第8話:2-4;強い者かな
舞い上がった噴煙から、1人の影が見えた。
それはコオだった。
柱の下にはのびている剣士がいた。
「ぶはっ、ぶはっ。あっぶなー。死ぬとこだった!」
コオは咳き込んでいた。その様子を周りの野次馬が静かに見ていた。いじめっ子の残り2人も静かに驚いていた。
「がはっ、ぶはっ。え? どうしたの?」
コオは色々と状況を飲み込めていなかった。とりあえず、みんなの視線誘導を受けて足元を見た。そこにはいじめっ子の剣士がのびていた。
コオは周りを見た。
「……これって、俺がやったの?」
……
拳と火の玉が飛んできた。どこからかコオに向かってのものだった。
「うぉい!」
コオは横にのけぞって避けた。危なかった。犯人はいじめっ子たちだった。
「よくも、よくも仲間を」
「もう遊びは終わりだ」
残りのいじめっ子2人は連撃・乱撃だった。次から次へとパンチキックと火の玉を繰り出す。そこには作戦もなにもなく、無我夢中にコオに攻撃を向けていた。すると。
「「ぐはっ!」」
武闘家と魔法使いが同士打ちした。それをコオは見逃さなかった。たまたま落ちていた柱の破片である棒を手に持って、力強く振りかぶった。その棒は武闘家の頭にクリーンヒットした。そのまま舞踏家は崩れていった。
あと1人だ。
コオは再び棒を振りかぶったが、その棒は爆発した。いや、魔法使いの火の玉で木っ端微塵になった。
対峙する2人。
「あとはお前だけだぜ」
「お前ごときに負けてたまるか」
魔法使いは特大の火の玉を出した。それは、人1人分の大きさであり、先ほどまでの数十倍である。
「ヤバイ、逃げないと」
コオは今までどおり避けようとしたが、少し冷静になった。自分1人だけのことを考える性分ではなかったのだ。
「(ここで避けたらすごい被害だぞ)」
事実、今までの小さな火の玉ならそこまで大きな被害はなかった。しかし、この特大サイズなら死人が出る。コオが後ろを見ると、逃げ遅れた人たちがいた。
「かかってこいやー!」
コオはその場に立ち止まり、火の玉を迎えに行った。避けれたはずなのに避けない姿に、周りは驚くとともに心配した。そして。
爆発。
……
「はあはあ、恐れ入ったか」
爆煙に向かって、魔法使いは勝利の確信のガッツポーズをした。
が、そのガッツポーズは直ぐになくなった。
コオの周りを数人の人たちが守っていた。いや、魔法使いの周りも数人が囲って
いた。
「こ、これは?」
と言い終わるやいなや、魔法使いは手を取られ地面に押し付けられた。何が起きたのか理解できていない様子だった。
「がはっ!」
「確保しました」
捕まえた男は事務的に報告した。それをぼんやり眺めるコオに目の前で盾になっていた人は言った。
「大丈夫かい?」
その後ろに振りむいて見えた人は、先ほどの警備員さんだった。メガネも何もかも無傷で綺麗なままであり、先ほどの炎を気にしない雰囲気だった。
「あの、さっきの火の玉は?」
「あんなもの、効くわけ無いですよ」
そうコオの横であっけらかんというものがいた。先ほどの受付場のお姉さんだった。コオは思わず胸に目がいった、目が冴えた。
「おい、君は後ろの方にいたから効く訳無いだろ」
「あら?あなたは自分がわたしより凄いと言いたいわけですか?」
「いや、そうではないけど、急に会話に入ってきたなぁと」
「あら? 私が会話に入ったらダメなのですか? それならそう言ってください」
「なんだその言い方は?」
「そっちこそ態度悪いですよ」
こっちはこっちでバトルになりそうだった。それを呆れた顔で見ていたコオにウロじいさんが話しかけてきた。
「大変じゃったな」
「ウロじいさん」
「あの2人のことなら気にしなくてもいいんじゃよ。仲いいから」
「仲いいの! 喧嘩になっているよ」
「ほっほっほ。喧嘩するほど仲がいいと言うんじゃ」
「そんなものかな」
2人は殴り合いのケンカになって、先ほどの騒動ではなかった鼻血やたんこぶでボロボロになっていた。本当に仲がいいの?
「ほっほっほ、まあ、やりすぎはダメだけどな」
「そういえば、ウロじいさんは助けてくれなかったのか?」
「そりゃそうじゃ。あんなの危ないじゃろ」
「でも、あの警備員さんや受付のお姉さんは来てくれたよ」
「あの2人は強いからな」
「そうなの?警備員はまだわかるけど、受付のお姉さんもなの?」
「そりゃあ、こんな強者が集まる場所に勤めているんじゃ、弱いわけなかろう」
その2人はプロレス技を掛け合っていた。長いことじゃれあっているものだ。
「そっか、それもそうか」
「それに、他にも集まったり悪ガキを捕まえたモノたちも強いぞ。ここで働いているものだけでなく、冒険者もいたな。おそらくあそこにいた全員が、さっきの炎を何とも思わない強さなんじゃろな」
「へー、みんなすごいんだなー」
コオの目には先ほどの人たちが輝いて見えた。例えそれが、口を引っ張り合いして顔をマジックで落書きして幼稚園の悪口を言い合っている2人が含まれていても、コオは羨望の眼差しで見ていた。
いや、その大人気ない様子に少し呆れていた。
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