第4話 シシルルアの想い【グレンざまぁ回】

背の小さな僧侶リリーは弱気な声を出した。


「グ……グレン様どうしましょう?」


強がる勇者グレン。


「は、ははは。攻撃は最大の防御だ!」


ああ……。タケルがいないとこのパーティーはどうしようもないわ。

彼は、私にこのパーティーを任せると言ったけれど、私には荷が重過ぎる。

こんなパーティーは抜け出して、今直ぐあなたの元へと向かいたい。


みんなは困っていた。

キャプテンエルフの鋭い視線。もう蛇に睨まれたカエルである。

グレンを見やると絶望的。

勇者最大の防御魔法ガイアウォールが破壊されたというのに、彼は戦う気、満々なのだ。


こういうのはなんと言うのかしら? 

そう、馬鹿の一つ覚え。

仕方ない。私しかいないわ。

タケルが言っていたように、このパーティーは私がしっかり導かないと全滅してしまうのよ。



「グレン様。ここは逃げるしかありません。小高い丘に囲まれた盆地。あまりにも立地が悪すぎます!」



わかるよね? 

私達は完全に不利。弓にとって最も有利な状況におかれている。

タケルがいれば彼の力で余裕だったけれど、今の私達にキャプテンエルフの攻撃を防ぐ手立てがないのよ。


しかし、彼は筋金入りだった。


「シシルルア! 辛い時ほど逃げちゃいけねぇ! 俺についてこいッ!!」


絶対、嫌よ。

ついてなんか行くもんか!


「グレン様。一旦、引いて有利な場所に移動してから戦いましょう!」


「なんだと!? てめぇ、なんか今日はよく喋るじゃねーーか!!」


あんたが頼りないからよ!

私ががんばらないとこのパーティーはおしまいよ。

それに、タケルが私に任せるって言ったんだから。

彼の言葉に答える為にも、私が扇動しなくちゃいけないのよ!


「グレン様。先ほどのエルフの攻撃で我々にはダメージがあります。有利な場所に移動するのも作戦の一つです!」


「馬鹿言うな! 作戦を立てるのはこの俺様なんだよ! おい筋肉! お前が壁役になれ! 勇者命令だぞ!!」


もう信じられない! 

キャプテンエルフの矢の威力を見なかったの?

勇者最大の防御魔法が一撃で破壊されたのよ!

いくら戦士ゴリゴスの体が鋼の肉体であっても、彼に死ねと言ってるようなものよ!


「わかったでごんす! おいどんに任せるでごんす!」


うわぁ! 

やる気でちゃったよ!


「いけません! ゴリゴス殿! 危険すぎます!!」


「いや、しかし、グレン様の勇者命令でごんすからなぁ〜〜」


戦闘時における勇者命令は絶対。


んもう! 

そんなことで命を粗末にしちゃダメなのよ!


そうこうしているうちにキャプテンエルフの第二矢が放たれた。



ギュゥゥウウウウウウウンッ!!



猛スピードで飛んでくる。

ゴリゴスは両手を広げた。



「任せるでごんすぅうううッ!!」



いや、無理無理!

ガイアウォールが一撃で破壊されてるのに貫通しちゃうわよ!

こうなったら私がなんとかするしかないわ!


私は両手を天にかざした。



「ドラゴンウォーーーーーーーーール!!」



龍を模した半透明の大きな壁が現れる。

それはバリバリと火花を散らしてキャプテンエルフの矢を受け止めた。

しかし、直ぐに消滅する。


これは使いたくなかった魔法。

これで私の魔法力はゼロである。


「この魔法は一度が限度! さぁ逃げましょう!!」


早く逃げないと本当に危険。私の魔法力が回復するまでは何もできないのだから。


しかし、私の願いは虚しく響いた。

グレンは意気揚々とエルフの群れに飛び込んだ!


ああ、どうしてそうなる。


「隙ありぃぃいいッ!! ブレイブ スラーシュッ!!」


聖剣の横、一閃。

エルフ3体を真っ二つにした。


「どうだ! 俺様は最高にイケてるだろう!!」


全然イケてないっての!

