ep.06 毎日連載のメリット・デメリット

 さて、一年三六五日「毎日が何かの記念日」というテーマの雑学小ネタで開始した単話オムニバス方式を連載するメリットは、ざっくり挙げると次のとおりだ。


 一、単話オムニバス形式は、ストーリーの前後を考えなくて良いから脈絡ないテーマでも延々と続けられる。


 二、雑学小ネタはコメントが付きやすく、リピート率も高いと判明。モチベーションアップに直結する効果あり。


 三、自身の持ちネタの引き出しが圧倒的に増える。


 四、国際公式記念日等、題材の裏どりがしやすく単話にまとめやすい。


 五、一話あたりの推敲時間が徐々に短縮できる速筆力が鍛えられる。


 六、ジャンルを超えてご新規読者さんを獲得できる。また、その読者さんがコメント欄でネタの補足や追加情報を教えてくれる。


 各項目は互いに重複するところでもあるが、あえての雑学小ネタはある意味読者層を問わないので、ニッチではあるがディープでもあるといった手応えを確かに感じた。

 そして、続きを気にしなくて良い気楽さがあるため、空き時間にふらっと立ち寄ってパラパラっと読んでもらえる手軽さゆえか、作品フォロワー数に対してコメントとリピートが非常に高かったのは大きな収穫だった。

 微々たるものだが、着実にプレビューを稼いでいた感はそこはかとなくある。


 筆者と読者の距離感を近く感じられることも、存外モチベーションに大きな影響を与えていたと思う。

 その日のネタが読者さんの得意分野(例えばピンポイント歴史とか)だと、コメント欄の方が充実するくらいだ(笑)

 非常にありがたいことで、私は個人的にこれを「知識武装」と呼んでいる。

 もれなくネタの引き出しが膨らむわけだから感謝しかない。

 もちろん、「こんな謂れがあったんだー、へー」というコメントも嬉しいもので、読者へのささやかなネタ提供が出来ることも、私にとっては「やる気」の一つだった。


 そして、当然掲載する小ネタの裏どり(いくら創作物とはいえ嘘八百を垂れ流すのは問題行為だ)は必要不可欠で、この連載を通して新たにお世話になった検索エンジンやサイトが増えたことも収穫だ。

 例えば、国会図書館オンラインやe-gov法令検索、内閣府各省庁公式記録の閲覧や大手企業公式の沿革、ネイチャーやサイエンスといった海外の学術論文誌アーカイブ等々、今まで見向きもしなかった小難しいジャンルにも、ちょこちょこ手を伸ばした結果、多分学生時分よりも余程調べ物は頑張ったのではないかと自負している。


 作品一本仕上げるのに、この下調べという過程はなかなかに重要で、おそらく書籍化した多くの作品も改めてこの手順を踏み直して改稿に改稿を重ねているパターンは多いと思う。

 ならば、普段からお気楽に構えて、やんわり調べ物に慣れておくのは良いことだと自身でリマインドできたのもメリットだろう。書籍に限らず、例えば学生のレポート、企業の企画立案書等にも同じことが言えるから「調べ物に慣れる」ことの応用範囲は広い。


 こんな感じで、いつか使えるであろうネタをまとめてアウトプットしておくことで、使いたい時にど忘れする記憶喪失を解消できることも案外重要だったりする。


 一方のデメリットだが、個人差があるかと思うのであくまでも「私の場合」であると、はじめに断っておきたい。

 デメリットの例は、次のとおりだ。


 A、圧倒的に時間が足らない。


 B、下調べに思いのほか時間がかかる。


 C、慢性的な寝不足に陥る。


 D、毎日更新のプレッシャー(エピソードを落とせない)が思った以上にすごい。


 E、毎日更新は、不特定多数の読者を置いてけぼりにする(脱落させる)ことがある。


 F、リワード獲得を目的とした場合、圧倒的にコスパが悪い。


 G、他の作品のテコ入れにまで手が回らない。


 ざっと、こんなところだろうか。

 とにかく毎日連載は時間が圧倒的に足らないことを痛感した。

 筆力、推敲力、速力、三拍子が揃った人なら大した問題じゃないかもしれないが、私にとっては何よりも時間との闘いが一番キツかった。


 はじめは、向こう十日分くらいのローカルストックがないと不安で不安で仕方ないという感じで、いかにストックを量産しておくかに注力していたのだが、ひと月経つ頃には考えが変わった。

