ep.05 無名の素人はとにかく書いて書いて書きまくれ。読んでもらえるか否かはそれからだ。

 書き手である以上、誰しもが「自分の作品を読んでほしい」と思っていることだろう。だからこそ、カクヨムのような投稿媒体に日々作品を掲載しているはずだ。


 人の目に触れて、気に入ってもらえて、ファンを獲得して、あわよくば書籍化なんかもして、いずれはそれで食っていける人気作家へ……! という希望を多くのアマチュア作家は抱いているのではないだろうか。

 特に公式がこれでもかと書籍化やアニメ・映画化といった成功例をトップページの最上層部に羅列しているのだから、否応にも新規登録者の気分は盛り上がる。


 反面、その希望が大きければ大きいほど、現実とのギャップで心折れる書き手も少なくないと思う。

 投稿を続けてもプレビュー数が伸びず、プレビュー数が伸びないのでリワードに直結するアドスコアが伸びない。

 一ヶ月のリワードが数円という現実にモチベーションを保てず、しばらく活動休止(=エタるも含む)というのは多くの人が経験していると思う。


 私もその一人だ。


「せっかく作品を書いても投稿しても読んでもらえない」


 そんなことはザラだ。

 推定登録者数五十万人越え、出版社とブログ大手がタッグを組んだ一部上場企業が後押しする投稿サイトともなれば、読者の裾野もなかなかなんじゃないかと期待して、いそいそと個人的イチオシ作品を数作上げてみて、あまりの反応のなさに愕然としたのは新規登録から一ヶ月後のことだった。


 まあ、そうだわな。


 何せこちとら無名のアマチュア。

 しかも書いてる作品のジャンルでさえマイナーとなれば、そもそも人目に触れる機会さえ少ない。


 ならば、開き直るしかない。


 読んでもらえるかどうか、なんて気にして一喜一憂している暇があったら、とにかく書いて書いて書きまくれ。

 時間を惜しんで書きまくれ。

 書きたいことを書きまくれ。

 書きたいことが思い浮かばない?

 そんなもの捻り出せ。

 その気になれば、ネタはそこらに転がっている! と、己を鼓舞するに至る。


 作品数を激増させてから、次の一手を考えたら良いんだよね。


 それが、登録三ヶ月目にしてひっそり悟ったことだった。


 これでも社会人生活は中堅レベルあたりともなれば、そこそこ世間の荒波に揉まれて多少なりとも強メンタルになろうというものだ。

 トライ&エラーは当たり前、PDCAサイクルなんて言葉は耳にタコができるほど聞いてきた。


 カクヨム投稿も同じことだ。

 ありがたいことに、「書く」ことそのものには何の抵抗も感じない。


 とにかくエピソード数を増やしつつ、己の忍耐力と持久力を試す意味で新しく始めたのが「毎日一話、必ず更新して一年間それを全うする」という「1日一読シリーズ」の開始だった。

 読んでもらうことよりも書き続ける体力を鍛えることを優先する方が、何だかんだ効率が良いと考えたからだ。


 エタる以前に、一般公開に至るまでのプロセスが長すぎる己の性分を克服する意味もあった。

 正直、いきなり長編連載とか無謀すぎる。

 手堅く押さえるところは押さえようとあれこれ考えたが、最終的にイメージして実践したのは一話完結の短編をコツコツ上げ続けて連載とする路線だった。

 いわゆる単話オムニバス方式である。


 そして、連載内容についてはジャンル不問としつつも、後学に繋がる「ネタ帳」とばっくり縛りを作ることにした。

 小ネタの引き出しを増やすことは長い目で見てメリットになるだろうし、こんなニッチなところへようこそおいで下さる読者へのネタ提供にも一役買えたら一石二鳥じゃないかという結論に至り、雑学小ネタを連載することにした。


 結果として、メリット、デメリット両方を体感したが、個人的にはやって良かったと思っている。

 合間合間に小さなトラブルはあったものの、一年間漏らさずやり通したことは自分自身の「続ける」ことに対する自信につながったし、新しい読者との出会いと繋がりができたことも大きな収穫だった。


 そして、一年間毎日何かしら新しいネタを探すとなると、余計なことを考える暇もなかった。

 はっきり言って時間が足りない。

 多少のローカルストックをしながらも、ところてん方式にエピソードを上げ続けなければならないわけで、自分の苦手なスピード勝負にも人知れず打って出なければならなかった。


 一年間という区切りとゴールを明確にしていたにもかかわらず、常にお尻に火が付いている状態だったから、連載期間中は「読んでもらえるかどうか」なんて考える間も無く、ひたすら機械にでもなったかのように書き続けた。


 そして、この「機械にでもなったかのように書き続ける」ことが意外と重要だったりすると改めて気づいた次第だ。


 別に気持ちを押し殺すとかそういうことではない。

 どちらかというと「あるかないかも分からない周囲の雑音」について、あれこれ考えなくなったと表現する方が正しいように思う。


 この雑音というのが、オンライン上ではコメントが付かない、プレビューが伸びないといった目に見えることだったり、オフライン下では、例えば本業との両立に対する不安や倦怠感、興味本位の野次半分みたいな顔見知りからの探りといったことをばっくり含んでいたりする。

 こういうものが、全部「雑音」としてスルーできる感覚が芽生えたのは、収穫の一つだったなと思うわけだ。


 そんなものを毎日連載の過程で逐一気にしていたら、どっかで必ずエピソードそのものを落っことすことになる。

 ある意味、自分自身で適切な危機感のコントロールをしている感じなのだが、「あ、この感覚、意外と応用力あるぞ」と内観するようになったのが、連載開始から半年経ったくらいだった。


 これが早いか遅いかは分からないが、少なくとも私自身の例で言えば、連載開始前よりも連載終了後の今の方が「書く」ことそのものがずっと楽に行えるようになった。

 試して損はないと思う。

 ただし、前述のとおりメリット・デメリット両方を体感したので、その具体的な内容を次エピソードにざっくりまとめておくつもりだ。

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