第8話 苦戦、未体験! 【グレンざまぁ回】

〜〜シシルルア視点〜〜



ーーワカツ沼地ーー


私達は丘陵地隊を回避しながら進んでいた。

エルフの傷が癒えない状態では危険な状態と言わざるを得ない。

にもかかわらず、我がチームのリーダー、勇者グレンは攻撃につっぱしる。



「おらおらぁ! 毒噛みスライムどもぉ! きさまらはこの勇者グレン様がぶっ倒してやるぜぇ!」



私達は、麻痺性の毒を持つ、毒噛みスライムに囲まれていた。

その数20体以上。単体ならば問題のない弱い敵ではあるが、いかんせん数が多い。


スライムのランクはエンペラーを筆頭にプレジデント、ボス、毒噛み、ノーマルと続く。

毒噛みは2番目に弱いスライムだ。

2、3体の毒噛みスライムを斬り倒したグレンは意気揚々だった。


もうどうせ聞かないだろうけど、念の為、言っとくしかないわね。


「グレン様。ここは慎重に——」


「うっせぇ! 毒噛みスライムなんて弱っちぃモンスターじゃねぇか! こっちはストレス溜まってんだよ! ふぉおおおお……」


あのねぇ。単体で弱くても数が多いと状況が違うのよ。


「我、求め訴える、勇ましの心、勇者の斬撃……」


ああん、始まっちゃったよ勇者スキルの詠唱がぁ……。


「グ、グレン様。とりあえず防御魔法を——」


「うおりゃぁぁぁぁああああッ!!」


グレンは作戦も立てず、斬りかかる。


ああ、ダメだこりゃ……。



「ブレイブスラーーッシュッ!!」



彼の斬撃で3体のスライムが両断された。

この手応えにますます調子に乗る。


とりあえず、グレンは放っといて、こっちは慎重にいかなくちゃ。


私は勇み立つ戦士ゴリゴスを呼び止めた。


「待ってくださいゴリゴス殿。私達は慎重にいきましょう!」


「しかし、グレン様が戦っているというのに、おいどんが動かない訳にもいかんでごんすよ」


「ソリッド!!」


「おお! 防御魔法でごんすな!」


「これで一度だけなら毒噛みスライムの攻撃は防げます。前回戦ったエルフの傷がまだ完全ではありませんから慎重に——」


と、私が言いかけたのを遮るようにグレンは悲鳴をあげた。


「ぎゃぁぁああああああああああああ!! 噛まれたぁぁあああああああ!!!!」


ああ、もう言わんこっちゃない。


倒れるグレンに数体の毒噛みスライムが襲いかかる。



「ぬがぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」



次々に身体の色んな箇所を噛まれる。



「うぎゃぁぁあああああああ!! そこは大事な所だからやめでぇぇぇええええ!!」



ゴリゴスは飛び出す。


「グレン様ーー! 今、助けるでごんすぅぅううッ!!」


やれやれ……。

ソリッドの魔法を上手く使えば大きな負傷はないというのに。



ゴリゴスがグレンを助けながら、他のメンバーの活躍で、なんとかその場は乗り切ったのであった。



◇◇◇◇



「くっそぉ〜〜。身体がまだ痺れやがるぜぇ。おいリリー! 早く治しやがれ!」


勇者グレンの怒号に回復魔法使いのリリーは汗を流す。


「は、はい! でも、完全には難しいですよ。ちょっと噛まれた箇所が多すぎますからね……それに……その、そこは……ご、ご自分で薬草を塗ってくださいね……」


僧侶リリーが真っ赤になって視線を落とした先。グレンの股間はリンゴ2つ分くらい膨れ上がっていた。


「グレン様。そこが大きくなったのは逆に良かったかもしれんでごんすよ! ガッハッハッ!」


「うっせえ筋肉ッ! てめぇの股間にブレイブスラッシュをお見舞いしてやろうか!!」


うう……。見るに耐えない下ネタ合戦ね。


魔法使いレイーラさんがケタケタ笑っている中、私とリリーさんはただ赤くなって黙り込んでいた。


ドン!


地面を叩いたのは勇者グレンだった。


「ちっくしょう〜〜。なんでだよぉ。今まで毒噛みスライムで苦戦したことなんて、一度もなかったのによ〜〜」


タケルがいないからね。

彼なら、私達が気付かないように、毒噛みスライムを一体ずつ宙に投げて、グレンが気持ちよくブレイブスラッシュで斬りつけることができたでしょう。


「毒噛みってよぉ。一体一体攻撃してくる魔物じゃなかったっけ?」


うん。それタケルがやってくれてたからね!


「もっとこう……なんていうか……斬りやすい体勢で噛みついて来てたような気がすんだよなぁ」


それもタケルだから。


「それによ。毒を受けてもこんなに腫れ上がったことなんか一度もなかったんだけど??」


それもタケルがね。あなたが適度に苦戦して、一回の戦闘で満足するように、動いてくれていたからね。あなたに爽快感が出るように、ちょっと噛まれてもすぐ引き剥がさずに適度に数秒時間を置いて引き剥がしてくれていたからね。だから致命傷にもならず、適度に傷を負って、戦った満足感を味わいながら、勝利できていたのよ!


そんなことまで完璧に考えて、あなたにバレないように、彼が全部動いていてくれていたの!

タケルがいればね! 

あなたは快適で最高なバトルを楽しめていたのよ!!


勇者グレンは小首を傾げた。


「うーーん。これってもしかして……」


ああ! やっと気がつきましたか!?



「今日は調子悪いな!」



ドンッ!!


私は地面に拳を入れた。


「シ、シシルルアさん?」

「シ……シシルルアどん?」

「ど、どうしたシシルルア??」


みんなが私に注目する。

私は内在する怒りを鎮めるように、ただゆっくりと息を吐いた。


「こほぉお………」


タケル、私の中で何かが目覚めそうです。

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