 大量ストック確保よりも、ネタの充実を図る方が遥かに有意義なエピソードを量産できると考えるようになり、手元のストックは向こう三日分くらいに抑えて、その分エピソード辺りの内容を深掘り、精査することにシフトチェンジした。

 いくらネタストックを増やしたところで、日の目を見なければ意味がない(会心の一撃セルフダメージ


 ある意味、割り切りが良くなったのだが、いざ連載を終えて解放感と共に爆睡し、一夜明けて振り返ってみると、毎日連載のプレッシャーは本当に本当に半端なかった。

 夜間創作がメインになるため、一年間(特に後半の半年間)は慢性的な寝不足に加えて睡魔と疲労が追随してくる上、日中の仕事に時折差し支えること(注意力散漫かつ強烈な眠気の強襲)が何より大変だった。


 そんな中、毎年恒例三月の KAC 祭りに参加したものだから、連載最終月は正直、公私共に心身のすり減り加減がレッドラインを超えた(と個人的には思っている)と同時に、一ヶ月で計四十二本のエピソードをぶち上げた実績は、自己満足ながら己の筆致に対する信頼と自信につながった。


 そして、時間的デメリットの他に言及しておかなければならないことが、金銭的デメリットである。

 そもそもリワード登録していない人には関係のない話となるが、広告プレビューが換金に直結するシステムであるカクヨムにおいて、少しでも一話あたりのアドスコアを伸ばして換金率を上げたいと考えるのは人情だ。

 しかし、毎日連載をする上で連載開始当初は、せいぜい五百字以下で一エピソードを上げていた結果、広告プレビュー数に対して半分以下のアドスコア、リワードに至っては三割以下しか獲得できなかったことは衝撃だった(苦笑)


 ご新規さんには気軽に読んでもらえる反面、ただでさえ貧弱なリワード(十三ヶ月目からは順次ガシガシ消えていく)は、雀の涙も枯れるんじゃないかというような有様である。

 己の筆致で稼ごうと考えている人には、そっと厳しい現実を突きつけてくるカクヨム先生だ。

 三ヶ月ほど経過して、一話辺りの字数を一二〇〇程度に押し上げて更新を続けても、結局連載終了までに獲得できたアドスコアは、せいぜいプレビュー数の半分程度だった。

 リワードに至っては言わずもがな、である。


 かけた時間と労力に対して、圧倒的にコストパフォーマンスが悪すぎる。

 KAC祭りを皆勤すれば、十話前後で数百リワードもらえるのだから比べるまでもない。

 リワード目的なら毎日連載よりも、三千文字程度にまとめた単話を一定間隔でアップする方が余程換金率が上がるだろう。


 もう一つ、人的デメリットを上げておく。

 対外的には、毎日更新という頻度が、せっかく獲得したご新規読者を振り落としていく事態は看過できない。

 気軽に読んでもらいたいのに、読者に余計なプレッシャーを与えてフェードアウトさせるなど、書き手としては痛恨の極みだ。

 それでも最後まで食らいついてくれた神のような読者も実際現れたので、良し悪しを簡単に語ることは憚られるが、読者にも読者の都合があるわけで、毎日更新にこだわる必要はないかな〜というのが、実際にやってみた私の本音だ。


 対内的には、毎日更新にかかりきりになり、他の作品にまで手が回らず結局ローカルフォルダに放置する事態となったので、複数同時進行が苦手な人には得策とはいえない。

 気分転換に何か一本に打ち込むというなら、ある種のカンフル剤的な効果が期待できるので、もっと短いスパンで一時的に取り組むのがオススメである。

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