第18話:4-4;絶望かな

 叫ぶ走る人たち。

 街中を鳴る警報。

 街を進むモンスターたち。

 コオたちはギルドを出た。逃げ惑う人の流れに逆流すると、大量のモンスターたち。そこには3つ首スライムがいた。


「「「よお、ひさしぶりだな」」」

「……久しぶりだな」


 コオと幹部は久しぶりの出会い。前のときと同じ街の中での出会い。しかし、状況は全く違う。


「「「今回は勧誘しないぜ」」」

「わかっている」

「「「今回は負けないぜ」」」

「それはどうかな?」

「「「今回は油断しないぜ!」」」

「来い!」


 互いに戦闘態勢になった。

 が、そこに。


「ちょっと待て」


 群衆から声が。コオは救世主かと期待した。


「久しぶり、とはどういうことだ?」

「勧誘、と聞こえたぞ」

「というか、今回は、ってどういうこと? 知り合いなの?」


 周りから不審がる声が。そこ声は徐々に大きくなる。


「(あれ? なんか変な雰囲気)」


 コオは嫌な予感がした。これはまずいぞ。


「そもそも、どこで会ったの? いつ会ったの?」

「というか、なんで生きているの? 普通、どっちか死ぬでしょ?」

「さっきから仲良く話しているけど。敵同士なのに仲良く話しているけど」


 周りの不信感は強くなった。たしかに周りが言うとおり、敵との会話を終えて互いに仲良く生きているのは変だろう。


「(あれ? これ、やばくね? 俺とモンスターとの関係、疑われてねえ?)」


 コオはさらに嫌な予感がした。自分が逆の立場なら疑うだろう。


「「「お前らうるさいぞ。こいつと仲間になることはもうやめたんだ」」」

「ちょ、おま、ばか。その言い方」


 幹部の発言にコオは焦った。幹部は確信犯的に笑っていた。コオは止められない。


「――やっぱり仲間だったんだ!」

「――ということは、こいつはもと魔王軍!」

「――敵だ。俺たちの中に敵が紛れていたぞ!」


 周りの不信感はピークに達した。とうなったらコオにはどうしようもなかった。


「(終わった。俺の人生終わった)」


 コオの嫌な予感は的中した。心の中で泣いた。絶望した。



 「裏切り者がいたぞー!!!」



 叫ぶ走る人たち。

 街中を鳴る警報。

 街を進むモンスター。

 そんなこととは関係なく動くコオ。逃げるコオ。なぜなら、周りの人間がコオを捕まえようとしたからだ。


「無実だー!」


 全速力で走るコオ。逃げる、逃げる、逃げる。


「待てー!」


 ひとつの声は小さくても、複数重なれば大きかった。それと同じように、追いかける人が1人なら大したことがないが、複数人なら大したことがあった。

 幹部はそれを見て、悪い顔をした。


「「「おい、コオ。昔みたいに仲良くしようぜ!」」」

「あ、あんのやろう!」


 そう走りながら振り返ったコオの目の前を、弓矢がかすった。そこから矢継ぎ早に魔法が飛んできた。氷・雷・風と様々な魔法が飛んできた。


「あ、あいつら、その魔法はモンスターに撃てよ」


 そう言っているそばから、刀・ハンマー・鎖による至近攻撃にも襲われた。生きるか死ぬかのせめぎあい。


「こ、こいつら本気だ」


 街は、祭りのごとく一際賑やかだった。しかし、内容は祭りという明るいものではなかった。コオは泣きながら逃げる。



 一際静かなところ。

 影で暗いところ。

 人がいないところ。

 街の中心部から離れた橋の上。橋の柱でちょうど見えないところ。そこから川を眺めていた。

 川には波紋が広がっていた。波紋がぶつかり合い、澱んで見えた。コオの知らないあいだに雨が降っていたようだ。

 コオは頭を抱えていた。それは、雨から頭を守るためではなかった。

 コオは目から水分を流していた。それは、雨が流れているわけではなかった。

 コオは息苦しそうだった。それは、雨に溺れているわけではなかった。

 コオは橋の手すりから身を乗り出した。下には川が広がっていた。それはこの世のものとは思えないくらい神秘的に見えた。コオは惹きつけられるように川に集中した。



 ドボン



 川に落ちる音。

 そこには、川に沈んでいくモノがいた。

 それを助けるために、コオは川に飛び込んだ。

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