第3話 タケルがいないバトル【グレンざまぁ回】

〜〜賢者シシルルア視点〜〜



ーーワカツ大地ーー


そこは小高い丘の集まった丘陵地帯。


私達は、僧侶リリーが読む地図を頼りにその場所を進んでいた。

しかし、その足は立ち止まる。


私の名前はシシルルア・ウーゼンマイド。

17歳、女。職業賢者。

王の命を受け、勇者グレンと旅をしている。


今、はっきり言ってピンチだ。

勇者グレンは息巻く。



「エルフの野郎どもめぇ〜。わんさか湧いて来やがってぇ!」



私達勇者パーティーは、20体以上のエルフに囲まれてしまったのだ。

周囲は小高い丘。そこにエルフ達が立つ。


エルフの巣に迷い込んでしまったのかしら?


全員オスのエルフ。背格好は人間の男と変わらない。

筋肉質で黒い髪の毛。とんがった耳をしていた。

その剛腕で弓を引き、今にも解き放ちそうな勢いである。



「グレン様、気をつけるでごんす!」



褐色の巨漢戦士ゴリゴスは、その鍛え上げられた身体を壁にしてグレンをかばうように前に出た。


この場合、回復魔法が使える僧侶のリリーをかばうのが定石なんだけどな……。


私ならすぐにそう指示を出すだろう。

しかし、グレンはそんなことに気づきもしない。



「この俺様に弓を向けるたぁ、いい度胸だ!」



そう言って聖剣ジャスティカイザーを構えて、攻撃体勢を取った。


こんな状態で攻撃? 

私達は盆地で、相手は高所からの攻撃なのよ!

圧倒的に不利じゃない。

まずは味方の防御最優先よ。

もう見ていられないわ。


「グレン様。魔法防御で弓矢攻撃を耐え、攻撃に転じましょう!」


「馬鹿か! 防御はお前達がやりゃあいいんだよ! 俺はカッコよく攻撃するぜ!」


ああ、こんな人が勇者とは情けない。

でも、フォローするのが私の役目。


「ではグレン様に防御魔法ソリッドを付与!」


私の両手から光りが出てグレンを包み込む。

これで彼の防御力は上がった。


「それでいいんだぜシシルルア! いっくぜぇ!!」


「グレン様! ソリッドは一度でも攻撃を受けると消滅します。再び付与しなければなりませんので気をつけて!」


「任せとけ! んなぁこたぁ、わかってるっての!」


エルフ達は一斉に矢を射った。

それは雨のように私達に降り注ぐ。


グレンは聖剣で攻撃。


「ブレイブ スラッシュ!!」


その一閃でエルフは3体同時に切断された。

しかし、矢の攻撃を一度受けたグレンはソリッドの効果が切れていた。

バスンバスンと音を立てて数本の矢がグレンに刺さる。


「ぎゃぁぁあああ!! 痛ぇぇええええッ!! 矢が刺さりやがった!!」


私は顔をしかめた。


「だから、言ったではないですか!」


僧侶のリリーは直ぐに回復に入る。


「回復魔法ライフ!」


ゴリゴスの攻撃でエルフ達は体勢を崩す。

私はそこに炎の魔法ファイアで畳み掛けた。


「ファイア!!」


それに同調して、魔法使いレイーラも同じ魔法を放った。


「あたしもやるよ! ファイア!!」


大きな炎に包まれたエルフ達は一気に燃え尽きた。

なんとか危機を乗り切ったものの、グレンは不満を撒き散らした。


「おいリリー! 早く回復しやがれ! まだ一箇所、矢に刺された傷が残ってるだろうが!」


「は、はい! すみません! 少々おまちを!」


「くそ! いつもなら矢の攻撃なんて食らわないのによ! 痛ててて……。今日はなんか調子悪いぜ」


いや、いつもはタケルがいるからよ!

と言いたい気持ちをグッと堪える。


グレンに言っても怒るだけね……。

いつもなら、タケルが全ての矢を掴み取ってへし折ってくれていただろう。

私の仕事といえば、念の為、仲間達に防御魔法のソリッドを付与する程度である。

しかも、そのソリッドは杞憂に終わる。なぜなら、ほとんど攻撃が当たらないからだ。

彼は本当の力を隠していたようだけど、私だけは気づいていた。

タケルさえいれば私達はいつも安全で、グレンは気持ちのいい戦闘を楽しめるのだ。


それにしても……。


とゴリゴスを見やる。

彼は私達の壁役になってくれているので、矢の攻撃をかなり受けていた。

背中に刺さった無数の矢が痛々しい。



早く回復してあげないといけないわね。



「ゴリゴス殿、少ししゃがんでいただけますか? すぐに矢を抜いて回復魔法を施します」


「いやぁ〜〜。シシルルアどん、スマンでごんすなぁ。今までこんなに攻撃を受けたことがないでごんすのに、今日は調子が悪いでごんすなぁ」


あなたもそのうち気がつくでしょう。彼の偉大さを。


回復が一通り終わり、ほっとした頃。グレンの悲鳴が轟いた。



「ぎゃぁぁぁあああああああッ!! 痛でぇぇぇええええええええ!!」



グレンの背には、再び数本の矢が刺さっていたのだ。


気がつかなかった! またエルフの攻撃だ。

こんな時、タケルがいれば、いち早く危険を知らせてくれたのに!!



周囲を見渡すと、再びエルフに囲まれていた。

どうやらこの辺はエルフの巣があるようだ。

もう矢の攻撃は受けたくない。


「グレン様、まずは防御からです!」


「くそぉ! かっこよく攻撃してぇのによ! 仕方ねぇ。全属性の魔法が使える俺様の防御魔法を見よ! ガイアウォーーーール!!」



グレンは大地に両手を付いたかとおもうと、すぐさま天に掲げた。

その動きに連動して地面は隆起し、大きな土の壁となる。

勇者最大の防御魔法、ガイアウォールである。

土の壁はエルフの放った矢を次々と受け止めた。



これよ! この防御をやって欲しかったのよ!

これで攻撃に転ずれば無傷で終わるんだから。


しかし、次の瞬間。私の喜びは絶望に変わる。



ボコォアアアアアアアッ!!



それはガイアウォールが破壊される音。

大きな矢が突き刺さり、その一撃で崩壊した。



見上げると、小高い丘には大きなエルフが立っていた。

僧侶のリリーは大きな声を上げる。



「キャプテンエルフです!!」



エルフの上位種。他の奴とは明らかに違う。

3メートルを超える大きな身体。ノーマルエルフのリーダー的存在だ。


ちなみに、エルフ種はキングエルフを筆頭にジェネラルエルフ、キャプテンエルフ、ノーマルと続く。

つまり、3番目に強いエルフということである。


さっき戦ったのはノーマルエルフ。

ノーマルで苦戦したのにキャプテンはまずい。



序盤にガイアウォールで矢を防いでいれば、体力的にももっと余裕があったのに、グレンのわがままでピンチにおちいってしまった。

キャプテンエルフの攻撃はソリッドの防御魔法すら貫くだろう。

あんな矢を受けたら一撃で即死である。

グレンを見ると、汗をダラダラと垂らして困っていた。



ああ、タケルがいればこんなことにはならなかったのに…………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る