第17話:4-3;快進撃かな

「――えい!」


 声とともに、コオのほっぺに冷たいものが当たった。コオは驚きで背筋が縮こまった。


「?!?」

「えっへへー。びっくりした?」


 そこにはさっきまでのモンスターと打って変わって可愛い女の子がいた。そうコオは思った。


「……天使」

「ええ?!」


 ナオは驚いて飲み物を落とした。そこにいたのは帰ってきたナオだった。


「冷た!」

「ご、ごめん!」


 コオの服は甘い匂いがする液体でビショビショになった。ナオはハンカチを取り出した。


「だ、大丈夫だからこれくらい」

「そんなわけ無いでしょ」


 ハンカチで拭かれることにコオは恥ずかしさを覚えた。小さな子供に戻った気分だった。


「――ありがとう」

「どういたしまして」

「……ねえ、ナオ」

「ん? なに?」

「冒険、頑張ろうね」

「うん!」


 コオは吹っ切れた。

 そうだ、ナオと一緒に頑張るだけだ。そうコオは決心した。



〈それからは快進撃だった〉



 ジウは旅に出た

 ジウとは、コオの友人の剣士である。

 彼は1人で旅に出ていた。

 普通なら4人くらいで旅に出るものだが、彼は1人で旅に出た。周りの人は無謀だと言って止めた。しかし、彼は旅に出た。

 そんな彼が帰ってきたときは、向かった街を支配していたボスを倒した。それは、この数ヶ月続いていた悪夢であり、熟練の兵士が何人で戦っても倒すことができなかった。それを冒険を初めて日が浅い冒険者が1人で倒すのだから、快挙である。


 

 コオとナオも旅に出た。

 コオは商人であり、ナオは召喚魔法使いである。

 彼らは2人で旅に出ていた。

 普通なら4人くらいで旅に出るのだが、2人で旅に出ることもよくある。周りの人はなんとかなると言って止めなかった。しかし、彼らは旅に出なかった。

 正確に言うと、旅に出たのだが直ぐに帰ってきたのであり、そのときは、向かった街に行く途中の雑魚モンスターに倒された。それは、この数ヶ月どんな冒険者でも負けることのない弱さであり、迷える子羊でも負けることはないと言われていた。それを冒険経験のあるものが2人がかりなのに油断してしまった負けてしまうのだから、快挙である。



 ウロは旅に出た。

 ウロは店を開いている。

 店の商品を集めるために旅に出るのだ。

 たまに4人パーティの数合わせに入れてもらうのだ。特に実力があるわけではないが、今まで彼が入ったパーティーが負けたことはないらしい。幸運の置物としてカリスマ的な人気を持っている。

 冒険で手に入れるアイテムも超1流のアイテムばかりである。なぜかいいアイテムを手に入れる才能が有るようである。そのアイテムを店頭に並べることにより、大繁盛の店になっている。



 コオとナオも旅に出た

 コオは店に通っている。

 店に売るアイテムを集めるために旅に出るのだ。

 いつも4人パーティーの数合わせに入れてもらえないのだ。特に実力があるわけではないのは、今までの彼らが負けが多かったかららしい。初戦以外は負け続ける疫病神としてみんなから嫌われている。

 冒険で手に入れるアイテムはほとんどなかった。戦闘で勝つ能力もアイテムを手に入れる能力もないようである。アイテムを手に入れることができないので、店頭に並ぶこともできないので、店に入ることがない。



 コオのお両親は旅に出なかった。

 町に住む一般人なので旅に出ない。

 今日も家で平和に暮らす。

 父親は今日も家で家事をしており、料理、洗濯、昼寝となんでも来いである。母親は新聞社で働いており、今日もバリバリ働いている。2人とも自分の役割を理解して、一生懸命暮らしている。

 冒険に出た息子を心配しながらも誇りに思っている。今までみたいに家に引きこもっているのではなく、外の世界を見て成長しているだろうと思っている。2人にとって自慢の息子である。



 息子は旅に出なかった。

 冒険者なのに旅に出ない。

 今日も街で平和に暮らす。

 息子は今日もギルドでのほほんとしており、クエストを探すふり、鍛錬するふり、昼寝となんでも来いである。相方は外に冒険しており、今日もバリバリ敵を倒している。2人とも自分の役割を理解して、一生懸命暮らしている。

 息子は冒険に出た相方を心配しながらも誇りに思っている。今までみたいにギルドに引き篭りながら、相方が外の世界を見て成長しているだろうと思っている。息子にとって自慢の相方である。



〈以上が快進撃だ〉



 ――ギルドにて。


「もう嫌だー!」


 コオはギルドの天井に向かって叫んだ。声はギルドじゅうに響き渡る。


「どうしたの?」

「もう冒険は嫌だ」


 コオはナオの質問に即答した。机で向かい合いながら話し合う。


「え? 最近冒険していないんじゃ……」

「だからだよ」


 コオは勢いよく指さした。その言葉を待ってましたと言わんばかりに勢いよく。


「俺がいなくてもいいじゃないか!」

「そ、そんなことないわよ」

「うそつけ、1人で出ているだろ」

「それはコオが出ないから仕方なしに」

「だとしてもだよ。それに、1人になってからは順調だろ?」

「それはそうだけど」

「じゃあ、俺はいらないな。むしろ足でまといだ。だから冒険しない」

「そんな……」

「そんなに誰かと冒険したかったら、他のやつと組むんだな! ジウとかウロじいさんはどうだ? あいつらすごいぞ」

「そういう問題じゃないもん!」


 そう痴話喧嘩しているところに。平和なところに。

 青天の霹靂。



「モンスターが攻めてきたぞー!!!」

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