第7話:2-3;黒フードの者かな
〈仕切り直し〉
いじめっ子の1人が質問した。
「お前、ここに何しに来た?」
「ぼ、冒険者になりに来た」
「ぼ、冒険者? お前が? 引きこもりの?」
いじめっ子たちは顔を見合わせて、そして。
「「「はっはっは!」」」
大爆笑。3人のいじめっ子は大爆笑した。悪魔のような笑い声。
「お、お、お前が? あの引きこもりのお前が冒険者?」
「無理無理無理無理、絶対無理!だって、ひきこもりだよ?」
「ここまで来ただけでも大冒険だっただろ? 早く帰りな」
その矢継ぎ早に話すところは、熟練パイロットの連携みたいだった。先に言うと、彼らは冒険者としては未熟だった。
「そ、そんなのやってみないとわからないだろ」
「わかるわかる。だってお前、何も勉強していないだろ?」
「魔法、剣術、その他諸々、なーんにも訓練していないだろ?」
「そんな奴がいきなり出来るわけないじゃん」
コオはググッと歯を食いしばって我慢した。自分でも思っていたことを言われたから、何も言えない状態のコオは、睨んで無言の抵抗をしていた。
「なになに? 睨んでいるんですけどー」
「図星でなーんにも言えないのかな?」
「それとも、それがお前の能力か?」
そうヤジってくる3人への凝視をバカらしくなって眉間のしわを緩めると、3人の横に黒フードの者がいることに気づいた。そして、状況を理解した。この黒フードがいじめっ子3人に絡まれていたのだと。
コオは首をクイッと横に振って逃げるように合図した。それを見て、黒フードはその場から去ろうといた。
が、気づかれた。
1人の手がフードを掴む。フードが頭から取れる。顔が見える。
そこには、大変な美人がいた。
周りの野次馬はヒューヒューとハイテンション。アイドルに遭遇したファンみたいな雰囲気だ。一瞬でその場はアイドルのステージみたいにきらびやかになった。
そんな様子を見てコオは一言。
「――あれ? ナオ?」
黒フードの者の正体はナオだった。
かつてのクラスメートたちはそれに気づいた。
気づかれてことにナオは気づいた。
「(ナオは6年前の名残があるが、全体的にスラっとした印象である。髪型や髪の長さも同じくらいである。そういえば黒い服をよく着ている女の子だった。だから気づいたのだろうか?)」
そうコオが思い巡らせている間に、ナオが捕まった。いじめっ子たちは舐め回すようにナオを見つめていた。
「黒いフードで姿を隠す礼儀知らずだから礼儀を教えてやろうと思ったら、お前だったか」
「俺たち、お前のことをズーッと可愛いと思っていたんだぜ」
「俺たちと一緒に冒険しようぜ」
そう高圧的かついやらしく見てくる3人は嫌なものだった。それに対してナオは毅然とした態度で言う。
「嫌よ。わたし、一緒に旅する人がいるのよ」
それはコオたちの知っているナオの雰囲気ではなかった。昔の頼りないふんわりした雰囲気ではなく、しっかりとした凛とした雰囲気だった。
自分の知らないところで立派に成長しているナオを見て、コオは父親の気分になって喜んだ。そして、ナオを立派に導いてくれたであろうその一緒に旅をする人がどんな人なのかと、コオは結婚相手を連れてきた娘の父親の気持ちになった。
「「「だれと一緒に旅に出るんだ?」」」
「……コオよ」
周りはコオを一斉に向いた。
コオは未だに父親の気分に浸っていた。
「そうかそうか。コオと一緒に旅に出るのか。なるほど、そのコオという方はさぞかし立派な方なんだな。そう、俺と同じ名前なのに俺と違って……えっ?」
腕を組みながら頷いていたコオの頷きが止まった。そして、少しずつ視線を上げていった、コオとナオの視線があった。
「よろしくね。コオ」
〈コオは男共に襲われた〉
そこには野次馬が多数いた。
意図せず一瞬で多くの男性を敵に回してしまったコオだった。
フルボッコな上に縄で吊るされたコオをナオが指差す。
