俺、城兵だけど無双する〜「出てけ無能!」と勇者パーティーを解雇された俺だが、実は【闘神の力】が使えてしまう。なに、俺の実力に気がついた? 戻ってきて欲しい? ……断るッ!!〜
神伊 咲児
第1章 最強の城兵
第1話 解雇になった城兵
ーーワカツ平原、昼食の時ーー
「タケル・ゼウサード。お前はパーティーから抜けてもらう」
耳を疑った。
「なぜだ?」
「何もしてないからだ!」
と勇者グレンは鼻息を荒くする。
魔王討伐の旅は、半ばに差し掛かっているのである。
解雇とは、ただ驚く。
グレンは俺に詰め寄った。
「だいたい、てめぇはな! バトルの時に何もやらねぇーし、酒場に行ったらやたら女にモテるしで気に食わねぇんだ!」
「ハァ……」
ため息しか出ない。
グレンの怒号は続く。
「だいたいお前はただの城兵だ! 王様の命令がなけりゃあ、俺様の勇者パーティーなんかに入れなかったんだぞ! 実力もねぇお前がここにいることは場違いなんだ!」
訳あって、城兵の俺は勇者パーティーに参加していた。
これは俺の職務なのだ。
「うむ。それはよくわかっている。だから地図を読んだり荷物を持ったり、色々やっているではないか」
「んなこたぁ、他のメンバーでもできんだよ! お前は雑用くらいしか能がない無能だ! 今すぐこのパーティーから出ていけ!」
「しかし……」
俺は心配のあまり、他のメンバーに目をやった。
背の低い僧侶の美少女。リリーはシチューを皿に盛り付けながら汗を流す。
「グ、グレン様。私が悪いんです! タケルさんとグレン様のお皿を間違えてしまいました。こうやって一杯多めに入れれば、グレン様もタケルさんと同じ量ですよ! ホラ! ね?」
元はといえばこれが原因だった。
故意なのか失念なのか、それはわからないが、俺の皿は大盛りのシチューで、グレンの皿には普通の量が入っていたのだ。
これを見たグレンが激怒したという訳である。
グレンはリリーの襟首を掴み上げた。
「ざけんなリリー! 俺がそんな小せぇことでギャアギャア抜かす器の小せぇ男だとでも思ってんのかぁぁあ!」
「す、すみません!」
「俺は勇者なんだぞ! 王に選ばれた名誉ある存在なんだ! 見限んじゃねぇ!」
「本当に、すみませんでした!」
やれやれ。勇者が聞いて呆れるな。
「おいグレン。リリーにキツく当たるのはやめろ」
「てめぇコラァアッ!! クビになった分際で、どの口がほざいとんじゃボケぇぇえええ!」
「本当に俺をクビにしてもいいのか?」
「なんだと!? ならば聞いてみるか? お前が何もやらない無能ってことは、みんなが同じ意見なんだぞ? おいリリー! そう思うよな!?」
「え……? あ、あのぅ……。それは……」
グレンは、彼女の腕をパシンと叩くと睨みを効かせた。
念押しの一括。
「そ う 思 う よ な !!」
「………ッ!!」
引き
””ハイ、と言え!””
