第9話:2-5;冒険に出るかな
「コオくん」
「はい?」
コオは振り返った。そこにはナオがチョコンと立っていた。その姿を見て、コオは少しドギマギした。
「お、おーナオ。大丈夫か」
「う、うん。大丈夫」
「そ、そうか」
「う、うん」
2人とも下の向いて、頬を赤く染めていた。変な空気になったので、やつが現れた。わざと空気を変えるのがジウの得意なことだ。
「コオもナオも元気で良かったよ。それよりも、コオの職業は何だい? 僕は剣士だよ」
「元気じゃねえよ。でも、俺の職業は何だろう?」
「何で知らないの? 受付で聞いたんじゃ」
「いや、それが……」
説明した。かくかくしかじか……
「はっはっは。緊張して話を聞いてなかった?」
「そんな笑うなよ」
「ごめんごめん。じゃあ、会員証を見せて」
「会員証?」
「受付でもらったはずだよ。一種の身分証明書。そこに今の職業が書かれているはずだよ」
「あー、そういえばもらった気がするなー」
コオは遠い記憶をたどりながらポケットの中を探ったら、出てきた。手のひらサイズのカードだった。
「おー。これだ、これ。見ようぜ」
「それにしても何だろうな? 剣士? 武闘家? 魔法使い? 楽しみだな」
「そんなはしゃぐなよ。どれどれー」
『商人』
コオはカードを裏返した。
「(え? えっ? ええっっ?? 今、何が書いてあった? え? 違うだろ? え?)」
〈コオは現実を直視出来なかった〉
コオはすごく動揺していた。かつて塀を飛び越えようとゴミ箱を踏み台にしたらゴミ箱を踏み壊してしまった時以上に動揺していた。
「あれ? 今、商人って」
「書かれていない、書かれていない。商人のわけがない、商人のわけがない」
「そうだっけ、じゃあ、もう1度見るね」
「お、おう」
ジウはカードを裏返した。
『商人』
コオは再びカードを裏返した。
「(やっぱり書かれている、やっぱり書かれている、やっぱり書かれている)」
頭を抱えているコオにジウは困った笑顔で話しかけた。どうしたものかとジウも困惑していたのだ。
「あのー。やっぱり商人って……」
「書かれてない!」
〈認めなかった〉
即効で拒否するコオにジウはもう1度。
「もう1回確認を」
「いや、いい」
これも拒否。
「でも……」
「いい」
拒否。
……
「まあ、コオがそういうなら別にいいけど」
「そうだよ。別にいいことだよ」
「そうだな、別にいいことだよ」
「ははははは」
「ははははは」
互いにぎこちない笑いをしていた。ジウもコオがかわいそうになって、気にしないことにした。
「――コオくん、商人だね」
ナオがカードを裏返した。
『商人』
コオはカードを投げ飛ばした。
「(なんで商人なんだよ。普通は剣士・武闘家・魔法使いとかだろ。百歩譲ってネタで盗賊とか大道芸人だろ。なんでガチでもネタでもない中途半端な微妙な職業なんだよ? 俺、冒険の旅に出るんだよ? 外に出るんだよ? 商人ってむしろ街の中に職業だろ。引きこもろうか? 冒険に出ずに街に引きこもろうか?)」
〈コオはついに現実を認めた〉
落ち込んでいるコオに誰かが指で背中をツンツンした。コオはふてくされた顔で見上げた。
「どうしたんだよ?」
ジウかナオだと思って軽々しく見上げたコオの目の前には、受付のお姉さんが傷だらけの笑顔を見せてくれた。
「う、う、受付のお姉さん!」
コオはいろいろな意味で驚いた。ナオじゃないし、傷だらけだし、なんの用かわからないし。
「そんなびっくりしなくても」
「す、すみません」
苦笑いする受付のお姉さん。営業スマイル。
「実は、コオさんにお伝えしたいことがありまして」
「え? 何でしょうか?」
「先ほど、3人組と戦ったじゃないですか?」
「はい、俺も大変でした」
「それで、建物の中がボロボロになったじゃないですか?」
「はい、俺もボロボロです」
「それで、壊れたものの弁償してほしいのです」
「はい、俺も……え?」
コオは冷や汗をかいた。弁償って、うそでしょ? そういう雰囲気を出した。
「だから、壊れたものの弁償をしてもらいます。といっても、あなただけが悪いわけではないし、今回は初犯ということもありますので、安くしておきます。親に請求してもいいのですけど、どうしましょうか? 今なら、数回の軽い依頼達成で帳消しできますが、どうしましょうか? それとも、牢屋に入りますか? どうしますか?」
笑顔で威圧してくる強者にコオは冷や汗が止まらなかった。コオは冒険の前から大ピンチだった。
「(親に迷惑はかけたくなし、牢屋にも行きたくない。これは冒険に出て依頼を達成するしかない。でも、俺のせいか? ものが壊れたのは俺のせいか? 俺は絡まれただけだぞ? それはおかしくないか? 文句言いたい。でも、このお姉さんは強者だ。さっきの巨大な火の玉をなんとも思っていない強者の1人だ。逆らったらどうなるかわからない。理不尽だ。これは理不尽だ)」
色々と考えたコオは冷やせをダラダラと流しながら、不器用な作り笑顔で返事した。覚悟を決めたのだ。
「冒険に出ます」
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