さよならドッペルゲンガー

春風月葉

さよならドッペルゲンガー

 ある科学者の夫婦は悩んでいた。どちらの子供を捨てるべきか。

 事の始まりは四年前の冬、産まれて間もなかった夫婦の娘のエマは不幸にも不治とされる病を患う。優秀な科学者であった夫婦は娘の遺伝子を基にエマにそっくりなクローンのエトを造りもう長くないであろうエマの代わりに娘として育てた。

 しかし半年ほど前、誤算が起こる。治るはずはないと諦めていたエマの病が奇跡的に治ってしまったのだ。

 夫婦の元には愛情を注がれたクローンのエトと数年ぶりに目を覚ました実の子エマがいる。二人は別人だが別人ではない。同じ人間が二人も存在するなどあってはならない。

 そして現在に至る。エトの存在を知らないエマをエトに合わせることはできなかった。どちらにも確かな愛情を持ってはいる。夫婦は悩んだ。自分がクローンであることさえ知らないエトの無邪気な姿と病と闘い自分たちの前で再び目を開いたエマの姿が頭の中をグルグルと回る。

 夫婦は一晩話し合った。そして一つの結論に辿り着く。

 コンコン…。二人はエトの眠る部屋の扉を叩いた。


 翌朝、一人の少女が窓から遠い空を見上げて言った。


…さよなら。

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さよならドッペルゲンガー 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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