まだ敵はうじゃうじゃいるのよ!


攻撃の後は隙になる。

グレンの絶叫が響く。彼の背中に3本の矢が刺さった。


「うぎゃぁぁぁぁあああああ!! 矢がぁぁぁあああッ!!」


ほら言わんこっちゃない!!

あんたが隙だらけなんだから!!


私達にも矢が襲う。

僧侶リリーに矢が刺さる。


「きゃぁあッ!!」


戦士ゴリゴスは私達をかばう。

彼には10本以上の矢が刺さった。


「ぬぐぅッ!!」


エルフ達の矢は、ゴリゴスの隙間をかいくぐる。

それは魔法使いレイーラに刺さった。


「ああッ!!」


私にも矢が刺さる。


「んぐッ!!」


こ、このままじゃ死んじゃう!

全滅してしまうわ!

王に任命された時に、ある程度、死は覚悟できていたけれど。

こんな形で最後を迎えるなんて嫌よ!

絶対に嫌。

だって私は…………。



””人を愛する気持ちを、知ってしまったんですもの!””



私の気持ちをタケルに伝えれる前に死んでしまうなんて耐えられないわ!


気がつくと、私は号泣していた。

この旅が始まって、泣いたことなど一度もない。

というか、人前で泣いたことなど一度たりともないのだ。


リリーはそんな私を心配して直ぐに駆け寄った。


「シシルルアさん、痛いですよね! ちょっと待ってくださいね。直ぐ回復しますから」


私は滝のように涙を流しながらも、落ち着いて、彼女の肩に手を置いた。


「リリーさん。私は軽傷です。回復魔法はグレン様とゴリゴス殿の為にとっておいてください」


リリーはそんな私に心を打たれた。


「ゴリゴスさん逃げましょう! このままだと全滅です!!」


レイーラも同調した。


「ちょっと筋肉兄さん! あたしも同じ意見よ! こんな所で全滅なんて絶対に嫌だわ!」


「いや、しかしでごんすなぁ。グレン様の指示が戦うってことでごんすからなぁ」


ああ、こんな時もタケルがいれば冷静に私達を導いてくれただろうに。

タケル……。どうして私を置いていったの?


そう思うと、更に涙が溢れた。


「う……うう…………うううう…………」


ゴリゴス熟考。普段から冷静な私の、涙する姿に心が動く。


「……わかったでごんす! おいどんがみんなを抱えて逃げるでごんす!」


ゴリゴスは嫌がるグレンと私達を抱えて走り出した。

ワカツ大地の丘陵地帯を抜け出すと、エルフ達は追ってこなかった。


ああ、助かったのね……。


みんなは安心したものの、その身体には矢が刺さり、とても動けそうになかった。



グレンは地面を叩く。


「ちっくしょう! 全滅寸前じゃねーーか! なんでこんなにエルフが強いんだよ! いつもなら余裕なのによ!!」


「………………」


それもこれも全てあなたのせいですよ。

あなたが私の指示を素直に聞いてくれていれば、余裕はなくとも全滅の危機は避けれたものを……。

ああ、なんとかは死ななきゃ治らないと言いますからね。


「うう……ううう…………」


私は再び涙した。みんなはそんな私に注目する。


タケルがいればこんなことにはならなかったのに……。

ああどうしてタケルは行ってしまったの!?

タケル! タケル!! 私のタケル!!


そう思うと涙は止めどなく溢れ出た。

リリーは心配して焦る。


「シシルルアさん! やっぱりあなたから回復します!!」


「いえ…………。これは……その……違うんです。うう……。私より他の方を優先してください。ううう…………」


ゴリゴス絶叫。


「シシルルアどーーん! その仲間を想う心意気! おいどんは感動しましたでごーーーーーーんす!!!!」


「あ…………いや………あの………」


うう……。本当に違うのよ。

タケル。帰ってきて、お願いだから……。

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