第12話 僧侶のリリー、タケルの実力に気づく 【グレンざまぁ回】

〜〜シシルルア視点〜〜



ーーワカツ平原ーー


今日はモンスターの遭遇率が異様に高い。

思えば、タケルがいた時に誘導してくれていたのは、モンスターと出くわさない道のり。彼はさりげなく、私達が楽に移動できる場所を選んでくれていたのだろう。

ここにきても尚、タケルの凄さを身に染みて感じる。


私達は、毒吐きスライムを倒したワカツ沼地から、既に2回もモンスターと遭遇していた。


もう少しでデイイーアの街だというのに、今も目の前には大きなネズミ型モンスターの一角ネズミがいるのである。

しかも、出会ったことのない群れ。30体はいるだろうか。


そして、この怒号である。


「おいネズミ! この勇者様がぶっ殺してやるかんな!」


例の如く、またも勇者グレンが躍起になっていた。

もういい加減、助言をするのは疲れたので放っておくことにする。


さて、この一角ネズミ。

体長は80センチほど。素早く動きなんでも食べる。

農作物を荒らす厄介なモンスターだ。

注意するのは頭に生えた角である。

毒は無いのだが、角には目に見えない微小な棘が無数に生えており、それが人間の痛覚を刺激する。


だから刺されると……。


「うぎゃぁぁぁああ!! めちゃくちゃ痛ーーーーーーいッ!!」


こうなるのである。


「お尻の穴はダメェェェェェエエエエエ!! うぎゃわぉぉおおおお!!!!」


ああ、もうこのパターンに慣れてしまったわ。

彼の場合、ある程度、痛い目を見た方がいい。

だから、もう少しこのままの状態でも良いと思うのだけど、私達は勇者様の手助けをするように王国に誓った身分だからな。


やれやれだわ。


回復は僧侶の出番ね。



「リリーさん、早く治してあげてくださいな」


「は、はい! 勇者様、今行きます!」


褐色の巨漢戦士ゴリコスは、このパターンに慣れてきていた。

素直に私に問いかける。


「シシルルアどん。おいどんはどうしたら良かですかな?」


「いつものように防御魔法ソリッドを付与しますので、一度でも攻撃されて解除されたら私の方へ戻ってきてください」


「なるほど! それならグレン様みたいに痛い思いはしないで済むでごんすな! わかりましたでごんす!」


妖艶な魔女、レイーラも作戦を聞く。


「シシルルア。あたしはどうしたらいいのさ?」


「レイーラさんは遠方からの攻撃に徹してください。一角ネズミは炎でも氷でもなんでも効きますから」


「わかったよ!」


僧侶リリーも私に意見を求めた。


「シシルルアさん。今回は数が多いから、私も攻撃側に入って協力した方がいいですかね?」


「あなたと私はこのパーティーで回復系が使える人材ですからね。敵にやられてしまっては全滅の可能性が上がります。ここは無理せず、攻撃側のメンバーを見守りましょう!」


「はい、そうします! 流石はシシルルアさんですね! 作戦が的確です!」


「はぁ……。私なんて……」


そう、本当に私なんて大したことがない。

タケルならこんな作戦を立てなくても、グレンを気持ちよく戦わせて、全員を無傷にすることができる。


「リリーさん。私なんて、タケル殿に比べたら足元にもお呼びませんよ」


「え? タケルさんってそんなに凄いんですか?」


「リリーさんはタケル殿の動きが早すぎて見えてなかったのですね。あの方は高速移動で私達を敵の攻撃から守ってくれていたのですよ」


「え!? し、知らなかったです!」


「ある時は敵の攻撃を全て受け止め、またある時は攻撃前に殲滅せんめつする。グレン様が気持ちよく戦闘できるように、常に気を使って補助に徹しておられたのです」


「凄い! タケルさんはやっぱり凄い人だったんですね!」


「ええ! もう本当に凄い方です!」


「タケルさんに会いたいなぁ〜〜」


「ハイ! 私もに逢いたいで——」


「え??」


あ……! うっかり本心を話してしまった!!


「コホン! え〜〜。私もタ……殿には、もう一度くらい会っても良いかなぁーーと思ったり、思わなかったりしているのでございます」


「そうですか……。私は一度きりより、ずっと一緒に旅をしたいです……」


「…………」


リリーさんは素直な子ですね。

羨ましいです。

私も同じ考えですよ。

王国の為に命をかけると誓った旅だったけれど、もう私の目的は違っていた。

あの人と一緒に旅をすること。それが私の中の最高の喜び。


「ぬぎゃわぉぉおおおおッ!! また角が刺さったぁぁああああッ!! 尻にもう一つ穴が増えるぅううう!!」


ハァーー。

でも今はこれが現実。


「……リリーさん。出番です」


「はーーい。勇者様ーー! 今、行きまーーす!」


「ぬほぉおおお! 痛すぎるぅ〜〜。早ぐ回復じろぉおおおお〜〜!! 痛ずぎで死ぬぅぅうううう〜〜!!」


「勇者さ──」


小石につまずくリリー。

その衝撃に驚いた一角ネズミは、飛び跳ねてその鋭い角をグレンのお尻にぶっ刺した。


「うぎゃわぁぁああああああああッ!! 穴が確実にもう一個増えだぁぁぁあああああああッ!!」


合掌。


はぁ〜〜。

タケルの存在は偉大だわぁ。


ああタケル……。

逢いたいわタケル。私のタケル……。

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