第11話:3-2;モンスターかな
「タイミング良すぎない?!」
「いっいっい、そこでタイミングを待っていたんだよ」
〈えらい律儀なモンスターだ〉
そのモンスターの特徴は、3mのクリズリー。人間が普通に戦ったら負けること必死だ。
「というか、モンスターじゃなくても怖いわ」
「いっいっい、ありがとよ」
嬉しそうなモンスターは引っかき攻撃。攻撃はコオを狙った。ナオを狙わなかったのは、女性に優しいからだろうか?
「あっぶねー。いきなり何すんだよ」
コオは回避した。地面に倒れていっぱいいっぱい。
「いっいっい、戦いに急も何もないぞ」
モンスターはさらにもう1発。コオは汚れた服を治す余裕もなく避けることに精一杯だった。
「わっ、やばいやばい。ナオ、助けてくれ!」
えぐれた地面の引っかき傷を見ながらコオはナオに応援を呼んだ。仲間だからきっと助けてくれるだろうと疑わなかった。
「やだ」
〈モンスターの攻撃がコオにクリーンヒット〉
コオは草原に倒れた。
……
「なんでだよ!」
「嫌だもん」
「(当たったのに、何で元気なんだ?)」
〈3者とも色々と噛み合っていない〉
助けを断られたコオ、助けるのを断ったナオ、攻撃が当たったのにダメージがないことを疑問に思うモンスター。各々が別の思惑を持っていた。
コオはナオに再度きく。
「なんでだよ?」
「だって、コオくんに戦ってもらいたいんだもの」
「なんでだよ? 俺、商人だよ? ナオ、魔法使いだよ? ナオが行けよ」
「わたし女の子よ。コオくんは男の子よ。コオくんが行ってよ」
「ナオが行け!」
「コオくんが行って!」
〈熱い譲り合い〉
二人は言い合いにより肩で息をしていた。そして、疲れた。そして……
「「疲れたから、かーえろ」」
「帰るな!」
モンスターは回り込んだ。コオとナオは退路を塞がれた。
「ど、どうして?」
「戦闘中だからだ」
「そっか、おいナオ、魔法を」
「嫌よ。コオくんが戦って」
「さっき、モンスター出たら使う、って言っていただろ?」
「それでも嫌! (だって、コオくんのカッコイイところ見てみたいんだもの)」
ナオが断る理由をコオはわからなかった。言葉に出さないとわからないことはある。しかし、頑なに拒否をするナオを見てコオは覚悟を決めた。
「くっそー。やってやる。やってやるよ」
手には短剣を持っていた。旅に出るときに支給された安物だ。コオは力強く狙いを定める。
「うりゃ」
〈かわされた〉
「うりゃ」
〈かわされた〉
「うりゃ」
〈草が刈れた〉
「どうして当たらないんだ! 商人だからか? 商人がだめなのか?」
そう泣き叫ぶコオ。予想はしていたが、自分の不甲斐なさに嫌気がさした。そんあコオにモンスターが引っかき攻撃。
「痛いな! お前だけ攻撃を当てるなよ!」
「お前の攻撃が当たらないだけだろ? (どうしてダメージが少ないんだ?)」
モンスターは自分の手と相手のほぼ無傷の引っかき跡を交互に見た。普通なら即死とまではいかないが大怪我を負わせることができるはずなのに、と疑問に思う。
「お前なんか、俺の攻撃が当たれば一撃だ」
「そんなわけないだろ。そんな小さくてしょぼい武器で」
「なんだと。やってみなきゃわからないだろ」
「だったらこいよ。受けてやる。そんなものが効くわけ……」
――そう余裕を持つモンスターを真っ二つ。
「「「え?」」」
予想以上のダメージに皆が驚く。一撃だと言った本人であるコオ自信も驚いた。正直、一撃だとは思っていなかったのだ。
モンスターはそのまま倒れ、コオは短剣を確認し、ナオは見惚れていた。
「ど、ど、どういうこと? なんでこんな力が?」
「すごい、すごい、すごい! コオくんすごい!」
「やられたー」
〈モンスターの最期の言葉を2人は聞いていなかった〉
モンスターがかわいそうに静かに消えていく中、2人は思わぬ力にピョンピョン跳ねながら興奮した。自分たちだけの世界で興奮冷め止まぬだった。
「この短剣すごいのか? 実はすごい短剣なのか?」
「いいえ、普通の短剣よ。初心者全員に渡される普通の短剣よ」
「じゃあ何だ? 俺がすごいのか? 俺はすごい剣士なのか?」
「いいえ、普通の商人よ。初心者の商人よ」
「何なんだ? 何なんだ? これは一体何なんだ?」
「普通よ、普通よ、これは普通よ」
――2人は結局何が起きたかわからないままだった。はしゃぎすぎて息を切らした。少し興奮が冷めた。
「本当に何なんだよ」
「じゃあ、次のモンスターで試そうよ」
「そんなすぐにまた出てくるわけ……」
〈モンスターが現れた〉
「だから何でタイミングいいんだよ!」
「うっうっう、向こうで待ってた」
「お前もか」
〈この世界のモンスターは律儀だった〉
今度も同じクリズリーだ。待ってくれる律儀なモンスターだ。
「うっうっう、死ねー!」
そう攻撃されたコオだったが、今度もほとんどダメージがなかった。
「「何でだ?」」
敵と同じ反応をしたコオはすかさず反撃。
「くらえー!」
「うっうっう、そんなものが効くわけ……」
――モンスターは真っ二つ。
モンスターは倒れた。やはり強烈な攻撃力だったようだ。
「どうしてだ? どうして敵の攻撃が効かないんだ? どうして敵を一撃で倒せるんだ?」
「すごい! コオくんすごい! 強すぎる!」
「なんで強いんだ? この短剣はすごいか? この服かすごいのか?」
「コオくんがすごいのよ。その短剣は安物よ。その服は……どうなの?」
「この服は市販の安い服。母さんがバーゲンの日に買った普通の服。すごい服じゃないよ」
「じゃあ、やっぱりコオくんがすごいのね。強いのね」
「俺、商人だよ? 冒険を始めたばかりの初心者だよ? 引きこもりだよ?」
「すごいわ。本当にすごいわ。わたし、すごい、しか言っていないわ」
2人は再びピョンピョンと跳ねた。そして、疲れた。
「でも、本当に何なんだ?」
「また次のモンスターが出たらわかるんじゃない?」
「そう次々と……」
〈モンスターが現れた〉
――一戦を終えたコオは、ナオと再び話していた。
「結局、わからなかったな」
「そうね。でも、よかったじゃない。よくわからないけど強いんでしょ?」
「そうだ、俺は強いんだ。これからの冒険もなんとかなる」
「そうよ。冒険が楽しみね。魔王を倒しましょう」
「そうだ。魔王がなんぼのもんじゃい。どんなものが来てもボッコボコのギッタギタにしてやる」
「そうよ。魔王なんかボッコボコのギッタギター」
二人は初バトルを乗り越えて調子に乗っていた。
〈魔王の幹部が現れた〉
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