夏目漱石に捧げる告白
紗里菜
第1話 アイ・ラブ・ユー
真意がどうかはわからないけど、夏目漱石が英語の授業中に言ったとされるアイ・ラブ・ユーの和訳。
ライトノベルとかでも有名な言葉である「月が綺麗ですね」って、意中の人に呟けば、アイ・ラブ・ユーという意味になるし、奥ゆかしい日本人には「愛してる」というストレートなものいいよりはそっちの方が似合っているという話。
でも、男女で、月を共に見る中は明治時代じゃすでに恋人同士でも現在や同僚だったり上司だったり、相手は好きなんて気づいていない関係でもあるんだよね。
ニコニコと幼稚園に通い始めた娘さんの話をする上司の薬指の指輪を鈍い光りで満月は照らす環境下じゃ月の話題だって禁句になると思うんですけどと心の中で悪態をつく私。
仕事なら自分のしでかしたミスに泣きだした社会人失格の私のかわりに相手先に謝ってくれたり、元気ないときは頭をくしゃっと撫でてくれるような優しくて気がつく上司が長年の私の片思いには気づかないんだろうと心の中でついでにため息もついておく。
上司の娘さんの成長と共にいつかは私も違う人を好きになる日がくるんだろうか?
上司からしたら新卒採用で、学生気分の抜けなかったわたしがやっと一人前に育ってきたくらいの存在しかないし、父親が幼稚園時代に不倫して、家庭が揉めたのをしっかり覚えている私は好きだけど、憧れでいいと思っている。
ううん、感情を理性で蓋をして、憧れだって思おうとしている。
月は生と死を司り、生まれる人も亡くなる人も多い日で、性の方だって、狼男だとかにたとえられるように理性を失う日だからこそ余計に思う。
女としての顔なんて上司も私も知らないまだ見ぬ未来の恋人に見せるために置いておこう。
むしろ今は少女を演じて、無邪気に上司の家庭の話題に笑っていよう。
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