リリーはそれに従うように、弱々しくも返事をした。
「は……はい……」
グレンはご満悦。
そのまま戦士ゴリゴスに問いただす。
「おい、ゴリゴス! お前は戦闘のエキスパートだ! タケルが戦闘で活躍していないのは知ってるよな?」
褐色の巨漢。戦士ゴリゴスは、その大きな腕を上げて頭をかいた。
「そうでごんすなぁ。おいどんは前面で戦っているでごんすから、タケルどんが戦っている姿は見たことがないでごんすなぁ」
「ホラ見ろ! 聞いたかタケル! お前は何にもしてねぇーんだよ!」
「いや、それはおいどんが見てないだけで、後方支援をしてくれていると思っていたでごんすよ」
「ざけんな! お前はそれだから脳みそ筋肉って言われるんだ!」
そう言ってゴリゴスのももをガシガシと蹴る。
「それ言うのはグレン様だけでごんす」
「うっせぇ、黙ってろ筋肉! 後方支援は賢者がやってるんだ! シシルルア、お前は冷静だ! 意見を聞かせろ!」
銀髪の美少女。賢者シシルルアは表情を変えず答えた。
「私は争いを好みません。グレン様。申し訳ありませんが、コメントは差し控えさせていただきます」
「聞いたかタケル? 何も言えないってことは俺の意見に賛成ってことなんだ! 最後は魔法使いレイーラだ! お前の意見を聞かせろ!」
妖艶な魔法使いレイーラは、アイシャドウたっぷりの目をパチパチと瞬かせた。
豊満なバストをグレンの腕にくっ付ける。
「あたしはグレン様の意見に賛成よぉ」
「ムフ……ムフフ。ほれ見ろ聞いたかタケル! これは反論のしようがねーだろ!」
「あたしはね。城兵なんかのみすぼったらしい男より、王様に認められた男の方がいいのよねぇ〜」
「ぎゃはは! 聞いたかタケル!」
目を細める俺に、グレンはぐっと詰め寄った。
「出てけ無能! お前はクビだ!!」
俺の目は眠りに落ちそうなくらい細くなった。
グレンは俺の胸を指で突きながらニヤついた。
「勇者命令だ! タケル・ゼウサード。お前を解雇とする!」
「ハァ〜」 と再び嘆息。
この空気では、どうやっても俺が出て行かなれば収拾がつかないな。
これから魔王の手下は強くなるというのに、心配で仕方がない。
「ゴリゴス、これからの荷物持ちは全てお前になるが、大丈夫か?」
「任せるでごんす。しかし、こんな別れ方になって残念でごんすな。まぁ、ただの城兵が、これからの戦闘を考えれば命の危険が伴うでごんすからな。今、別れておいた方がタケルどんの為になるでごんすよ」
「ははは。ゴリゴスは優しいな。元気でな」
俺はリリーに微笑みかけた。
「地図は読めるか?」
「あ……ハイ。その……本当に行っちゃうんですか?」
「仕方ないだろ。勇者命令なんだ」
「あ……。えーと。ふみぃ〜……」
涙を浮かべるリリー。俺はその頭を優しく撫でて慰めた。
魔法使いレイーラを見る。
彼女は俺を一瞥し、ニヤつきながらもそっぽを向いた。
実は、彼女には何度か言い寄られたことがある。
もちろん丁重に断ったのだが、それを根に持っているようだ。
完全に嫌われている。彼女には何も言えないな。
賢者シシルルアを見つめる。
彼女は俺と目が合うと頬を染めてそっぽを向いた。
やれやれ、彼女にも嫌われたか。
というか、以前からこうなのだ。
彼女は俺を見るだけで顔を合わそうとしない。
まぁ、無口な彼女なので、誰に対してもそうだと思うが。特に俺とは話そうとしない。
やはり、嫌われているのだろう。
しかし、もしものことがあるから言っておかなれければならない。
何せ、彼女はこのパーティー一番の実力者なのだから。
「シシルルア。君は冷静な人だ。このパーティーがピンチになったら、君がなんとか助けてやって欲しい」
「…………」
シシルルアは真っ赤な顔をして、俺をチラチラと見るだけだった。
無視か……。なんだか寂しいが、嫌われているのなら仕方がないな。
勇者アレンは勝ち誇った顔を見せた。
「さぁ、お別れの挨拶は終わったろう! それじゃあ荷物を置いて出て行ってもらおうか!」
その言葉に立ち上がったのはリリーだった。
