第13話:3-4;人間は強いかな

 ボコボコに腫れた顔のコオに対して幹部が言う。


「どんなに強化したところで、所詮は冒険を始めたばかりの冒険者だろ? 動きが未熟すぎてあっしらの相手ではないわ」


 敵はそう言いながら、コオの止めを刺そうといた。コオは倒れて動けない。ナオは心配する。


「コオくん!」


 そう叫ぶと、ナオは空中に白い光の円を書いた。それは奇怪なもので、コオも敵幹部も注意を向けた。


「なんだ?」

「「「この光は……」」」

「私の召喚魔法を喰らいなさい!」


 光の円から、炎が幹部を襲った。直撃し、幹部の体を覆う。


「「「?!」」」

「すげー炎!」


 ニヤリとするナオにコオが近寄った。コオはフラフラながらも勝てるという希望で気力を振り絞った。そんなコオにナオは笑顔を向けた。


「これが私の魔法よ」

「すっげー。召喚魔法のイメージと違うけど、すっげー」

「炎を召喚したのよ」


 得意げに話すナオは、本当に得意げだった。腰の手を当て胸を張り鼻高々に威張っていた。2人とも勝利を確信した。


「よし、これで勝てるぞ」

「倒しましょう」



〈幹部はピンピンしていた〉


 ……


「お前、炎に包まれて大丈夫なのか?」

「「「これ、熱くない」」」


 コオは勝機を失い、干からびたようにへなへなの声だった。

 幹部は首でクイッっと炎を指した。この炎は熱くないということを示しているのだろう。


「それは、お前が炎を効かないからじゃないのか? 炎を吐いていたし」

「「「そういう問題じゃない。さわってみろ」」」


 そう言われ、コオはバカ正直にその炎に近づいた。熱さで怯えていたがたしかに熱さはなかった。それで思い切って触ってみたが、たしかに熱くなかった。コオはナオの方をゆっくり向いた。


