第16話:4-2;意外な再会かな
「――もしもし」
誰かに話しかけられたコオは見上げた。
誰だろう?と思った。
そこには、3つ首スライムがいた。
「……」
「「「……?」」」
「……はぁ」
「「「無視すな!」」」
〈コオは見なかったことにした〉
コオはそこに幹部が座る長椅子で冷静を装っていた。いや、やっぱり無理だった。
先程と同じ落ち込んだ様子を演じていたが、幹部の圧力を前にして諦めることにした。
「いったい何?」
「「「そんな友達みたいに反応されても。驚かないのか?」」」
「そうだ! 何でここにいるんだ!?」
コオは言われて通り驚いてしまった。そのほうが気が楽だった。
「「「やりにくいな」」」
「それよりも、なんでここにいるんだ? 倒したはずだろ?」
「ああ、倒したと思っていたのか。しかし、残念だ。倒していない。わたしたちは逃げただけだ」
「逃げただけだと? でも、どうしてここに? 魔王のところに戻れよ」
「俺たちは、この街で時々羽を伸ばすんだ。魔王様のところに行くのは、年に数回の集会の時だけだ」
「そうなのか? ていうか、この街にいても大丈夫なのか?」
「なーに、あっしらはこの街に危害は加えていない、いいモンスター、としているんだよ。ほら、他にもこの街にはモンスターがいるだろ?」
首で指した先にはスライム・ドラゴン・ゴーストなどが街に溶け込んでいる。たしかにモンスターも街に溶け込んでいるが……
「でも、それは、いいモンスター、ってやつだろ? お前、違うじゃん」
「はっはっは。たしかにそうだ。でも、こうやって忍び込むモンスターはわたしたちに限らずいくらでもおるわ」
「じゃあ、今、この街は危ないのか? 通報したほうがいいのか?」
「そんなに危なくないわ。俺たちもそんなに無闇やたらと暴れたりせん」
「本当か? 怪しいな」
「どうしても通報したいならしてもいいぞ。あっしらに今までそれをして命をなくしたものは腐るほどおるわ」
「やめときます!」
〈いい返事だった〉
コオは背筋を伸ばしてハキハキとした口調になった。完璧に部下みたいになっていた。
「「「ところで、お主」」」
「はい! 何でしょうか!」
「「「……その口調はもうよい。それよりも、魔法軍に入らんか?」」」
「はい! ……はい? ……はいー?!?」
〈コオは混乱した〉
コオは言葉を探したが出てこなかった。
口をパクパクしているコオに幹部は説明。
「お主、わたしたちを一応は撃退したんだから、私たちからしたらその強さを勧誘するのは不思議ではないだろ?」
「いや、でも、ええ?」
「それにお主、先ほど不満を漏らしていただろ? 人間側についても借金地獄になるだけだ。俺たちについたらいろいろと工面してやる」
「マジですか?!」
「マジのマジじゃ。あっしらについて来い。今の嫌な生活から抜け出すことができるぞ。衣食住に困らないし、いつでまでも引き込もれるぞ」
「よっしゃー!」
〈コオはモンスターを退治した時より喜んだ〉
コオはウキウキルンルンヤッホーの気分だった。体にリズムを刻みながら揺れていた。緩んだ口から独り言をブツブツと垂れ流していた。
「えってぇへー。これで俺の人生は安定だぜ。金には困らないし、引きこもっても大丈夫だ。俺を馬鹿にしてきた奴ら、ざまあ見やがれ」
コオは今までのことを思い返していた。いじめられてこと、事故にあったこと、誰も自分を信じてくれなかったこと、いろいろなことを。最近では、理不尽な借金したこと、冒険で死にかけたこと、ナオと両思いになったこと、……
「「「ん? どうしたんじゃ」」」
幹部は、急に壊れたおもちゃのようにおとなしくなったコオを不思議に思った。勧誘は成功したはずだがと疑問に思う。
「(あれ? このまま魔王軍についたら、ナオとの関係はどうなるんだ? あいつは魔王軍になることはどう思っているんだ? それに、この話は俺だけの話でナオは含まれていないのか? そもそも、俺とナオはいったい……)」
……コオはブツブツと頭を抱えていた。幹部が心配した。
「「「――おい、どうしたんだ? 早く行くぞ」」」
「……ます」
「「「え?」」」
「今の話、お断りします」
コオは神妙な面持ちで断った。幹部は先程と違う返事に少し言葉に困った。
「「「……ほー、どういう風の吹き回しだ?」」」
幹部は納得できなさそうに聞いた。それはそうだ、言っていることが違う。
「いえ、大変ありがたいお話ですけど、俺、今までどおりでいます。魔王軍にはつきません」
「「「……理由は」」」
「え? り、理由?」
「「「そりゃあそうだろ。断わるからには理由は言ってもらわないと」」」
その言葉に、コオは再び頭を抱えた。でも、それは当然の話だ。しかし、理由は言うに恥ずかしいものだった。
「(どうしようどうしよう。ナオと一緒にいたいと言うのは恥ずかしすぎる。好きな女の子と一緒にいたいから魔王軍に入るのは断ります、と言うのは恥ずかしすぎる。何か別の理由を考えないと。ええっと。うーんと……)」
「「「どうした? ブツブツと独り言を。さっさと言え」」」
「……人類の平和のためです!」
〈コオは堂々と嘘をついた〉
その嘘のつき方は、ひとつの汚れもないくらい輝いて見えた。渾身のうそだ。しかし、内心では申し訳ない思いで傷ついていた。
「「「……そうか、そんなに人類のことを思っていたのか」」」
〈コオは心にダメージを受けた〉
「「「どうやら、お主のことを見くびっていたようじゃ。魔王様を倒すつもりとは恐れ入った」」」
〈コオは心にさらにダメージを受けた〉
「「「では、次会うときは覚悟しておけよ。今度は手加減しないからな」」」
〈コオの心は瀕死だ〉
こうして幹部は去っていった。コオの心からも何か大切なものが去っていった。何かを得るためには何かを犠牲にする必要があった。
再びコオはうなだれた。
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