「ええっ!? 荷物を置いてくってどういうことですか!? タケルさんが困っちゃうじゃないですか! 酷すぎますよ!!」
グレンは殺意をも想起させる怒りの表情を見せた。
「ふ ざ け る な よ ! リリー! タケルの荷物はな! 全て勇者パーティーである、このグレン様の物なんだよぉおお!! だから置いていくのが常識! 当たり前! 当然の行為! 自然の摂理なんだぁあ! 間違っても、俺が酷い、なんて口にするんじゃねぇぞぉおおッ!!」
「ヒィイイーーーー!!」
「今度、生意気な口を聞いてみろ。この聖剣ジャスティカイザーで、可愛い唇をぶった斬るからな!」
「す、すみませぇぇええんッ!!」
穏便に出て行きたかったが、こいつの行動は黙認できん。
「グレンいい加減にしろ! リリーを怖がらせるのはやめろと、以前から言っているだろう!!」
「ああーーん? てめぇコラ! 何、俺に説教たれてんだよ! てめぇはな! 今日限りで仲間じゃなくなっちまったんだ! ただのちっぽけな城兵になったんだぞッ! ちっぽけな城兵の分際で勇者の俺様に口答えしてんじゃあねぇッ!! 勇者の妨害は死罪なんだ! てめぇをぶっ殺してもいいんだぞぉおおおおッ!!」
そう言って、聖剣ジャスティカイザーの剣先を俺に向ける。
リリーが悲鳴を上げた。
「キャァァァアッ!!」
しかし、それよりも大きな声を出したのは、意外にもシシルルアだった。
「おやめくださいッ!!」
場は静まり返る。
シシルルアが大きな声を出すなんて初めてのことだ。
「グレン様。タケル殿は今まで助け合った仲間でございます。そんな仲間に剣先を向けるなんて。後生ですから、その剣をお納めください」
これにはグレンも驚いていた。
普段は物静かなシシルルアが、ここまで口調を強めたからだ。
しかし、これでは治らなかった。
シシルルアが、自分以外の男を助けるなんて考えられなかったからだ。
グレンはシシルルアに惚れていたようだ。
その嫉妬心が、聖剣ジャスティカイザーを振り降ろさせた。
「おっと、手が滑ったぁあああッ!!」
グレンは、さも失念したように、力一杯、聖剣ジャスティカイザーを振り下ろした。
俺は危険が迫ると、自動的にスキルが発動してしまう。
スキル。
俺の瞳は闘神の体へと変化する。
その色は炎のように、赤い輝きを放つ。
神の眼を使ってスローモーションで見切る。
誰も知らないこの能力。
俺はこの力で、このパーティーを影ながらに支えていたのだ。
スローモーションで見える中、俺はその剣筋を冷静に観察する。
浅い太刀筋……。
グレンめ、さては俺を本気で殺す気はないようだ。
しかし、この間合いなら、俺の顔から上半身にかけて、ザックリと斬り込みが入るだろう。
つまり、俺の顔と身体には、奴に残された傷が一生残るという訳だ。
酷い奴だな。色恋沙汰はあまり詳しくわからんが、奴の沸点を見る限り、そういうことなのだろう。
スキル
だが、そんなことをすれば、今後このパーティーは戦力が落ちて窮地に陥いるだろう。
みんなのことを考えれば、絶対にそんなことはできない。
ここは一つ、自然な形で避けて、有耶無耶にするのがベストだろうな。
剣先はそのまま地面に衝突。
バグンッ!!
聖剣の一撃は、地面を爆ぜた。
砂煙が舞い、岩土がポロポロと落ちる。
その中を、俺は平然と無傷で立っていた。
立ち位置を僅かに後ろに下げただけである。
聖剣の威力は通常の剣より倍以上ある。
その威力が影響する切っ先より、わずか数ミリを離して避けたのだ。
「な! 何ィイッ!? さ、避けただとぉ!?」
グレンは目を見張る。
やれやれ、こいつと話すのは面倒だな。
「偶然だ…………」
そういうことにしておこう。
俺は踵を返して歩き出した。
遠ざかる仲間達に向けて、大きな声を張り上げる。
「みんな! 達者でなぁッ!!」
渾身の一撃だったのだろう。勇者グレンは呆然と立ち尽くした。
みんなが手を振る間、状況を飲み込めないまま、俺を見つめるだけだった。
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