第10話 マーリアとランチ

〜〜通常のタケル視点に戻ります〜〜



ーーデイイーアの街、ムール食堂ーー


俺とマーリアは昼ご飯を食べることになった。

といっても、俺は勇者グレンに有り金を全部没収されたので文無しである。

料金は彼女が全て出してくれることとなった。


テーブルには彼女の計らいで豪華な食事が並ぶ。



「すまんな。恥ずかしながら有り金がなくてな」


「そんな! こんなお昼代くらい大したことではありません! あなたは私の恩人なのですから」


「恩人といってもな。呪術士は逃してしまったしな……」


「タケル様! そんなことは問題ではありません!」


「!?」


いや、大きな問題だと思うが……。


マーリアは顔を赤らめた。

そして、聞き取れないくらいに小さな声でつぶやく。


「闘う者は美しい……」


「何か言ったか?」


「わ、私はタケル様に生きる希望をいただきました! それだけで十分なのです!!」


「生きる希望とは、少し大袈裟だと思うが……。俺は必ず君を助ける。呪いが解けた時に、また聞きたい言葉だな。」


「はい! 信じています!!」


俺達2人は食事を始めた。

無言で食べる訳にもいかず、互いの経緯を話すことになる。

俺が勇者パーティーをクビになった話をすると、彼女は俺を強く擁護してくれた。

そればかりか勇者パーティーを敵対視する考えを見せる。


「なんですかその勇者は! 最低ですね! 許せません!」


同情か……。

そんなつもりで伝えた訳ではないのだが、ここに来る経緯を伝えん訳にもいかんしな。

やれやれ、お姫様に庇ってもらうようでは、俺もまだまだだな。


◇◇◇◇


食事が終わり、お茶タイムとなった。


「うむ、良い香りだ」


ここのお茶は風味の強いハーブティーが有名だ。

鼻に広がる香草の香りが堪らないな。

ローズヒップなどの果実も入っているようだ。フルーティで僅かな酸味もある。

独特でクセが強いがハマったら抜け出せない魅力があるな。これはいいぞ。


俺は茶の味を堪能し、目を閉じる。


落ち着く……。

うむ、やはりお茶はいいな。


マーリアは俺の方をチラチラと見る。

紅茶に入れた砂糖をスプーンで溶かしながら、汗を垂らした。

顔を赤らめ、意を決したように口を開く。


「あ、あの〜〜」


「……なんだ? どうかしたか?」


「タケル様は、そ、その……。ご、ご結婚はされているのですか?」


「……いや、そんな事は考えたこともないな。君はしているのかい?」


「私もしていません。同じですね。……えへへ。お、思い切って聞いてしまうのですが、こ、恋人とかは、おられるのでしょうか?」


「なんでそんなことを聞くんだ?」


よくわからんが、マーリアは何かに怯えるように震えていた。

呪いの影響なのだろうか?

とりあえず、さらっと答えてあげよう。


「そんな人はいたためしがないよ」


すると、マーリアはガタンと大きな音を立てて席を立ち、前のめりになった。


「私もです!! 好きな人なんてできたことがありません!!」


あまりの迫力に店内にいるみんなが注目。

俺は大したことでは動揺しないが、彼女の気迫に珍しくたじろいだ。


「そ、そうか……。それは、同じだな」


瞬間。急な寒気。


これは前と同じ現象か!?

このままいけば、また彼女が凍ってしまう!


マーリアの息は白くなり、それは氷の結晶となってポロポロとテーブルに落ちた。


「マーリア! 落ちつけ!」


「申し訳ありません!」


「大丈夫だ! 俺がついている。ゆっくり、座って。深呼吸しろ」


「は、はい! スーハー、スーハー」


マーリアが落ち着きを取り戻すと、白い息は通常に戻り、寒気も無くなった。


「……落ち着いたか?」


「はい……。申し訳ありません」


やれやれ、なんとか凌いだな。


周りの客はボソボソと話す。


「何あの子、急に大きな声を出して……」

「しかし、めちゃくちゃ可愛い子だな」

「向かいの男も素敵ねぇ」

「美男美女のカップルか……羨ましい」


彼女は周りから注目されていることに気がつく。

店内客に謝る。


「私、つい大きな声を出しちゃいました。みなさん申し訳ありませんでした」


客は無言の会釈で返す。男性客は顔を赤らめていた。


「タケル様も、申し訳ありませんでした」


「大丈夫だ。気にはしていない」


何か興奮することでもあったのだろうか? 

しかし、問い詰めるのも気が引けるな。

今は呪いの影響があって、気持ちが不安定なのだろう。

俺が支えになってあげなければならんな。

こういう時は、たくさん話しを聞いてあげるのが良いらしい。

なるべく楽しい話題を話そうか。


「マーリアはモテそうなのに、好きな人がいないなんて意外だな」


「あ……あはは。自慢とかではないですが、そうですね……。近隣国の王子や貴族の男達からは連日連夜お誘いがありました。でも、どの方にも、一度たりともときめいたことなどありません」


「そうか……。この問題が解決すれば安心して恋愛ができるかもしれんな」


マーリアは真っ赤な顔でモジモジとした。


「そ、その……。こ、恋はもうしています」


「好きな人はいないのではなかったのか?」


「あ、あの! その、わ、忘れてください! いえ、やっぱり忘れないでください!」


「………………」


これはかなり重症だな。

呪いの影響でメンタルが病んでいるのかもしれん。

深く追及するのは悪いな。軽く流してあげよう。

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