第9話 気付き始めるメンバー達

巨漢の戦士ゴリゴスが首を傾げる。


「確かに、なんか苦戦するでごんすなぁ」


でしょでしょ! だってタケルがいないんだもん。

ゴリゴス殿、あなたなら気がつくはずです!


「今日は調子が悪いでごんすな!」


なんでそうなるのよ!!


美少女僧侶リリーは悲しげな顔を見せた。


「やっぱり、タケルさんがいないと苦戦しますね……」


そうよねーー!! リリーさんあなたはわかってるわね!


魔法使いの妖艶な女、レイーラは顔をしかめた。


「確かに、タケルがいた時の方が戦闘は楽勝だったわ……敵の攻撃なんかほとんど当たらなかったし」


そうなのよ! レイーラさん。あなたもわかってるじゃない。


勇者グレンは鼻で荒い息を吐いた。


「フン! あんな奴、いてもいなくても同じだっつーーの!」


え〜〜。その結論はないわぁ。

ああ、なんかまた泣きたくなってきたわ。


私の気持ちを代弁するようにリリーは落ち込んだ。


「タケルさんがいたら、パーティーの気分が沈んだ時はいつも励ましてくれたな……」


これにはレイーラが反応する。


「そうかしら? あんな奴、ちょっと顔が良いだけで、なにも喋らないじゃない。空気よ空気!」


「そんなことないですよーー! タケルさんはお喋りではないですが、メンバーが困っていたらすぐにアドバイスをくれるんですよ! だから、その……なんていうか……」


リリーはタケルのことを思い返して笑った。


「えへへ……。優しいんです! とっても!!」


レイーラは判然としない様子だった。


「そうだったかしら……。まぁ、ちょっとお人好しな感じはあったかもね」


「そうでごんすなぁ。タケルどんは優しい男でごんしたな!」


これにはグレンが黙っていられない。


「ざけんなよてめぇら! あんな無能が優しいだのなんだのと、ふざけたこと言ってんじゃねーー!! だいたい、あいつはただの城兵! 俺は国王に認められた勇者なんだ! 優しいだけで評価されたんじゃたまったもんじゃねーーぜ!!」


レイーラはタケルの顎を撫でる。


「そうねぇ〜〜。あんな城兵より、あなたの方が断然魅力的よねぇ〜〜」


「でゅふふ……。だろだろ! レイーラは俺の魅力がわかってんだよなーー」


そう言って私の反応をチラリと横目見る。


は!? ないない! ありえないわよ。同調すると思ってるの?

あなたなんか尊敬のその字も湧いてこないんだから!


私はそんなグレンを無視するように空を見上げた。

白い雲があの人の笑顔に見える。


タケル……。私のタケル……。



◇◇◇◇


回復が一通り終わり、次の進む場所を計画する。

リリーを見やると、地図を見ながら難しい顔をしていた。


こんな時は、すぐにタケルが助けていたわね。あの人は、どんな手助けもさりげなくやってしまうから空気みたいなのよ。いなくなって、その偉大さに初めて気がつく。


いない人の事を後悔ばかりしていても仕方ないわね。

今は、私が彼の代わりにならなくちゃいけないのよ! だって、別れる時、彼が私を信頼してくれたんだもん。


でも、コミュ症の私がさりげなくメンバーに声を掛けるって、意外と緊張するのよね。


ドキドキ……。


「ど、どうしたのですかリリーさん?」


「ああシシルルアさん。その……、今どの辺なのかわからなくて……」


ふぅ〜〜。と深呼吸。

よし、タケルの代わりを務めるぞ!


「それはですね。太陽の位置がこうですから、この森とこの岩山がこうで……。い、意外と難しいですね……」


涙ぐむリリー。


え? 嘘!?

私も頑張ってるから!

もうちょっと付き合ってよ!


私は急いでフォローした。


「だ、大丈夫ですよリリーさん! ち、地図くらいならもう少し考えればわかりますからね!」


「いえ、違うんです」


「?」


「こんな時、タケルさんがいればなって……。思って……しまったん……です。うう……」


大粒の涙をポロポロと流す。


ああ、そんな、泣かないで!!


「リ、リリーさん!?」


号泣。


「タケルさんに会いたいよぉ〜〜うぇぇええ〜〜ん!!」


その声は、上空の雲を蹴散らすくらいに響き渡った。

その泣き声にメンバーは騒然。

私は彼女の背中をさすった。


わかるわよリリーさん。だって私だって同じ気持ちなんだから!

わ、私だって泣きたい! うう……。


地図の位置を計算すると、近くにデイイーアの街があった。


エルフ達のいた岩盤地帯は火山があるから……。


火山と言えば温泉……。

そうだ!

ここは温泉があったんだ!

デイイーアの温泉。聞いたことがある!

湯治を利用すればみんなの気分も落ち着くわ。

よし、みんなに提案してみよう!

まずは勇者から。


「グレン様。もう少し南下すればデイイーアの街があります。あそこは解毒に効く温泉が有名だったはず。少し戻ってしまいますが、気分転換にもなると思いますしどうでしょうか?」


「なんだと? 俺達は遊びで旅をしてるんじゃねーーんだぞ! 痛ててて……」


「でも、傷が痛むのではないですか?」


「うーーん。仕方ねぇな。遊びで行くんじゃねーからな! 傷の療養だぞ!」


やった!

なんとかなったわ!


「リリーさん。温泉に入れば気分が少しは安らぐわよ!」


「うう……。シシルルアさん。ありがとうございます」



こうして、私達はデイイーアの街に向かったのだった。

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