第2話 仕方がないので殲滅【せんめつ】しとくか……

俺は闘神の体を持っている。

理由はよくわからない。

ただ、俺が胎児で母親の胎内にいた時、闘神の啓示を受けた。

それは、場が震えるような低い男の声だった。


「お前は、この私、闘神 アーレスディウスに選ばれた者である」


この声は一度きり。それ以降は聞こえなかった。

気持ちがたかぶると出現する闘神の力。身体の一部が闘神の体へと変化する。


幼少の頃、この力の事を周りに話しても笑われるだけで信じてもらえなかった。

なぜなら俺は、魔法力ゼロの人間だったからだ。


魔法力ゼロの人間に闘神の力が宿っているなんてな。

不思議な取り合わせだ。


魔法は自然の加護を受ける力。

スキルは身体内部に持った才能を開花させる力。


だから俺の力はスキルに該当する。

身体の部位を闘神の体へと変化させるスキル闘神化アレスマキナ


この力はなんの為に授かったのだろうか?

闘神ゆえに闘う為か?

しかし、そんなことは受け入れられん。

俺は戦いが嫌いなのだ。

みな、平和に暮らし、優雅にお茶を嗜む。


「猫なんかいたら最高だ……」


そうだ、可愛い猫を撫でながら、茶をすする。

そんな日々が理想なのだ。

俺はそんな理想を叶える為に城兵になり、勇者と旅をしていた。

上手くアシストしているつもりだったのだが、まさかクビになるとはな……。



ーーワカツ平原ーー



「やれやれ、まずはこの事をお城に報告せねばなるまいな……」



元々は、王の命令で城兵の俺が勇者と旅をすることになった。

俺が城内の武術大会で優勝してしまったのがきっかけだ。

軽い気持ちで優勝なんてするもんじゃないな。

仕事が増えるだけだ。

勇者の旅は乗り気ではなかったが、それなりに一生懸命働いていたつもりである。

解雇になるなんて気分が悪い。

こんなことになるなら優勝なんかするんじゃなかった。


この残念な結果を王に伝えねばならない。


とはいえ、金がない。これでは手紙も出せん。


「やれやれ……。まずは近くの街に行き、金を稼がなければならんな……」


俺の足が街に向かおうとしていたその時である。

禍々しい筋肉の躍動が聞こえてきた。


俺のスキルが明確に発動するのは、気持ちがたかぶった時であるが、闘神の力は空気のように浸透している。

よって、通常の冒険者ではありえない事象がはっきりと現れるのだ。

今、起こっていることがそうだ。


「この胸騒ぎ……。危険だな……」


闘神の聴力を使い、胸騒ぎの原因を探る。


「スキル闘神化アレスマキナ。神聴力」


俺の耳の穴が淡い光りを放った。

これで半径5キロメートルまでの、危険な音を察知できる。



「この筋肉の躍動……正体はなんだ?」



それは4キロメートル先。小高い丘に立っていた。

体長5メートルを超えるキングエルフだった。

筋肉質な身体にとんがった耳。黒く長い髭、邪悪な瞳。

エルフの頂点に君臨する最強の存在である。


胸騒ぎの正体はこいつだったのか……。



キングエルフはつぶやく。


「スキル筋力増加。トロング!」


それは筋力を2倍にするスキルだった。

奴の太い腕は更に膨れる。



何をするつもりだ?



キングエルフは大きな弓矢を取り出して、構えた。

矢は大剣のように大きく、その弦は椰子の木より太い。



ググ……グググゥゥゥゥウウウウーーーーッ!!



弓はしなり、力を溜める。

キングエルフは矢に呪文を付与した。


「フレア!」


大きな矢には炎が宿る。


呪文付きとは厄介だ……。


「あんな矢を食らったら、山が一つ吹き飛ぶぞ。一体誰を狙っているんだ?」


俺は目に力を込めた。



「スキル闘神化アレスマキナ。神眼!」



これで5キロ先まで見通せる。

矢の先に目を凝らす。

それは3キロ先。

勇者グレンの一行が野営の食器をしまっているところだった。


「狙いはグレンか……」


俺がパーティーにいる時には、キングエルフの存在に気が付かなかった。

さては、キングエルフの奴。

グレンの放った聖剣ジャスティカイザーの力を察知したな。

それで勇者に近づいて矢の攻撃を狙っている訳か。


グレン達に目をやるも、敵には気づかず呑気に食器を片付けている。


やれやれ、これでは先が思いやられるな。


キングエルフは叫び声と共に、大きな一撃を放った。



「フレアアローォォォォオオオオオオーーーーッ!!」



矢の飛ぶ轟音が大陸に響く。



ギュゥゥゥゥウウウウウウウウウーーーーーーーーンッ!!



その音は3キロ先のアレン達にも届いていた。



「なんだぁ? 花火でも打ち上げてんのかぁ??」



グレンは呑気に小首を傾げた。

このまま行けば命中である。

そうなれば、矢は瞬時に大爆発を起こし、辺り一体は消滅する。



やれやれ、仕方がないな。



「スキル闘神化アレスマキナ。神速!」



俺は雷鳴の如く残像を残して走り出した。



ドギュゥゥウウウウウウウーーーーーーンッ!!



「これなら余裕だな……」



即座に矢に追いつき、掴む。

 


ガシィィィィイイイイイイイッ!! 



「スキル闘神化アレスマキナ。神腕!」



闘神の腕力が腕に宿る。

真っ赤なオーラが立ち上った。

矢は大木の太さである。

よって表面をえぐるように、片手で掴んだ。



バキ……バキバキ!!



しかし、その威力は衰えず、俺の身体をズズズと2、3歩引きずった。



「やれやれ、凄まじい威力だな……」



グレン達までの距離、わずか1キロ。

この矢なら、瞬き一つで到達する距離である。

こんなモノを食らったら、あのパーティーはたちまち全滅してしまうだろう。

しかし、俺の目が届く範囲では、そんなことは絶対に許されないのだ。



片手で矢を掴んだまま、天に掲げる。



「スキル闘神化アレスマキナ。 反 転!」



その矢はグルリと向きを変えた。

俺の身体に触れた攻撃は、その威力を保ったまま、方向を反転させる。


つまり……。



「キングエルフよ。悪いがこの矢、お前に返させてもらう」



俺が手をぱっと離すと、矢は威力を保ったままキングエルフの元へと飛んでいった。



それが視界に入った時は、遅い。




大爆発。




ズボァァアアアアアアアアアアーーーーーーーーーンッ!!!!




キングエルフは跡形もなく吹っ飛んだ。

立っていた小高い丘は陥没。クレーターと化す。



グレンを見やると、その爆発に気がついたようで呑気に笑っていた。



「おおッ! やっぱ花火じゃんか! 祭りでもやってんのかな?」



やれやれ……。



「グレンよ。助けてあげるのは今回限りだぞ。これからはお前がみんなを率いて、ピンチを切り抜けなければならないんだ……」



…………。


とは言ったものの、グレンのあの実力と性格では、他のメンバーが不憫か。



「シシルルア、後は頼むぞ…………」



……………。



…………………………。




………………………………………。





いかん、やはり心配だ。




「仕方ない…………。この周囲に潜むボスクラスの敵は殲滅せんめつしておくか」




やれやれ、街に行くのはそれからだな。

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