「どうしてこんなことするのよ?」
「いや、なんか腹たって」
野次馬どもが反省していた。
「とりあえず、下ろして」
「はい」
コオは野次馬どもに下ろされた。
「大丈夫だった?」
「大丈夫なわけねえだろ!」
〈コオは冒険の前からボロボロだった〉
コオはフラフラになりながら、いじめっ子たちを警戒した。おそらく戦う事になるだろうと予想した。姿はなかった。
「どこだ、どこに隠れている」
そう周りを見るコオの周りに3つの影。
「そこか!」
振り向いた先には、フルボッコにされた3人がいた。
……
「「「……さっきの騒動に巻き込まれた」」」
「……そうか」
コオは三人の肩を同情しながら叩いた。
〈再び仕切り直し〉
1対3で対峙する者たち。
「「「ナオを返し欲しければ、勝負だ」」」
「望むところだ」
〈さっきの出来事はなかったことにした〉
周りの野次馬も何かを取り返そうと熱を込めていた。
「「うらー!」」
いじめっ子2人がコオを狙った。
コオによけられた刀と拳が机と椅子を壊す。
「ちょっ、2人がかりは……」
と言いかけるコオの横を拳くらいの大きさの火の玉が通り、後ろの壁を焦がす。コオの目先にはもう1人のいじめっ子。
「3人がかりは卑怯だぞ!」
コオの文句もなんのその、いじめっ子は連携攻撃を繰り返した。最初に剣で襲い、次に拳で追撃して、それでもダメなら魔法で攻撃する。それに対して、コオは逃げて逃げて逃げるしかなかった。
「ちょっとちょっとちょっと、待って待って待って!」
待たずに攻撃を繰り返す3人。器用に避ける1人。
「ジウ、助けてくれ」
その言葉を聞いたジウは前に出た。その姿はいかにも救世主みたいな希望の雰囲気をまとっていた。そして言葉をかける。
「コオ。これは試練だ。自力で乗り越えろ!」
「え?」
〈コオに火の玉がクリーンヒットした〉
コオはダメージを受けてアチャアチャと叫び、のたうち回っていた。
「なんでだよ!」
「皆の前で見栄張ったのに、僕に助けを求めるのは良くないよ」
「はぐっ!」
〈コオは言い返せなかった〉
ジウはその様子とともに、ナオの方に目線を移して考えた。
「それにだ」
「ん?」
「困っている人を助けるのが、冒険者の仕事だろ?」
ジウはニヤリとしながら言った。それを見てコオもニヤリとして思った。
「(俺、冒険者になりたいわけじゃないんだよー)」
〈コオは心の中で泣いていた〉
ジウに見えないように涙を流すコオは思う。
「(俺、ただ単に家から追い出されただけだから。引きこもりをしていただけだから。魔王退治とか困っている人を助けるとか、そんな高尚な考えは持っていないから。ただ単に巻き込まれただけだから。この騒動に、この時代に、この世界に巻き込まれただけだから。だから助けて欲しいのですけど)」
コオは別の人に助けを求めようとした。しかし、引きこもりの性で、一度目の断りで心が折れてしまって頼めなかった。しかも、知らない人に話しかけることはハードルが高い。そういうことが影響して、ただただ1人で避け続けるだけ。
届きそうになった剣をコオは柱によじ登って避けた。剣は柱に刺さり、ヒビを入れた。第二陣が柱を走ってくる。そのものから繰り出されるパンチは柱に衝撃を与えた。足を腹筋で上げて避けたコオの下では、剣によってできたヒビが大きくなった。そして、第三陣の火の玉が飛んできた。それまたコオは器用なことに、柱に足をかけて腹筋で上体を起こして回避した。火の玉は柱に衝撃にを与えて、剣によるヒビをさらに大きくして、ついに。
柱は倒れ始めた。
「え? え? 嘘?」
コオは柱に捕まりながら一緒に倒れてきた。その先には剣の使い手がびっくりした顔でコオを見ていた。
「「あああーーー!」」
柱は倒れた。
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