうれしそうに茶をすする。


「タ、タケル様は、その……く、国の運営とかには興味はありませんか?」


「内政のことかい? そんなのは国王の仕事だろ? 俺は興味ないよ」


「そ……そうですか……はぁ〜〜」


と言った後に、「あ、でも! 最悪は、私が姫を辞めて一般市民になればいいのよ。身分差なんてなんのその! うんうん!」というつぶやきが聞こえてきた。


一体なんのことだかさっぱりわからんな。



マーリアはニコニコと笑った。



◇◇◇◇



俺達は店を出た。

向かいの屋根に1羽の真っ黒いカラスがとまっているのが見える。


そういえば、あのカラス……。

店を入る時にもいたな……。何か妙だが……。


「私、こんなに楽しいお茶をしたのは生まれて初めてです!」


マーリアは呪われているのが嘘のようにはしゃぐ。


俺も少しは役に立てたようだな。

さて、どうやって呪術士を見つけるか……。


マーリアは胸を抑えた。


「タケル様。私、こんな気持ち初めてなんです。ああ、今、とっても幸せです!」


「腹が膨れると幸せになれるよな」


「あら、そんな気持ちじゃありませんよ。もっとこう……。とっても幸せで、私……。もう気持ちが爆発しそうです!」


震え出す彼女。

様子がおかしい。


「マーリア? 大丈夫か?」


「か、身体が……。さ、寒い」


いかん! 呪いか!?


見渡すと、辺りは氷の結晶が現れてカチンコチンと地面に落ちていた。


さっきの現象と同じだ!

何か興奮することでもあったのか?


マーリアの身体はパキパキと音をたてて凍り始める。

俺は彼女を抱きしめてスキルを発動させた。


「スキル闘神化アレスマキナ、灼熱血行!」


俺の体熱は高温と化す!


ジュウ〜〜と音を立てて、マーリアの氷は溶けていった。


「マーリア大丈夫か?」


「タケル様!」


彼女は俺を強く抱きしめる。


マーリアが心配だ。

今後のこともあるし、原因を探ろう。


「マーリア。どうしたんだ? 何か気持ちが高まるようなことがあったのか?」


「タ、タケル様……。私……あなたの事が……。ああ! もうどうしていいかわかりません!」


そう叫ぶと、再び凍り始めた。


「いかん! スキル闘神化アレスマキナ、灼熱血行」


再び氷を溶かす。

俺と彼女からは熱い湯気が立ち上る。

通行人は足を止めてつぶやいた。


「いやぁ〜〜。熱々のカップルですなぁ」


何を呑気な事を!


「マーリア。落ち着け。深呼吸だ」


「ハ、ハイ! スーハー、スーハー」


落ち着いたのを見計らって、俺は彼女の顔を覗いた。


優しく微笑む。


「マーリア。大丈夫か?」


それを見たマーリアは真っ赤な顔になり、再び凍り始めた。


「タ、タケル様! 離れてください! 私、やっぱりダメです! とても落ち着けそうもありません!!」


「いや無理だ! 俺のスキルは君の身体に触れていないと効果がないんだ!」


「タケル様ぁ! タケル様ぁぁああ!!」


「マーリア。落ち着け。深呼吸だ」


こうして、マーリアが落ち着くまでに5、6回溶かしたのだった。

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