「どういうことだ?」

「……てへ?」


 ナオは自分の頭を拳で小突いて下を出してウインクしながら片足を上げた。俗に言うブリッコポーズだ。可愛いけど、腹たった様子。


「てへっ、じゃなーい! どういうことだこれは!」

「ごめんなさい! 実は私の能力ってちゃんとした召喚魔法と違うの!」

「どう違うんだよ?」

「本当の召喚魔法は、実際のものを召喚するんだけど、私の場合は想像したものを出すの」

「へー、すごいじゃん。それで?」

「それでね、自分が想像できないことは召喚できないの。例えば、炎の熱さとか」

「ほー、なるほど。だから、この炎は熱くないのか」

「うん」

「役に立たねえじゃねーか!」

「わー、ごめんなさい」


 コオは初めてナオに怒った。それくらい余裕がないのだ。希望からの絶望ほどきついものはない。


「でも、どうする? まじでどうする? どうやったらあいつ倒せるんだ?」

「じゃあ、他の物を召喚する」

「あっ、ちょっ、お前待てっ」


 ナオは再び白く光る円を描いた。

 今度その円から出たのは、3mの熊が3体出てきた。


「ナオさん、これは?」

「モンスターよ」

「これ、さっき倒したモンスターを想像しただろ!」

「あったりー」


 ナオは当てられて嬉しそうだった。しかし、コオは嬉しくない。


「そいつら、俺に負けるくらい弱い奴らだぞ。勝てると思っているのか?」

「大丈夫よ。強ーく想像したもの」

「本当に強いのか?」

「強いわよ。あなたたち、いっけー」


 意気揚々と命令した。自信があるのだろう。もしかしたら本当に強いのではないか?という期待を持って、コオは勝負の行方を見届けた。



〈3秒で戦闘不能だ〉



「……」

「おしかったわ」

「瞬殺じゃねーか!」

「でも、コオくんより頑張ったわ」

「たいして変わらないだろ! ていうかあれか、俺を馬鹿にしているのか?」

「馬鹿にしていないわよ。すごく馬鹿にしているだけよ」

「なめてんのかー! お前、そんなこと言うキャラじゃなかっただろ」

「ごめんなさい。久しぶりの魔法で気分がハイになっちゃって」

「そ、そうか? (気分がハイ、という古い言葉を使うのは突っ込まないほうがいいのかな?)」


〈コオは変なところで冷静になった〉


 しかし、コオは内心で期待できないと予想していたが、本当にその通りになったら嫌なものである。なんかもうどうでもよくなってきた。

 そんな2人が平和そうに会話しているが、戦況はいたってピンチである。コオの攻撃もナオの魔法も相手には聞かない。敵には効かない炎もどきがへばりつき、3体の弱小召喚モンスターが倒れていた。


「「「死ねー」」」


 幹部は2人を追いかけ始めた。

 ナオはこけた。

 コオは急いでナオのもとに戻ろうとした。

 が、倒れていた召喚モンスターに躓いた。

 勢いよく召喚モンスターの上に倒れた。

 すると、その召喚モンスターが白く光始めた。

 それは魂のようなものになり、ナオを襲おうとする幹部に目掛けて飛んでいった。

 そして、幹部に、「ばーん!」と直撃。


「「「ヴァー!」」」


〈幹部に大ダメージ〉


 幹部は苦しみ、ナオは呆然としていた。どういうことだ?

 コオは見た記憶を遡った。ナオが召喚したモノを押しつぶして出てきた何かが敵にダメージを与えた。直感を信じた。


「ウラァー!」


 コオは2体目の召喚モンスターへのボディープレス。ナオはいきなりのコオの奇行にビクッと驚いた。

 すると再び同じ現象が起きた。召喚物から光が出て敵に向かい、直撃した。


「「「グアー!」」」


 再度苦しむ幹部。コオは確信した。窮地を脱する方法。


「(やっぱりだ)おーい、コオ!」


 大声の方向に気づいたナオに対してコオは続ける。


「ナオの召喚したものを潰したら、すごい魔法になるぞー!」

「……え!? そうなのー?!」

「そうだ、見とけよー!」


 さらにもう一丁。

 幹部は3度目の大ダメージ。


「な? ナオの魔法すごいだろ?」

「本当だ!」


 グーのポーズをするコオと口を開けて驚くナオ。闇夜に光が差し込むできごと。


「なあ、ナオ。もう1度召喚魔法だ!」

「わかったわ!」


 円を書き始めたナオ。

 そこに幹部が襲う。

 幹部もやられないために必死だ。


「「「あああー!」」」


 幹部のタックルで宙に舞うナオ。それが目にくっきりと映るコオ。


「ナオー!」


 絶望に叫ぶコオの視界には、ナオが地面にそのまま鈍い音とともに叩きつけられる光景が映っていた。激昂するコオ。


「「「はぁはぁ、このやろう」」」


 止めを刺そうとする幹部のもとにコオはダッシュした。勝算はないが、やるしかない。


「(どうする? 間に合ったところで打つ手はないぞ? 俺の攻撃は効かないし、ナオの召喚モンスターはもういない)」


 コオの目には、幹部の姿がゆっくりはっきり見える。走馬灯に近いものだろうか。思考が加速する。


「(くそ。どうする? どうしようもない。とりあえず攻撃するしかない。しかし、さっき効かなかった短剣しかないぞ)」


 コオはよく考えてよく見た。なにか策はないものか? しかし、無常にも何もない。


「(くそ。やるしかない。こうなったら……あれ?もしかして?)」


 コオは何かに気づいた。

 そして、行動に移した。

 それは……


「くらえー!」


 そう叫ぶと、コオは幹部の体を纏う召喚された炎を潰した。ナオの召喚魔法がまだ残っていたのである。しかも、敵の至近距離に大量に。


「「「なっ!」」」

「くたばりやがれ」


 大きな爆発が起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る